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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第三部
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第128話 『学園祭・前編 ~サプライズイベント~ (4)』

2年A組の教室では、熱狂的な騒ぎがまだ続いていた。

もう放課後だというのに、不釣合いなほどの大騒ぎが。


「それじゃ、りんさん。拳銃おもちゃを構えて『逮捕しちゃうぞ♪』と言いながら笑顔をコッチにください♪」


(大概にしろぉっ! ボゲェッ!)


婦人警官の衣装を纏った“りん”に、またも栞からムチャ振りが飛んできた。

ちなみに看護婦の衣装の時は、注射を片手に「おイタしちゃダメよ♪」だった。


それはともかくとしても……栞の言い方がだんだん業界人っぽくなってきたのはどういうことだろうか。

おまけに、流れるようなカメラワークはプロ顔負けだ。

教室の熱狂が栞のカメラマン魂を後押しするかのごとく、撮影会は熱く進んでいった。


 ◇


「やっと終わったぁ……」


最後の婦人警官の衣装から、普段の制服に着替え終わった“りん”は、ぐったりと椅子に腰掛けながら呟いた。


カーテンで仕切られた、例の簡易更衣室の中。

その中には、撮影が進むとともに、他の女子が一人、また一人と入って来たため、今ではもうA組の女子全員が集まっていた。

もちろん、そこに男子が入ってくる余地はない。


「お疲れ様です~りんさん」


笑顔で“りん”を労う栞。

疲れたのはお前のムチャ振りのせいなんだが……と“りん”はヒクヒクと笑った。


「でも楽しかったねっ♪ 良い写真撮れた? シオリン♪」


「もちろんです! このお父様から借りてきた一眼レフカメラで激写しましたから!」


激写って言うな。なんかエロいから。

と和宏は思ったが、特段誰も気にしている様子はなく笑っていた。


「それじゃあさ……後は、どの写真にするかだね」


上野が、衣装を片付けながらそう言った。

フォトコンテストにエントリーできるのは一クラスにつき一枚のみ。

今日撮った写真の中から、エントリーするための写真を選ばなくてはならない。


「アタシならチアリーダーかな。活動的な感じがりんっぽかったと思うんだけどっ♪」


「でも、りんは応援するよりされる方が似合うわね。看護婦なんか良かったんじゃない? 医療事故の一つや二つ起こしそうだけど」


(瀕死の患者にアイアンクローかましそうなオマエに言われたくねぇよ……)


東子と沙紀が私見を述べると、他のみんなも我先にと意見を出し始めた。


「客室乗務員よ! “アテンションプリーズ”が可愛いスギ~♪」

「婦人警官が良かったんじゃない? ちょっと逮捕されたいって思っちゃった♪」

「巫女服似合ってたよね。なんか悪霊を三振に取ってくれそう♪」


よくわからない他愛のない意見がつらつらと並んでいく。

そこへ、高木が恐縮そうに口を挟んだ。


「ごめん。ちょっといい?」


控えめに右手を挙げた高木に、みんながおしゃべりを止めて注目した。


以前の、どこか斜に構えて他人と距離を取っていた高木なら、こういうくだらないバカ騒ぎには乗ってこなかったはずだ。

だが、右足のケガの件が吹っ切れてからは、みんなの会話によく乗ってくるようになっていた。

もちろん、そういう高木の変化に対する皆の受け止め方は、概ね好意的だった。


「彩が言ってたんだけどね。萱坂さんは男の子っぽい格好がすごく似合うんだって」


どこからともなく上がった、へぇ……という感心したような声。

高木と彩は親友同士である。

おそらく、“りん”と彩が一緒に遊園地に行った時の“りん”の服装(第66話参照)のことを彩から聞いているのだろう。


「だから……男の子の制服を着てみたらどうかな?」


「男の子の制服って……あの学生服のことかしら?」


高木は、沙紀に向かってコクリと頷いた。


鳳鳴高校の男子生徒の制服は、非常にオーソドックスなタイプの学生服である。

黒生地に金色の校章入りボタン。

ズボンは、ワンタックまで校則で許可されている。


「なるほどね~。じゃあ……着てみようか?」


「え?」


上野は、イタズラっぽく笑いながら、衣装の入った袋の一つを引き寄せた。

その中から出てきたのは……まさしく“学生服”。


「な、なんで持ってんだ~っ!?」


「使わないかと思ったんだけど、持ってきて良かったわ~♪」


上野は、それを“りん”に手渡した。

手渡された学生服を“りん”が目の前に広げてみると……なんとも懐かしい感じである。

“瀬乃江和宏”の通っていた城南高校でも、男子の制服は同様の学生服だった。

以前は毎日のようにコレを着ていたはずなのに……という思いが、妙に感慨深い。


「それじゃ、コレで最後ってことで……いいわよね、りん?」


「あ……う、うん」


“りん”は、少し呆けた感じで頷いた。


 ◇


ズボンを履いて、上着を羽織る。

全体的にぶかぶかしている上、袖や裾がかなり余ったのは、男のサイズということで仕方あるまい。

長すぎる部分は折り曲げて取り繕って……着替え完了だ。


「ぅわ……」


着替えが完了すると同時に聞こえてきたのは、誰のものともわからない感嘆符のような声。

学生服姿の“りん”を取り囲むように、皆からの驚きの眼差しが向けられた。

まるで、一瞬だけ時間が止まったように。


「アンタ……前世“男”?」


現世で男だけどな! ……と、和宏は心の中だけで沙紀の台詞ボケに突っ込んだ。

やもすれば非常に失礼に当たる沙紀の台詞だったが、その台詞に何人かがコクコクと頷いたところをみると、この“りん”の学生服姿がいかにハマッているかがわかろうかというもの。


「うっわぁ……。これでゴバン三杯くらいいけちゃうねっ♪」と東子。


(食いすぎだろっ!)


「ああ……もうダメ。汁が出そう……」と高木。


(なんのーっ!?)


みんな、驚きながらイカれた台詞ボケをかましていく。

いちいち突っ込みを入れるのも大変だ。


「でも……これで決定ね。一年女子の票は総取りよ」


「そ、そうですね。破壊力満点ですよ……これは」


普段の和宏の仕草や動作は、基本的に男子のそれであるため、男装するとやはりハマる。

久しぶりに纏った学生服が、無意識に和宏をそうさせているかもしれない。

ポニーテールだけは隠しようがないため、男子に間違えられることはないだろうが、それを除けば、栞のいうとおり“破壊力満点”の美少年である。

さらに言うなら、サイズが大きくて捲り上げている袖や裾は、男からすれば可愛らしく映りそうだ。


「じゃあ、りんさん! 撮りますよ~! キリッとした顔をくださ~い!」


相変らず業界人のような注文の仕方だった。

だが、和宏は「まぁ、ムリヤリ笑顔を要求されるよりはマシか……」と思いながら、表情を引き締めつつ視線を栞に向けた。


こうして、2年A組がエントリーする写真が決まった。

栞のカメラの腕か、それとも使った一眼レフが良かったのか……出来栄えの良い写真であった。

A組の誰もが「これなら優勝は間違いない!」と思っていた。


“あの写真”を見るまでは――。



――TO BE CONTINUED

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