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俺、りん  作者: じぇにゅいん
第三部
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第112話 『のどかの正体 (1)』

(う~……、き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛……)


“りん”が目覚めた時、周りは妙に静かだった。


(……?)


目を開けて、最初に飛び込んできたのは、見慣れない木目の天井。

ギシッと音を立ててきしんだベッドも、自宅のベッドより、ちょっと固めのクッションが利いた慣れぬ感触。

それらは、和宏に明らかな違和感を覚えさせた。


(俺……なんでこんなトコにいるんだ?)


寝起きのボケた頭と、二日酔いのようにガンガン痛む頭が、和宏の頭の中を舞台にして盛大なつばぜり合いをしているかのようだ。

その不愉快さに顔をしかめながら、和宏はさっきまでの記憶を辿っていった。


(確か、のんちゃん堂で祝勝会して……ジュース飲んだら急に眠くなって……その後の記憶が妙にあいまいだな……)


もちろん、ジュースの中に睡眠薬か何かが入っていたわけではない。

あの“青りんごスカッシュ”を口にした時に気付いた味は……まさしく“ライムチューハイ”。

つい、勢いで飲み干してしまった(←!?)が、おそらくそのせいでつぶれてしまったに違いない……と和宏は思った。


(それにしてもなぁ。なんでチューハイ一杯くらいで、こんな酔っ払ったんだ……?)


和宏は、まだボケたままの頭の中で自問した。

もともと、父親のウィスキーをこっそり失敬したりしてたこともある“和宏”ではあったが、これほど早く酔いが回ったことは一度もない。


ちなみに、その理由は『異常にアルコールに弱い“りん”の身体』である。

オマケに、炎天下でピッチングをした疲れも、それなりにあったのだろう。


(ところで……、ココどこだ……?)


そう思った“りん”は、周りを見渡してみた。


ポスターなどの余計なものが一切ない殺風景な部屋。

整然と片付けられた勉強机。

教科書や参考書、その他難しそうな本ばかりが立てかけられた本棚。


これまたシンプルなクローゼットの外掛けに、鳳鳴高校の制服……えんじ色のセーラー服がかかっていなかったら、女の子の部屋とは気付かなかったかもしれない。

そう思った時、下の方から「ガラガラ」と引き戸の開く音が聞こえた。

続いて、「いらっしゃいませ~!」という、聞き慣れたのどかの声。


それだけで、ここは“のんちゃん堂”……それも二階なのだということがわかる。

そして、紡ぎ出されるように、祝勝会終了時の記憶が、和宏の頭の中におぼろげに蘇ってきた。


 ◇


『じゃあ、祝勝会は、この辺でお開きにするか!』


キャプテン山崎のお開き宣言。

いつまでも勝利の余韻に浸っていたいところだが、高校生があまり遅くまで飲み食いして大騒ぎしているワケにもいくまい。

みな、山崎に倣うように、一斉に立ち上がり始めた。


『そうね。充分楽しんだし(りんと大村くんで)』


『な~んか、微笑ましかったねっ♪(りんと大村くんが)』


沙紀と東子の台詞であるが、何を楽しんで、何が微笑ましかったのか……途中の記憶がない(寝ていたのだから当たり前だが)和宏にとってはサッパリだ。

だが、相当楽しい祝勝会だったのは間違いなさそうだった。


『でも、萱坂さんはどうする? 連れて帰らないと……』


『じゃあ、大村が連れてってくれよ』


『ええっ!?』


『いいわね~……ソレ』


『じゃあ、大村くん。お姫様抱っこでお願いねっ♪』


なんというこっ恥ずかしい話であろうか……それも和宏の与り知らぬところで。

だが、確かに、あの筋肉質の大村の腕力なら“りん”を持ち上げるくらいは簡単なはずだ。


(やめろよな……マジで……)


相変らず、沙紀と東子は無責任にはやし立ててくれる。

困ったもんだ……そう思いながら、“りん”はため息をついた。

だが、結局、最終的にはのどかが気を利かせてくれたらしい。


『大丈夫。後でウチの車(のんちゃん号)で送っていくから』


のどか……グッジョブ。

和宏は、おぼろげな記憶の中ののどかに感謝した。


 ◇


蘇った和宏の記憶も、あちこち抜け落ちてはいるが、大体こんなやりとりがされていたようだ。

もう、山崎や大村たち、沙紀も東子も帰ってしまったようだが、のどかがいるなら心配はいらないだろう。

ならば、まだ気分も優れないことだし、もう一眠りしておくか……と、ベッドの上で横になったままの“りん”は、目を瞑ろうとしたところ、あることに気付いた。


(……ここは二階……ということは……!?)


“りん”は、もう一度周りを見渡した。


(ひょっとして……のどかの部屋……?)


見れば見るほど整理整頓の行き届いた部屋……悪く言うなら殺風景な部屋だ。

女の子の部屋らしいヌイグルミとか、ファンシーグッズとかは一切見当たらない。


(まぁ、中身は“男”なんだから、そんなモンなくて当然だけどな……)


そんなことを考えながら、もう一度、勉強机に視線を移すと、その机の上に写真立てが飾られていることに“りん”は気付いた。


ベッドの上で上半身を起こしてみると、まるで二日酔いのような気だるさが、“りん”の全身にズシリとのしかかってくる。


(うぅ~……。気持ち悪ぅ~……)


だるさと吐き気を堪えつつ、なんとかベッドから立ち上がった“りん”は、勉強机の上の写真立てを手に取った。


一人は女の子……のどかにソックリな女の子だ。

というよりも、これはおそらく本人に間違いあるまい。

その顔が、今ののどかより少々幼く見えるのは、何年か前に撮った写真だからだろう。


そして、もう一人は……高校生くらいの男。

センター分けされた、見るからにサラサラな黒髪に、形の良い目や鼻などの顔のパーツが、バランスよく配置されている。

この顔が“イケメン”かどうか、と人に聞けば、誰でもイエスと答えるであろう整った顔立ちだった。


(……あれ?)


“りん”は、この写真に魅入られたかのように凝視した。

この男の顔……一瞬、見たことのあるような顔に感じたからだ。

だが、“りん”の記憶まで手繰ってみても、やはりこの顔には見覚えはない。


(気のせいか……)


男の顔を凝視するのをやめると、自然にのどかの顔も“りん”の視界に入ってきた。

二人とも、はじけるような笑顔をしているのが印象的だった。


(それにしてもコイツ……何者なんだ?)


“りん”は、写真の男の方に向かって呟いた。


のどかは、あまり笑わない。

いや……というよりも、こんな無防備な笑顔を人前では決して見せないと言った方が正解だろう。

屈託なく笑うのは、和宏りんの前でだけだ。


それなのに、写真の中ののどかは、この見知らぬ男のとなりで、無邪気な笑顔で笑っている――。


和宏は、心の中で、モヤモヤした“何か”がうごめくのを感じた。



――TO BE CONTINUED

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