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元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。  作者: 新城かいり
第四章 聖女の真実

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第四十四話


「――は?」


 マルセルさんは目を剥き、己の脚をゆっくりと見下ろす。

 そして握っていた長剣を取り落とし、呻き声を上げながらその場にがくりと膝を着いた。


 何が起きたのかわからなかった。

 わかるのは、焦げたような鼻につく匂いと、先生の手元から立ち昇る白い煙。


「貴方に、もう来世はありません」


 私の前でむくりと起き上がったユリウス先生の手には、見たことのない筒状の武器が握られていた。

 ――いや、知っている。私はその武器に憶えがあった。


「それは……そんな、馬鹿な」


 脚を押さえ驚愕している様子のマルセルさんに、先生は立ち上がりながら冷静な声音で答える。


「そう。これは拳銃という異世界の武器です。この世界にも一応銃はありますが、まだここまで小型化はされていません。ひとつ前の前世で気に入りましてね、僕なりに作ってみたのですよ。まぁ、威力はまだ完全ではないですが」


 先生は彼にその銃口を向けながら続ける。


「このときを待っていたのは僕も同じです。貴方を炙り出したかったのですよ。まんまと引っかかってくれましたね。彼女にしつこく付きまとっていた【呪い】」


 パンっと、もう一度あの音が鳴り響く。


「ぎゃああああっ!!」


 先ほどとは違う方の脚を押さえ、マルセルさんはもんどりうってその場に転がり苦悶の絶叫を上げた。


「もうこれで立ち上がれないでしょう? 待っていてください。今とどめを刺して差し上げます」


 先生は拳銃を腰に仕舞うと足元に落ちていた聖剣を拾い彼の前に掲げて見せた。


「貴方にはやはり、これが一番効くのでしょうから」


 マルセルさんはそれを見て怯えた顔をすると、近づいて来る先生から手を使い後退りした。


「や、やめろ……」

「哀れな魂たちよ。これでどうか安らかに眠ってください。――そしてもう二度と、彼女に近づかないでください」


 低い声音と共に、なんの躊躇いもなく先生はマルセルさんの胸に聖剣を突き刺した。

 ――瞬間、聖剣が薔薇色に光輝いた。


「ぎゃああああああーーーー!!」


 その場の空気を震わすような恐ろしい断末魔の叫びが夜の森に響き渡る。

 薔薇色の輝きはどんどん強さを増し、それと同時に彼の身体から何か黒い煙のようなものがいくつも抜け出て天へと昇っていくのを見た気がした。




 光が消え失せ、マルセルさんの身体はぴくりとも動かなくなった。

 先生はそれを確認し彼の身体から聖剣を引き抜いた。途端、パキンっと音を立て聖剣は真っ二つに折れてしまった。……これで漸く役目を終えたというように。


 その音でハッと我に返ったらしいリュシアン様はマルセルさんの元へと駆け寄る。


「マルセル……? マルセル!」

「大丈夫です。聖剣が貫いたのは彼に憑いていた【呪い】ですから」


 先生はどこからか布を取り出し、手慣れた様子で拳銃で傷ついた脚を強く縛っていく。


「前世の記憶はおそらく消えていると思いますが。今すぐに病院に連れていけば命に別状はないと思いますよ。――ローレン大佐。手配をお願いできますか?」

「ローレン大佐!?」

「ローレン大佐!?」


 ひっくり返ったような声を上げたのはアンナとイザベラだ。

 そうして、ガサリと叢を割って出てきたのは昨日話したばかりの彼だった。

 肩を竦め、飄々とした態度でローレン大佐が言う。


「な~んだなぁ、やっぱり気付いていやがったのか」

「良く言いますよ。気配全く消していなかったじゃないですか」

「お前のくっさい芝居を笑わずに静か~に見守ってやってたんだ。褒めて欲しいもんだぜ。――と、そんな悠長なこと言ってる時間はなさそうだな」


 ローレン大佐は、マルセルさんの身体を軽々抱き上げると先生に向かってにぃっと笑った。


「大切な人、守れて良かったなぁ。ユリウス」

「……えぇ」

「こっちはいつでもお前の帰りを待ってるからなぁ。やっぱお前は教師よりも断然こっち向きだわ」


 そう言い残し、彼は大の大人ひとり抱えているとは思えない速さで走って行ってしまった。

 それを見て慌てたのはリュシアン様だ。


「――ま、待て! 私も行く! おい、待てと言っているだろうが貴様ぁーー!!」


 そんな彼の怒鳴り声が次第に遠のいていき。


「ふぅ……」


 ユリウス先生が小さく息を吐くのが聞こえた。

 そして彼は私の元へとやってくる。


「これで本当に全て終わりましたよ」

「え……?」

「もう、聖女の証も消えているはずです」


 言われて腕や胸元を確認してみると、あの禍々しい茨の蔓も薔薇の痣も綺麗に消えていた。

 でももう一度顔を上げて、先生の服にべっとりと付いた血痕に気付く。


「先生、その傷……!」

「あぁ、これは血のりです。大丈夫、一応中に防護服を着込んでいるので」

「血のり……?」

「――あぁ、そうだ」


 彼は思い出したように胸ポケットから懐中時計を取り出すと時間を確認しひとり頷いた。


「良かった、まだ間に合いますね」


 先生は懐中時計を仕舞い、私の前に片膝を着いた。

 そして、いつもの涼しい顔で言った。


「18歳のお誕生日、おめでとうございます。ミス・クローチェ」


 ずっと聞きたかったお祝いの言葉が聞けて嬉しいはずなのに、私は呆然とし過ぎて何の反応も返せなかった。



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