第16話 『A trouble in Sunday (2)』
身長162センチの“りん”と145センチの“のどか”。
男装中のこの二人は、他人の目にはどう映るだろうか。
高校生の友だち同士・・・には見えないかもしれない。
ひょっとすると“兄弟”・・・ヘタすれば“兄妹”・・・に見えるのではないだろうか。
和宏は、そんなことを考えながら、そのことを口に出さないように努めた。
これ以上、のどかを刺激しないための合理的判断である。
時間がちょうど10時になり、噴水前の広場の大時計から、10時を知らせるメロディが流れた。
もともとの待ち合わせ時刻だ。
「・・・さて、和宏はどっか行きたいところあるかい?」
「ん〜、ゲーセン・・・とか。」
男子高校生が、休日に遊ぶところと言ったらゲーセンでしょう・・・と和宏は思う。
部活の帰りにも、ちょくちょく友だちと一緒に立ち寄っては腕を磨いたものだ。
「んじゃ、ショッピングセンターの中のゲームコーナーに行ってみようか。」
二人は、駅から発着している、ショッピングセンター行きのバスに乗った。
バスに揺られること10分。
到着したのは、昨年オープンしたばかりの、郊外型の大型ショッピングセンターだ。
店内には、さまざまな種類の店が揃っているので、1日いても退屈することはないだろう。
その中にあって、“アミューズメントパーク”と銘打たれたゲームコーナーには、開店して間がない時間であるからか、まだわずかばかりの客しかいなかった。
所狭しと並ぶ大型筐体のゲーム。
UFOキャッチャー系の筐体。
コインゲームの筐体。
それらの数多くの筐体のうち、格闘ゲームとレースゲームにしか興味のない和宏は、キョロキョロしながら、それらしいゲームを物色し始めた。
そんな和宏の後ろを、異常に物珍しそうな表情でキョロキョロしているのどかは、初めてゲームセンターに連れてこられた子どものようにも見える。
「・・・ひょっとして、初めて?」
「うーん。初めてってことはないけど・・・ものすごい久しぶりかもしれないね。」
「じゃあ・・・アレやってみるか?」
和宏が指差したのは、リアルな操作感でラリーレースを楽しめる“ラリーインテグラル”というゲームだった。
5速までのシフト操作、後はアクセルとブレーキしかないので、初めてでも充分に楽しめるだろう。
のどかは、少し緊張した顔つきで「うん。」と言ってシートに座り、和宏も隣のシートに座って、コインを投入し、エントリーしてからレースを待つ。
「和宏は、コレやったことある?」
「あるよ。そんなにやりこんでないけど。」
「コツは?」
「慣れ。」
からかわれていると思ったのか、のどかは口を尖らせて、視線を画面に戻した。
別に、和宏だって、からかって言ったわけではない。
実際のところ、ゲームなんて、そんなものだから仕方がないのである。
やがて、画面上のシグナルが青に変わり、レースがスタートした。
二人とも、スムーズに加速してスピードに乗っていく。
ただ、和宏の軽快なハンドル捌きとは対照的に、のどかのそれはたどたどしい。
他車を避ける度にハンドルを切りすぎて、自車が右へ左へブレまくっていた。
だが、のどかの表情は真剣そのものだ。
和宏は、ハンドルを握ったまま、隣のシートののどかをチラチラする。
ゲーム終了後に、肩が凝ってしまうのではないか・・・というほど、全身に力が入っているのどか。
レースは中盤に差し掛かり、のどかの車は、和宏の車に、かなり大差を付けられてしまっていた。
それでも、少しずつ差を縮めるべくスピードアップしようとしたのどかの車が、カーブを曲がりそこねて、激しくクラッシュする。
車が横転するほどの大惨事だ。
もちろん、のどか自身がケガをするわけもなく、画面上の車も何事もなかったかのように、また走り始める。
・・・しかし、その走り始めた方向は・・・逆だった。
画面上には、“逆走中”であることを示す矢印が点滅しているが、のどかは気にしていないかのように車を走らせる。
隣の和宏が、のどかに「逆走してんぞ。」と教えてやるのだが、のどかは、画面を凝視したまま「話しかけないで。気が散る。」と答える始末。
和宏は、「ヤレヤレ・・・。」と呟きながら、思った。
(コイツ・・・天然だな・・・。)
とうとう残りタイムが底をつき、二人ともゲームオーバーになってしまった。
シートから立ち上がりながら、のどかがぼやく。
「ふぇ〜、難しいな・・・コレ。」
「いやいや、初めてのワリには結構うまかったと思うよ。でも・・・最後に逆走してただろ?」
「・・・逆走?」
のどかは、「何のこと?」って感じで首を傾げる。
「いや、コースを逆に走ってたじゃん。」
「・・・まさか。」
「イヤイヤイヤ、『まさか』じゃなくて。“Uターンしなさい”って矢印が出てただろ?」
何故か、腕組みをして、首を傾げながら考え込むのどか。
3秒ほどして、まるで豆電球が光ったかのように、手を叩く。
「そうか!あの矢印はそういうイミだったのか!」
(ぅぉ〜ぃ・・・)
和宏は、急に脱力感に見舞われ、がっくりとしゃがみこんでしまった。
「ど、どうしたんだい?」
「・・・なんでもねぇよ・・・。」
「?・・・ヘンなの?」
(ヘンなのはお前だ!)
和宏は、心の中で力一杯突っ込んだ。