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第八話 カルロスの力

「ふ…ふふふ…ふはは!た、助かったようだな…」


 燃えたぎるナディアの脅威から逃れることができたと、ようやく脳が処理できたようで、山賊達は足をガクガク震わせながらも虚勢を張っている。


「お、おい…こいつらヤベェよ…ここは一旦撤退してお頭を呼んで…」

「馬鹿野郎!手ぶらで帰ったら俺たちが怒られるだろうが!」

「何とかして金目の物だけでも奪って帰るぞ、あの女はヤベェ。ヤバすぎる」


 山賊C、D、Eがコソコソと相談している。丸聞こえだが。


「よ、よし、とりあえず奴らを取り囲んで奇襲作戦だ」

「もう見つかってるし作戦も筒抜けだから奇襲とは言わないんじゃないか?」

「う、うるせぇ!とにかくやるぞ!」


 カルロスに図星をつかれながらも山賊達は素早く散開し、再びカルロス達を包囲した。流石にうまく統率が取れており、見事な動きだ。


「痛い目にあいたくなけりゃ早く金目の物を置いてどっか行けェ!」

「いや、さっきまで痛い目にあいかけてたのはお前達じゃないか」


 呆れたように息を吐いたカルロスは、宥めていたナディアの肩に手を置き、指示を出す。


「ナディア、少しの間上空に退避しているんだ」

「え?し、しかしそれだとご主人様が危険では…」

「なに、問題ないさ。ここは俺を信じて任せてくれないか?魔法を使うから、そうだな…10mほど上空に退避していろ。効果範囲を円形にするからその辺りだと影響はないだろう」

「はぁ…かしこまりました。決して無理はなさらないでください」


 ナディアは名残惜しそうに眉根を下げるが、主人の命に背くことはできない。

 静かに目を閉じると、ナディアの周りに激しい風が巻き上がり、瞬く間に濡れた髪や服が乾いた。そしてナディアはそのまま風の勢いを利用して、上空へ舞い上がった。


「ひぃっ、と、飛んだぞ!」

「いや、あの女最初から浮かんでただろ?やはり化け物だったんだ…」


 山賊達は青い顔をしてナディアを見上げている。


「よ、よし、とりあえず女は無視だ。男の身包みを剥ぐぞ!」

「どこからでもかかって来ていいぞ」

「けっ!1人で5人を相手取るなんざ、俺たちも舐められたもんだなぁ!」


 ジリジリとカルロスとの距離を詰める山賊達。ナディアはその上空からハラハラと様子を見ている。カルロスはチラリとナディアを見上げて、目視で距離を概算する。そして、大丈夫そうだな、と呟いた。


「よそ見してる余裕があるのか!?お前達ァァ!かかれェェィ!!」


 その隙を見て、刀を構えた山賊達が、山賊Aの合図で一斉にカルロスに襲いかかった。


「ご主人様ぁぁーーーーー!!!」


 ナディアが咄嗟に手で目を覆うと同時に、ズン…ッと小さな地響きがした。

 恐る恐る目を開けて眼下を見渡すと、カルロスを囲うように山賊達が地面に突っ伏していた(・・・・・・・・・・)


「え…?」

「て、てめぇ…何しやがった…ぐっ」


 目をぱちくり瞬かせ、呆気にとられるナディア。

 我が身に何が起こっているのか理解ができない山賊達。

 両者は共にカルロスを見た。

 カルロスは杖の宝石部分を下に向け、山賊達を見下ろしていた。赤い宝石は眩くも妖しい光を放っている。


 周りの木々は変わりなく、風に葉を揺らして不気味な音を立てている。黒ずくめの人影だけが地面にめり込んでいるようだ。


「俺を中心に半径5m範囲の重力を操作しているだけだ。ただし、対象を人物だけに指定している。どうだ?象が背に乗っているような感覚だろう。抵抗するなら負荷をもっと上げる。それが嫌ならさっき言ってた"お頭"と人身売買の件について話を聞かせてもらおうか」


 相変わらず言っていることとやっていることは規格外であるが、カルロスは涼しい顔で山賊達に詰問する。


「はっ!そう簡単に情報を吐いてたまるか!…ぐはっ」


 カルロスの問いに否定の意を唱えた山賊A。カルロスはため息を吐いて、杖を軽く振った。途端、更なる重圧で山賊達がメリメリと地面にめり込む。


「ギャァァ!つ、潰れる!やめてくれ!」

「やめて欲しかったらさっさと話すんだな」

「くっ…だ、誰が自分達の頭を売るかってんだ!死んでも話さねぇぞ…がはっ」


 ひたすら悲鳴をあげる山賊B。

 意識朦朧としながらも強い目で抵抗する山賊A。その目は信念に満ちており、どれだけ痛め付けても自分達の頭を売るようなことはしないと感じられた。


「ふむ、じゃあ人身売買のことを話せ」

「し、知らねぇ!ほんとに知らねぇんだ!いつも取引はお頭が行っているから…大事な得意先のことは、俺たちみたいな下っ端には知らされてねぇんだ!」


 涙声で必死に嘆願する山賊C。

 既に失神して静かに地面にめり込んでいる山賊D、E。


「わかった」


 これ以上情報は得られなさそうだと判断したカルロスは、くるりと杖を回し、魔法を解いた。


「か、身体が軽くなった…助かった…」

「お前達、逃げるぞ!げほっ」

「とんでもねぇ奴らだった…覚えてやがれ!」


 山賊達はボロボロになりながらも、気絶した仲間を担いで一目散に撤退していった。



 ナディアは頃合いを見て地に降り立った。


「ご主人様は相変わらずとんでもないですね…」


 ナディアは頬をひくつかせながらも主人を称賛する。


「大したことないさ。結局さほど有益な情報は得られなかったからな。人身売買については特定の相手がいる様子だったが…」



 平和な国エスメラルダ王国。この国に巣食う悪をカルロスは許さない。



ーーー"彼"との約束を果たすためにも、まずは目的地であるモラド村にて現状を調査することにしよう。

そう心に誓ったカルロスであった。

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