第15話 『A trouble in Sunday (1)』
日曜日は、当然学校が休みである。
しかも、天気は快晴とくれば、和宏でなくとも出かけざるを得まい。
和宏は、電車で1時間かかる街にやってきた。
さして大きくはない街だが、なにせ遠いので、同じ高校の連中に会うことはまずないだろう。
もちろん、わざわざこんな場所に来たのもソレが狙いだ。
改札をくぐり、駅の外に出ると、5月の太陽の、あまり強くない日差し。
和宏は、ズボンのポケットに両手を突っ込みながら、待ち合わせ場所である“駅前の噴水”を目指した。
待ち合わせ時間は10時ジャスト。
現在時刻は9時40分なので、時間的には余裕である。
探すまでもなく、駅前の噴水は見つけることが出来た。
定期的に水が噴き出すそれは、初夏の持つ爽やかさを強調するかのようだ。
そして、噴水の周りにたむろする灰色の鳩たちを掻き分けながら、和宏は噴水のヘリに腰掛けた。
レディースながら、飾り気の少ないシンプルな黒いスニーカー。
少しミリタリーテーストの入った、ダボダボのダークグレーのカーゴパンツ。
青と黒のタータンチェック柄の長袖のボタンダウンシャツもまた、ズボンと同様にダボダボだ。
そして、ロングヘアが全て押し込められた、“ソルティードッグズ”の帽子。
全体的にダボダボの服装で統一しているのは、身体のラインがわからないようにするためだ。
さらに、念には念を入れて、小さめのスポーツブラを使って胸が目立たないようにしている。
この服装ならば、一目で“女”とわかることはないはずだ。
少なくとも、遠目には“男”にしか見えないだろう。
和宏は、少し大げさに足を組んだ。
学校ではスカートだから、こんな格好は出来ないが、男に化けている今なら問題なく出来る。
(ああ、なんかスゲェ開放感・・・。のどかのヤツ、いいこと考え付くなぁ。)
のどかの言う“提案”とは、一日どこか遠くで男装して遊ぼう・・・と言うことだった。
確かに、女の子の演技を強要されるような羽目になって、ストレスを溜めていた和宏にとっては、ちょうど良いストレス解消になりそうだ。
(さて、のどかはどんな格好で来るかな?)
あの童顔と身長で、どんな男装が出来るだろうか。
和宏は、アレコレ考えてはみるものの、結局想像がつかなかった。
そんな考え事をしながら、下を向いていた和宏に、突然聞き覚えのある声が投げかけられた。
「・・・お待たせ。」
和宏が顔を上げると・・・目の前にのどかが立っていた。
だが、「おはよう。」の一言すら出てこない。
なぜならば、和宏の目は“点”になっていたからだ。
(・・・オーバーオール・・・?)
デニム生地の青いオーバーオールに、上はグレーのパーカー。
和宏と同じく、身体のラインがわからないように、サイズが大きめのものを着ているようだが、大きすぎて足も腕も2回ほど折り返している。
それがまた、のどかの“特徴”を、さらに強調していた。
「あのさ・・・それしか服、なかったのか?」
あいさつすらすっ飛ばしての一言がコレである。
そんな失礼千万な和宏に対して、怒りもせずに赤い顔をして俯きがちになるのどか。
どうやら、のどかにも“その自覚”があるようだ。
「・・・イヤ。いろいろと試したんだけど・・・どれも“男”に見えなくて・・・。」
それで、オーバーオールになったということらしい。
そのオーバーオールのおかげかどうかはともかく、髪の毛を紺色の帽子の中に隠していることも手伝って、確かに“男”に見えなくもない。
しかし、和宏は、込み上げてくる笑いを堪えるのが精一杯だ。
「確かに“男”に見えるけどさ・・・どっちかってぇと“男の子”だろ、そのカッコ。)
そうなのだ。
ただでさえ145センチしかない身長。
パッと見は小学生・・・どう頑張っても、せいぜい中学生にしか見えない。
和宏は、まるで怒られてシュンとしているようなのどかを見て、ついに吹き出してしまった。
しかし、無神経に大笑いする和宏に、のどかの怒りゲージがぐんぐん上がっていく。
「か〜ず〜ひ〜ろ〜?一体わたしは誰のためにこんなことをしているのかな〜?」
腕組みをして、口をへの字に曲げて、大きな瞳で和宏を睨みつけるのどか。
その怒りの波動が伝わったのか、和宏は笑うのをムリヤリやめた。
「わ、わかった。ゴメンゴメン。狙ってんのかと思って。」
「狙うかっ!」




