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元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。  作者: 新城かいり
第一章 聖女の証

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第十一話


「クラウス……貴方だったのね」


 目の前に立つ従者を、セラスティアは穏やかな気持ちで見つめていた。

 18度目の誕生日を迎えた今日。

 この日のための特別な剣を携えて私の前に現れたのは、彼だった。


「……」


 俯き何も言わない彼を見て、私は全てを察した。

 あぁ、そうか。最初から決められていたのだ。今日、この日行われることは全て。

 そういう運命だったのだ。


「良かった」


 私の呟きに、彼の剣を握る手がぴくりと震えた。


「私の薔薇を貫くのが、クラウス。貴方で良かった」


 他の誰でもない。

 ずっと傍にいて、いつも守ってくれた大好きな貴方に殺されるのならば本望だと、私は心からそう思っていた。



 ――そうだ。

 セラスティアを、前世で私の胸を刺し貫いたのは……。



「なのに性懲りもなく、今でも君は彼女の傍にいる!」


 ルシアン様の叫び声に私は現実に引き戻された。

 立ったまま、あの頃の夢を見ていたみたいだ。


「君は、今世でも彼女を殺そうというのかい?」

「……」


 ユリウス先生の答えを待たずに、ルシアン様は私に手を伸ばした。


「さぁ姫。今度こそ私が君を守ってあげる。だから安心してこっちへおいで」


 私はゆっくりと首を横に振る。


「行けません」


 そう答えると、彼の貼り付いたような笑顔がひくりと引きつった。


「……なぜだい?」

「私が、ここに居たいからです」


 例え前世で私を殺した人だとしても。それでも。


「彼の……ユリウス先生の傍に居たいからです」


 先生の手があの時のように小さく震えたように見えた。


 ――あの時、セラスティアはその運命を受け入れていた。

 その気持ちがわかるから。


「レティ……」

「だから貴方にはついて行けません。ルシアン様」


 もう一度はっきりと告げると彼はこちらに伸ばしていた手をぐっと握り、そのままゆっくりとローブの中に納めた。


「そう……残念だよ」


 諦めてくれたのだろうか。そのか細い声を聞いてそう思った。でも。


「ほらね、君はまたそうやって私たちの邪魔をするんだ」


 ぼそぼそと呟くように続けた彼の赤い眼が、不穏に光った気がした。

 

「先生!!」


 なぜかわからない、わからないけれど嫌な予感がして私は叫んでいた。


 ――一瞬の出来事だった。


 ルシアン様がローブの中に隠し持っていた細身の長剣を手にユリウス先生に斬りかかる。

 振り下ろされたそれを、しかし先生は軽くかわすと胸から取り出したペンのようなものでルシアン様の腕を思いきり叩いた。


「いぎゃっ!?」


 そんな短い悲鳴を上げ、ルシアン様は手にしていた剣を簡単に取り落とした。

 苦悶の表情で腕を押さえ膝をついた彼の背後に回った先生は、体重をかけるように押さえ込んだ彼の両腕を後ろで纏めあげ、あっという間にベルトのようなもので縛ってしまった。


「痛い痛い痛い! 何をするんだ!?」

「不審者の確保です」

「は!?」

「最初に警告したはずですよ。さぁ、立って」


 ベルトを引っ張られて苦痛に顔を歪めながらもルシアン様は立ち上がった。


「痛いと言っているじゃないか! くそっ、私を誰だと思っているんだ!」

「僕もあまり手荒なことはしたくないんですよ。あなたも、流石にこれ以上の暴挙は不味いのではないですか……?」


 そうして先生はルシアン様の耳元で何か小さく囁いた。

 途端、ルシアン様の顔がさっと蒼ざめるのを見た。そんなときだ。


「先生ー! 何があったんですかー!?」

「!?」


 そんな大声が降ってきて驚き見上げると、数人の生徒が寮の窓から心配そうに顔を覗かせていた。

 当然だ。これだけ騒いでいれば早朝でも誰かしら気付くに決まっている。

 幸い、ラウルと私は植え込みの陰にいて彼らからは見えていないようだったけれど。


「もう大丈夫です。不審者を捕まえましたので、このまま当局へ連れて行きます」


 ルシアン様をフードで隠し見えないようにして先生はそう答えた。

 それから視線だけをこちらに向け、小さく続けた。


「そういうわけですので、あなたたちは部屋に戻っていなさい。では、行きましょうか」


 そうしてルシアン様を連れ門の方へと向かう先生の背中をしばらくポカンと眺めてから、


「はぁ~~!?」


ラウルがそんな情けない声を上げたのだった。



  ⚔⚔⚔



「アイツ、一体何者だよ」


 結局部屋に戻る気にはなれず、外のベンチに腰を下ろし先生の帰りを待つことにした私たち。

 先ほどの騒ぎが嘘だったかのように、ベルトリーニ学園は休日の穏やかな朝を迎えていた。


「ルシアン様?」

「ちが……いや、まぁ、そっちも気になるけどな。先生の方だよ」

「……うん」


 先ほどの先生を思い出して頷く。


「あの動き見たか? 普通の教師があんな真似出来るかよ」

「うん……。それに、ルシアン様のことも何か知ってるみたいだった」


 顔を青くしていたルシアン様。

 あのとき、先生は何を言ったのだろう。


「お前さ」

「え?」


 見ると、ラウルが呆れたような顔をしていた。


「その『ルシアン様』っての、もうやめないか?」

「え? あ、つい癖で……うん、もうやめる」


 先ほどラウルはルシアンさ……彼のせいで死にかけたのだ。

 良い気がするわけがない。

 と、ラウルはベンチの背もたれに身体を預け空を見上げた。


「前世ねぇ……」


(あ……)


 そうだ。昨夜、彼が怒っていたことをすっかり忘れていた。


「――あ、あのね、ラウル」

「信じたくはねぇけど、その聖女の力ってやつで俺は助かったんだよな」


 そう独り言のように呟いてから、彼はよっと勢いつけて身体を起こした。

 そしてこちらに顔を向け、ぶっきらぼうに言い放った。


「ありがとな。レティ」

「!」


 その言葉を聞いた瞬間、私の中で張り詰めていた何かがプツンと切れた気がした。


「――おわっ!? お前、なに泣いて……!?」

「っ、ごめ……安心したら……なんか急に……っ」


 気付いたら零れていた涙を慌てて拭う。

 

 ユリウス先生のこと、ルシアンさんのこと、そして、この聖女の力。

 わからないことだらけだ。――でも今は。


(ラウルが無事で、本当に良かった……!)


 聖女の力が使えなかったら、あのまま大切な幼馴染を失っていたかもしれない。

 そう考えたら、安堵と恐怖でまた涙が溢れてきた。


「……レ」

「あーー! レティこんなとこにいたの!?」


 そのとき聞こえてきたのはアンナの大声で。

 血相変えてこちらに駆けてきたアンナは私の顔を見て更に素っ頓狂な声を上げた。


「レティ!? ラウル……あんた一体レティに何したわけ!?」

「俺!? 俺は別に何も」

「じゃあなんでレティが泣いてるのよ! どうせまた昨日みたいに酷いこと言ったんでしょ!?」

「い、言ってねーし!!」


 そんなふたりの言い合いを見て、私はつい泣きながら笑ってしまっていた。



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