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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第三部
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第126話 『学園祭・前編 ~サプライズイベント~ (2)』

秋……と言えば学園祭のシーズン。

鳳鳴高校の学園祭も、やはり秋……10月3日に開催されることになっている。

その準備は、約一ヶ月前から各クラスの実行委員を中心にして進められ、学園祭ウィークである今週は、忙しさがピークになるのが例年のパターンだった。


「それでは、今週土曜日に迫った学園祭のサプライズイベントについて、これから説明したいと思います」


午前8時……2年A組の教室。

本来ならホームルームが始まるまでの自由な時間帯のはずだが、どういうわけか栞が教壇から熱弁を振るっている。

その妙な光景に“りん”は思わず首を傾げていた。


「な、なぁ……なんで栞が、前に出てあんなことしゃべってんだ?」


前の座席の沙紀の背中に向かって話しかける“りん”。

もちろん、周りには聞こえぬようヒソヒソ声で。

だが、沙紀から返ってきたのは、声を潜めたスルドイ突っ込みだった。


「アンタねぇ……。この間、栞が立候補してたじゃない!」


「り、立候補?」


「ダメダメ〜。りんはその時寝てたからっ♪」


沙紀が体を捻って真後ろの“りん”と会話をしているところ、当然のように合いの手を入れ来る東子。

東子の席は“りん”の真後ろのため、授業中の“りん”の動静などが一目瞭然なのだ。

その二人が、前後から挟み撃ちで“りん”を攻撃してくる。

それも、かなり容赦なく。


「“三年寝太郎”ね」


「そこはウソでも“三年寝子”にしてあげようよっ♪」


なんだ? このヘンな会話?

冷静にそんなことを思いながら、“りん”は二人をジトリと睨みつけた。


「そんな怖いカオしないでよ~♪」


「そうよ。せっかくの私たちの配慮にケチつける気?」


配慮って……“三年寝子”って言い換えてくれたことだろうか?

そう思った和宏は、口を尖らせながら言った。


「んな配慮いらんわ! それより“立候補”ってなんのことだよ?」


「しょうがないわねぇ」という感じでクスクスと笑う沙紀と東子。

質問に答えたのは東子の方だった。


「学園祭の実行委員のことだよっ♪」


実は、各クラスの学園祭実行委員は年度初めの4月には決まっていたのだが、実際の活動が本格化するのは夏休み明けの9月からなのである。

そして、2年A組の実行委員に決まっていたのは、何を隠そう……夏休みに入ると同時にアメリカに行ってしまった“北村彩”。

必然的に空席になってしまった実行委員の枠に、栞は真っ先に名乗りを上げたのだ。

転入してきたばかりにもかかわらず……だ。

ある意味、非常に栞らしいエピソードと言えるだろう。


「へぇ……。栞もよくやるなぁ、全く」


「そうよね~。野球部のマネージャーと二足のワラジよ」


「でも、シオリンってそういうのスキそうだモンねぇ~っ♪」


そんな感じで“りん”たちがしゃべっている間にも、栞の熱弁は続いている。

ただ、その私語が度を過ぎてしまったのだろう。

栞は、一旦説明をやめて、“りん”の方を向き直した。


「……りんさん。聞いてますか? 大丈夫ですか?」


“りん”に視線を向けた栞が、いつもの銀縁メガネをキラリと光らせた。


「う、うん。大丈夫……じゃないかな……(多分)」


有無を言わせぬ栞の迫力と、話を全く聞いていなかった後ろめたさに、“りん”は愛想笑いとともに相槌を打った。

するとその瞬間……教室内は「おお~っ!?」というどよめきに包まれ、拍手喝采の大騒ぎに。


(な……っ!?)


和宏は思った。

なんとなくだが、また地雷を踏んでしまったような気がする……と。


「良かったです~! 私、りんさんに断られたらどうしようかと思ってました!」


教卓に立つ栞の顔が、一際嬉しそうな笑顔に染まっていた。

“りん”は、沙紀と東子に「どういうことだ?」とアイコンタクトを仕掛けるも、お互い私語に夢中になっていた身……「何のことやら……」というアイコンタクトが返ってくるのみだ。


このままではマズイ! 絶対にマズイ……と、和宏の第六感が全力で警告している。

“りん”は、妙に盛り上がっている周囲の空気を読みつつ、恐る恐る切り出した。


「で……ど、どういうこと……かな?」


恐る恐るというよりも、ビクビクした感じで栞に尋ねる“りん”。

だが、一度乗ってしまったレールから抜け出すのことは容易ではない……ということに気付くまで、さして時間はかからなかった。


「そうですよね! やっぱり優勝賞品が気になりますよね!」


イヤイヤイヤ。今気になっているのはソレじゃなくて……と、冷静に心の中で突っ込むものの、それで状況が変わるはずもない。


「では聞いてください! 優勝賞品はなんと……宿題一週間分免除です!」


ただでさえ見えない話が、ますますグダグダな方に向かっていく。

ところが……この“高校生が諸手を挙げて喜んじゃうのはどーなんだ”的な優勝賞品に、真っ先に反応したのは、同じく事情が飲み込めていないはずの沙紀だった。


「それマジなのっ!?」


(喰いついたーっ!?)


一気にハイテンション突入の沙紀。

この食いつきに気を良くした栞が、ドヤ顔で銀縁メガネをキラリと光らせた。

一体何が反射していることやら。今日は曇り空……太陽は雲に隠れているというのに。


「もちろんマジです。先生方とちゃんと交渉しましたから」


そのような交渉が可能なのか? ……と、教室の誰もが思った。

そんな疑問に一蹴するかのように、栞は左手で胸をバンと叩きながら答えた。


「人は私を“鋼のネゴシエーター”と呼びます」


呼んでねぇよ。

ってか、なんだよハガネって?


と、和宏が突っ込みかけた時……教卓のポジションを栞に譲った後、教室の隅っこに腕組みをして座っていた担任の種田が、遠い目をしながら生徒たちの会話に割り込んできた。


「確かにそういう感じだったな……あの時は」


(あ……マジなんだ)


おそらくその交渉に同席していたのであろう種田の表情が、苦渋に満ちた表情に変わっていく。


一体どんな交渉だったんだろう?

そんな疑問を抱かせるには十分な種田の表情だった。


なんにせよ、担任の種田が否定すらしないということは、この“優勝賞品”は公式に認められたものと思って差し支えなさそうだ。

沙紀もそう思ったらしい。

目を輝かせながら、沙紀は“りん”の肩をバンバン叩いた。


「ちょっと、りんっ! こうなったら優勝よ! よくわからないけどっ!」


“りん”としては、「そういう台詞はよくわかってから言ってください……」と、冷静な突っ込みを入れるべきだったかもしれない。

が、入れたら入れたで無慈悲なアイアンクローが繰り出されてきただろう。

いいからとにかく優勝してきなさいっ! 優勝できなかったらアイアンクローよっ! ……みたいな感じで。

いつものコトながら理不尽な話だ。


とにかく、話が見えていない今の状態では、優勝しようにも何をして良いのやらわからない。

“りん”は、もう一度……熱くなっている周囲の空気に気を払いつつ栞に尋ねた。


「あ、あのさ……。で、何をすればいいのかな……俺」


目をパチクリさせる栞。

そして、人差し指を顎に当てて首を傾げて、ちょっと考えるポーズ。

とはいえ、頭の回転の速い栞のコト……すぐに答えは導き出された。


「そうですね。りんさんは今までどおり、魅力的でステキな女の子でいてくれればいいんじゃないでしょうか」


意味がわからない。

サッパリわからない。

“今までどおり”?

“魅力的”でいたことも、“ステキ”でいたこともないぞ。

一応“女の子”ではあるが……身体だけは。

それなのに、教室全体から「そうそう♪」という相槌を感じるのは何故なんだ?


和宏が、そんな思いに囚われている中、栞はさらに一言付け加えた。


「なんたって“クラス対抗ミスフォトコンテスト”なんですから」



――TO BE CONTINUED

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