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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第一部(改訂中)
15/177

第14話 『What do I do? (2)』

昼休み。

和宏は、昼食のパンを買うために購買に並んでいた。

だが、その表情は、和宏にしては珍しく、暗く沈んでいた。


結局、その後、沙紀も東子も話しかけてこなかったが、まさか、あの二人が黙るだけで、あんなに空気が重く気まずくなるなんて思いもしなかった。

いつもなら、3人で昼食を食べるところだが、こんな気まずい空気の中で、そんなことはする勇気は、和宏にはない。

仕方なく、昼休みに入ると同時に、逃げるように教室を出てきたのだ。


和宏は、買ったパンを胸に抱え、廊下を歩きながら、盛大なため息をつく。

教室に戻ったとしても居場所がないので、ドコでこのパンを食べようかと途方にくれているのも、ため息をより盛大にする理由だった。


「おや、りんじゃないか。」


下を向いて、トボトボ歩いていた和宏は、聞き覚えのある声に顔を上げる。

前から1人で歩いてきた、のどかの声だった。


「ちょうど良かった。昼休みにA組まで様子を見に行こうと思っていたんだよ。」


「そ、そう・・・。」


「ドコに行くんだい?りんの教室はそっちじゃないだろう?」


購買のある場所から教室に戻るには、渡り廊下を通らなくてはならない。

その反対方向に歩いていた和宏に、のどかが疑問を感じたのは、むしろ当然のことと言えた。


「あぁ・・・うん。」


「?・・・元気ないね。」


凹んでいる最中なのだから、元気がなくて当たり前である。

のどかは、元気のない和宏の顔を、しばらく「じーっ」と見つめてから、ニコッと笑った。


「・・・ま、話を聞かせてもらおうか。お昼でも食べながら。」


「お昼を食べながら?」


「そ。昨日の場所で待っててよ。わたしも弁当を持ってくるから。」


“昨日の場所”とは、もちろん裏山のことだろう。

のどかは、呆気にとられる和宏を残して、スタスタと教室に戻っていった。




裏山の茂みの裏には、まるでイスのような切り株がある。

それも二つ。

まさに、おあつらえ向きの自然の食卓テーブルだ。


空を見上げると、今日もよく晴れている。

こんな日は、身体を思い切り動かしたい・・・と和宏は思った。


程なく、のどかが斜面を登ってきた。

手に抱えているのは、可愛らしいほど小さい弁当箱である。


「お待たせ。」


和宏としては、それほど待ったわけでもなく、むしろ思ったより早く来たなぁ・・・という感じだ。

よく見ると、のどかの息がかすかに切れている。


「ひょっとして・・・走ってきた?」


「ん、まぁ・・・和宏がお腹すかせてるかなぁと思ってね。」


そう言って、のどかは「テヘヘ」という感じで笑った。

もともと童顔なだけに、こういう無邪気な笑顔は本当によく似合っている。


「さ、座って食べようか。」


そんなのどかの言葉を合図にするかのように、和宏は座ってパンの袋を開ける。

当ののどかは、スカートのポケットからハンカチを取り出して、切り株の上に広げてから座った。

まるで、本当の女の子のような仕草だ。


「・・・どうかした?」


「いや・・・ハンカチなんか敷くから・・・。」


「ああ。・・・実は結構スカートが汚れるんだよね。・・・見てごらんよ。」


和宏は、立ち上がって、身体をねじりながら、スカートの尻の部分を凝視する。

確かに、スカートと切り株が接していた部分に、木屑のような汚れが目立っていた。


「おわっ!マジだ。ちょっと先に言ってくれよ〜。」


「アハハ。だって注意する前に座っちゃったじゃないか。」


慌ててパンパンと汚れを払う和宏を見て、愉快そうに笑うのどか。

あの落ち込んでいた気分が、少し晴れてきたような気がする。


そんなユルい空気の中、昼食を食べ終わった二人は、何気なく空を眺めていた。

5月晴れの空に、風がそよそよ吹いていて、気持ちがいい。


「少しは気が晴れたかな?」


「・・・うーん。」


「・・・。」


「・・・“りん”ってさ、あの二人とどういう接し方してたかわかるか?」


もちろん、“あの二人”というのは、沙紀と東子のことである。


「・・・う〜ん。三人一緒のところはよく見かけたけど、あまり細かいことまではわからないな。」


「・・・だろうな。」


そう言って、また浮かない表情に戻る和宏。

あの気まずい雰囲気を思い出すと、ブルーな気持ちがさらに倍増しそうだ。


「気になっているのは、あの篠原さんと阿部さんのことかい?」


「・・・ま、それもあるし、女の子の演技をしている自分にイラつくっていうのもあるし・・・。」


「・・・。」


「正直、どうすりゃいいのかわかんなくなちゃったよ・・・。」


思い悩んでいる様子がはっきりと窺い知れる“りん”の横顔。

端正な顔立ちで、憂いを帯びた表情は、男の持つ“守ってやりたい”感を大いに刺激しそうなものだった。

もちろん、和宏には、今の自分の表情がそんな表情だとは知る由もない。

のどかは、その横顔を見ながら、右親指を口につけて、何かを考えていたが、急に何かを思いついたように口を開いた。


「あさっての日曜日・・・ヒマ?」


「へ?」


和宏は、突拍子のないことを言い出したのどかを、驚きながら見やる。

そののどかは、小悪魔的に微笑んでいた。


「ちょっと・・・提案があるんだけど。」


「・・・提案?」


「耳貸して。」


人差し指で「来い来い」のジェスチャーをするのどか。

和宏は、のどかの身長に合わせて少しかがむと、のどかは、和宏の耳にごにょごにょと何事かを耳打ちした。

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