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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第三部
130/177

第127話 『学園祭・前編 ~サプライズイベント~ (3)』

“クラス対抗ミスフォトコンテスト”なる、鳳鳴高校学園祭のサプライズイベント。

優勝クラスへの賞品は“宿題一週間分免除”。

和宏にとっても魅力的な賞品ではあるが、「そこまで熱くなっていいのか? 高校生が」という醒めた部分もあったりする。

だが、どういうわけか、この賞品をゲットしようという熱気に、クラス全体が毒されてしまっていた。


衝撃のホームルームから一夜明けた翌日……すでに放課後と呼ばれる時間帯のことである。

いつもなら、誰もが部活に行ったり帰宅したりしている時間帯だが、2年A組の教室では、今日に限っては誰一人として教室を出て行こうとしない。

今日は、この教室の中で、注目の“撮影会”があるからだ。


教室の中の一角をカーテンで仕切った簡易更衣室。

そして、その中から出てくるであろう“りん”を、今か今かと待ちわびるその他大勢のクラスメイトたち。

ついでに、昨日同様、教室の隅っこで成り行きを見守っている担任の種田。


そんな光景を、カーテンの隙間からうかがった栞が、おもむろに口を開いた。


「りんさん。準備OKみたいですよ♪」


妙にデラックスなデジタルカメラを両手に持った栞は、上機嫌な笑顔だった。


「こっちもOKだよ~」


おばさんくさいガハハ笑いとダミ声が、これまた上機嫌な雰囲気を醸し出している。

誰が言ったか知らないが、“姉御”かつ“クラスのご意見番”……上野あかりだ。

ちなみに衣装係である。


「……」


そして、仏頂面で椅子に腰掛けている“りん”。

腕組みをしているその姿からは、確実に不機嫌なオーラが漂っていた。


「どうしたんですか? りんさん。そんな固い表情じゃ良い写真にならないじゃないですか」


「そうだよ~りん。ホラ、もっと笑って笑って!」


「……あのさ」


「「……?」」


「誰か他の適任者っていないかな?」


「な……何を言ってるんですか~! 今さら!」


今さらと言えば確かに今さら。

しかし、“りん”にとっては気乗りしないこと甚だしいイベントだ。

“見世物”になる以外の何物でもないのだから。


「“クラス対抗ミスフォトコンテスト”なんですよ? 二年生の各クラスからエントリーされた“女の子の写真”を一同に集めて、投票権を持つ一年生と三年生の得票数で勝敗を決めるんです! そして優勝したクラスへの優勝賞品は……」


「あ~、わかったわかった。宿題一週間分免除……だろ?」


妙に説明的な台詞でコンテストの概要を教えてくれた栞には、誰かが感謝せねばなるまい。

ちなみに、このイベント……実行委員会での発案当初は、写真ではなく生身での参加だったらしい。

しかも水着審査まであったというから驚きだ。(一体誰が審査するというのだろう?)

さすがに女子の実行委員からの反発が強かったため、“フォトコンテスト”という形式がとられたとか。豆知識。


「でもさー、りん? 適任者って他にダレがいるって言うのさ?」


上野は、ダミ声を響かせながら「メッ!」と言わんばかりに人差し指を立てた。

こう言ってはナンだが、おばさん体型の上野には似合わない仕草である。


「え……と。成田さんとか……? 高木さんとか……?」


「なんで疑問形なんですか!?」


いつになく手厳しい栞の突っ込み。

ちなみに、成田さんとは、成田なりた優希ゆうき……女子バレーボール部所属(第25話参照)のカラオケ大好き娘(第61話参照)のことだ。

その顔は、どことなく魚系で、少なくとも美人とは言い難い。もちろん内面はすごく良い娘ではあるのだが。

そして、高木さんとは、高木たかぎまい……右足に古傷を持つ女の子のこと。

その顔は、どちらかといえばかわいい系の顔であるが、やはり十人並みの顔。これまた美人とは言い難かった。


なにしろ、今回は単なるミスコンではなく、写真を使ったミスコンである。

つまり、写真では写らない性格面よりも、どうしても外見の見栄え勝負になってしまうのだ。

結論として、適任者=ビジュアルに優れた女子生徒……ということになる。


「じ、じゃあ……沙紀とか東子とか……」


沙紀は、表情を引き締めれば“美人”と言えなくもない。人を射抜くような切れ長の瞳はMの方にオススメである。

東子は、決して美人ではないが、カワイイ部類に入るのは間違いないだろう。問題はつかみどころのない性格なのだが、幸い今回は性格は問題にならない。


そもそも、和宏の中では“ミスコンなんかで目立ちたくない”という思いが強かった。

男から好奇の目で見られてしまうのが、男としてわかっているからだ。

故に和宏も必死であった……沙紀と東子を身代わりに差し出してしまうほど。


「私ならムリよ」


「アタシもムリ~♪」


沙紀と東子が、カーテンの隙間からスルリと姿を現した。

なかなか“りん”が出てこないことに業を煮やしたのだ。


「ていうかアンタ、なに私たちを生贄に捧げようとしてんのよ?」


ということは、俺はイケニエなのか? ……と和宏は思ったが、もちろんそれは口に出さない。

例え口に出したところで、沙紀はこともなげにこう言うだろう。

決まってるじゃない……と。


「まぁ、実際アタシたちじゃムリだもんっ!」


「な、なんでだよ!?」


「だって、アタシはタレ目だし♪」


「私は胸ないし」


(すげぇ関係ねぇ……)


だめだ。コイツら代わってくれる気ゼロだ。

そう思いながら、すでに内堀と外堀が埋まってしまっていることを和宏は実感した。

仕方あるまい。一度引き受けてしまった以上、こんなさらし者的役目を代わってくれる女子などいるはずないのだから。

無論“りん”の自業自得でもある。


「ささ、時間がもったいないんだから! ちゃっちゃと始めるよ、りん!」


上野が、張り切った表情で、いくつもある紙袋の一つから中身を取り出した。

服……それも、某航空会社の客室乗務員キャビンアテンダントの制服である。


なんでそんな制服がここに? ……という疑問が、瞬く間に和宏の頭の中を占拠する。

上野は、その疑問が出ることをわかっていたかのように、先回りして答えた。


「親戚から借りてきただけなんだけどね。あとはサイズが合うかどうか……とりあえず着てみて」


上野の周りには、他にも衣装の入った紙袋がいくつも並んでいる。

他にどんな衣装が用意されていることやら。

“りん”は、着替えながら、上野に何気なしに聞いてみた。


「他に何があるの?」


「え~とね……。チアリーダーでしょ。看護婦でしょ。巫女服でしょ。あとは婦人警官……」


「ちょ、ちょっと待った! なんなんだ、そのマニアックなラインナップは!?」


「そ~お? 全部親戚から借りてきただけなんだど」


その親戚の方というのは、一体どういったご職業なのでしょうか?

だが、和宏はその疑問を胸の内に留め、あえて聞かないことにした。

何事も、知らない方が良いということが世の中にはあるものだ。


スカートを履いて、ブラウスにリボンを飾り、上着を羽織って、帽子をかぶる。

“りん”は、立派な客室乗務員キャビンアテンダントに変身した。


「おー! 似合う似合う!」


「うわぁ! さすがりんさんですね!」


「ふーん。なんとなく意外ね」


「ホント意外っ! なんか頭良さそうに見えるもんっ♪」


褒められているのか。貶されているのか。

しかし、ここまで来た以上、あとはもう野となれ山となれ……という思いで腹をくくるしかない。


すでに、他のクラスメイトたちは、着替え終わった“りん”が出てくるのを待っている。

そこで、“りん”の姿をみんなに披露しながら栞が撮影する……というわけだ。


「じゃあ、いってらっしゃ~い♪」


“りん”は、上野や沙紀たちが手を振るのを恨めしげな目つきで眺めながら、カーテンを開け、栞とともにみんなの前に出ていった。


おおおぉぉっ!


その瞬間、教室内に大きく響いた歓声。

主に男子たちの。


あちこちから「サイコー♪」とか「カワイー♪」とか「結婚して♪」といった声が上がって、もはやどう収拾をつけてよいのやら。

いや、担任の種田までが手を叩いてハシャいでいるようでは、収拾をつける気すらないのだろう。

そんな中、栞はバカでかいカメラのレンズを“りん”に向けながら言った。


「それじゃりんさん。右手を挙げて『アテンションプリーズ』と言いながら笑ってください♪」


おおおおおおおぉぉぉっ!


さっきよりもさらに大きな歓声が、教室内に響く。

このクラスは馬鹿ばっかりかっ! ……という突っ込みすらヌルく感じるような熱狂。

だが、この期待に応えなくては、確実に“KY”のレッテルを貼られてしまうだろう。


「あ……あてんしょん……ぷりー……ず……」


ああ……死んだ方がマシってくらい恥ずかしい。

“顔から火が出るほど恥ずかしい”ってこれのことだな。

今なら『顔から火が出てるよ』と言われたら『やっぱり?』と答えてしまいそうだ。マジで。


そんなことを考えながら、“りん”は栞の構えるカメラのレンズを虚ろに見つめた。


「りんさ~ん! もうちょっと笑ってくださ~い♪」


異常な盛り上がりをみせる教室の真ん中で、栞が“りん”に向けて容赦なく呑気な注文を飛ばす。

予想のはるか斜め上をいく混沌カオスな状態。

なぜか、その中心に“りん”がいる。

“りん”は、思わずうめき声を上げてしまいそうなほどの恥ずかしさを感じつつ、引きつった笑みを浮かべながら、心の中で愚痴った。


(コレ……一体なんの罰ゲーム?)



――TO BE CONTINUED

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