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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第一部(改訂中)
17/177

第16話 『A trouble in Sunday (2)』

身長162センチの“りん”と145センチの“のどか”。

男装中のこの二人は、他人の目にはどう映るだろうか。

高校生の友だち同士・・・には見えないかもしれない。

ひょっとすると“兄弟”・・・ヘタすれば“兄妹”・・・に見えるのではないだろうか。

和宏は、そんなことを考えながら、そのことを口に出さないように努めた。

これ以上、のどかを刺激しないための合理的判断である。


時間がちょうど10時になり、噴水前の広場の大時計から、10時を知らせるメロディが流れた。

もともとの待ち合わせ時刻だ。


「・・・さて、和宏はどっか行きたいところあるかい?」


「ん〜、ゲーセン・・・とか。」


男子高校生が、休日に遊ぶところと言ったらゲーセンでしょう・・・と和宏は思う。

部活の帰りにも、ちょくちょく友だちと一緒に立ち寄っては腕を磨いたものだ。


「んじゃ、ショッピングセンターの中のゲームコーナーに行ってみようか。」


二人は、駅から発着している、ショッピングセンター行きのバスに乗った。

バスに揺られること10分。

到着したのは、昨年オープンしたばかりの、郊外型の大型ショッピングセンターだ。

店内には、さまざまな種類の店が揃っているので、1日いても退屈することはないだろう。

その中にあって、“アミューズメントパーク”と銘打たれたゲームコーナーには、開店して間がない時間であるからか、まだわずかばかりの客しかいなかった。


所狭しと並ぶ大型筐体のゲーム。

UFOキャッチャー系の筐体。

コインゲームの筐体。


それらの数多くの筐体のうち、格闘ゲームとレースゲームにしか興味のない和宏は、キョロキョロしながら、それらしいゲームを物色し始めた。

そんな和宏の後ろを、異常に物珍しそうな表情でキョロキョロしているのどかは、初めてゲームセンターに連れてこられた子どものようにも見える。


「・・・ひょっとして、初めて?」


「うーん。初めてってことはないけど・・・ものすごい久しぶりかもしれないね。」


「じゃあ・・・アレやってみるか?」


和宏が指差したのは、リアルな操作感でラリーレースを楽しめる“ラリーインテグラル”というゲームだった。

5速までのシフト操作、後はアクセルとブレーキしかないので、初めてでも充分に楽しめるだろう。

のどかは、少し緊張した顔つきで「うん。」と言ってシートに座り、和宏も隣のシートに座って、コインを投入し、エントリーしてからレースを待つ。


「和宏は、コレやったことある?」


「あるよ。そんなにやりこんでないけど。」


「コツは?」


「慣れ。」


からかわれていると思ったのか、のどかは口を尖らせて、視線を画面に戻した。

別に、和宏だって、からかって言ったわけではない。

実際のところ、ゲームなんて、そんなものだから仕方がないのである。


やがて、画面上のシグナルが青に変わり、レースがスタートした。

二人とも、スムーズに加速してスピードに乗っていく。

ただ、和宏の軽快なハンドル捌きとは対照的に、のどかのそれはたどたどしい。

他車を避ける度にハンドルを切りすぎて、自車が右へ左へブレまくっていた。


だが、のどかの表情は真剣そのものだ。

和宏は、ハンドルを握ったまま、隣のシートののどかをチラチラする。

ゲーム終了後に、肩が凝ってしまうのではないか・・・というほど、全身に力が入っているのどか。


レースは中盤に差し掛かり、のどかの車は、和宏の車に、かなり大差を付けられてしまっていた。

それでも、少しずつ差を縮めるべくスピードアップしようとしたのどかの車が、カーブを曲がりそこねて、激しくクラッシュする。

車が横転するほどの大惨事だ。

もちろん、のどか自身がケガをするわけもなく、画面上の車も何事もなかったかのように、また走り始める。

・・・しかし、その走り始めた方向は・・・逆だった。


画面上には、“逆走中”であることを示す矢印が点滅しているが、のどかは気にしていないかのように車を走らせる。

隣の和宏が、のどかに「逆走してんぞ。」と教えてやるのだが、のどかは、画面を凝視したまま「話しかけないで。気が散る。」と答える始末。

和宏は、「ヤレヤレ・・・。」と呟きながら、思った。


(コイツ・・・天然だな・・・。)


とうとう残りタイムが底をつき、二人ともゲームオーバーになってしまった。

シートから立ち上がりながら、のどかがぼやく。


「ふぇ〜、難しいな・・・コレ。」


「いやいや、初めてのワリには結構うまかったと思うよ。でも・・・最後に逆走してただろ?」


「・・・逆走?」


のどかは、「何のこと?」って感じで首を傾げる。


「いや、コースを逆に走ってたじゃん。」


「・・・まさか。」


「イヤイヤイヤ、『まさか』じゃなくて。“Uターンしなさい”って矢印が出てただろ?」


何故か、腕組みをして、首を傾げながら考え込むのどか。

3秒ほどして、まるで豆電球が光ったかのように、手を叩く。


「そうか!あの矢印はそういうイミだったのか!」


(ぅぉ〜ぃ・・・)


和宏は、急に脱力感に見舞われ、がっくりとしゃがみこんでしまった。


「ど、どうしたんだい?」


「・・・なんでもねぇよ・・・。」


「?・・・ヘンなの?」


(ヘンなのはお前だ!)


和宏は、心の中で力一杯突っ込んだ。

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