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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

五股くらい大目に見てよ♥

作者: 0024

 私の彼女はクズである。

 それはもう、ロクでもない女だ。

 何せ、私と付き合っていながら、他に4人もの男女と付き合っている。

 平たく言えば、五股をかけている。


 五股って。


 二股くらいならまぁ、100歩譲って、許せなくもない(普通は許さない)。

 しかし、物事には限度がある。

 倫理の許す限度額を超えている。

 彼女はいつか恋愛における愛情の借金が雪だるま式に膨れ上がり、自己破産するだろう。


 ―――これが、私の彼女、駒田煤(こまだすす)の大雑把なプロフィールだ。


(つぐ)ちゃん~、どうしたの?なんか機嫌悪くない?」


 そんな後ろめたさをまるで感じさせない態度でしゃあしゃあと言ってのける、私の彼女……煤先輩。


「先輩……胸に手を当ててよ~~~く考えてみてはどうですか?」

「うーん?なんだろう」


 私はジトッと煤先輩を睨みつける。

 長く艷やかな黒髪を薄く染め、一見清楚っぽく見える白を基調とした出で立ち。

 コロンの香りかトリートメントの香りか、ふわっといい匂いがする。

 目はくりっと大きく、少したれ目気味。

 身体のラインは細すぎず太すぎず、背の高さも少し見上げる程度で圧迫感は与えない。


(あぁ……悔しいなあ)


 私は大きく息を吸い、はぁ……、とため息をつく。


 ……この女、顔が良すぎるのだ……。


 顔だけじゃなくて、なんというか、全体的に、容姿が良すぎるのだ……(ささやかな反抗の気持ちとして、顔や容姿が良すぎる、という言い回しにやや侮蔑的なニュアンスを込めて言っているつもりだが)。


「あっ、分かった!接ちゃん、最近私と全然してないから」

「公衆の面前で!言葉を選んで下さい!!」


 明け透けな彼女の、あまりにデリカシーのない発言に私は瞬間湯沸かし器のように真っ赤になる。

 言い忘れていたが、ここはショッピングモールである。

 いわゆるデートである。


「いやぁ、でも他に思い当たらなかったし」

「だとしても、あんまりにも直接的すぎです!」


 確かに私と煤先輩は「そういう関係」だ。

 むしろ「そういう関係でしかない」と言っていい。

 有り体に言えば、私は彼女のセフレだ(と認識されていると私は思う)。


 出会いはお互いが高校生の時。

 私が1年生で、彼女が2年生の時だった。

 私の告白に、彼女はあっさりとOKを出した。

 同性同士で引かれることも、気持ち悪がられることもなく、本当に、当たり前みたいに。


「白石さんが私の事を好きでいてくれるなんて嬉しいなあ。じゃあ、今日から恋人同士だね!」


 最初はただ、嬉しかった。

 付き合い始めて1年の間、ずっと気持ちがふわふわしていた。

 ……彼女が他に男や女を作っている事実を知るまでは。


 それを知ったときはショックで死んでしまうかと思った(冗談抜きで)。


 でも彼女は全く悪びれもせずに言った。


「ごめんねぇ。私の性分なんだ、これ。

 どうしても私のこの悪癖を受け入れて貰えないなら、別れよう?

 お互い、不幸になるだけだしね」


 ほんの少し、困ったなぁ、みたいな軽薄な笑顔を浮かべながら、彼女は言った。

 私は泣きながら、彼女を散々にぽかぽかと殴りながら、諦めた。


 折角手に入れたものを失いたくなかったから。


「……ほんと、煤先輩ってデリカシーないですよね」

「デリカシー?そんなの、ママのお腹の中から出てくる時に子宮に置き去りにしちゃったよ」

「……サイッテー……」


 言いながら、いつもの事だ、と諦念を抱く私。

 この人はこういう人だ。


 どうしようもなく男癖と女癖が悪く、そして、どうしようもなく寂しがり屋なのだ。

 誰かと繋がっていなければ死んでしまうんじゃないか、と疑いたくなるほどに。


 もっとも、この私、白石接(しらいしつぐ)も、同じ穴のムジナなのかも知れないけれど。


「……で、結局どうする?ホテル行く?」

「あのっ!そういう事、大きな声で言わないで下さい!」

「別に大きな声なんて出してないよ?接ちゃんのほうこそ、そんな声を張り上げたら周りの人が何事かと思っちゃうよ」

「ぐっ……」


 確かに言われてみれば、別に煤先輩がことさら大きな声で私達の肉体関係を吹聴しているという訳ではない。ただ、あまりに自然すぎる口調で、音量を潜めずに言うものだから、私の気持ち的には「デケェ声で私達の、あまり人に言えない爛れた関係を言いふらしている」みたいに感じてしまうのだ。


「……と、とにかく。もう少し声を抑えて、あと、直接的表現を避けて下さい」


 私は煤先輩の正論にやや押されつつも、声のトーンを落として、先輩を睨みながら反駁した。

 しかし彼女はどこ吹く風で、


「あいよー」


 とだけ言うのだった。

 この軽い態度が、また腹立たしい。少しは反省しろってんだ。

 イライラして、私の内心が乱暴な言葉遣いになる。


「んじゃ、接ちゃん、ちょっと休憩していく?それとも、お泊りしていく?」

「……あんまり遠回しになってないですけど、まあいいです。休憩で」


 そんな感じで私と先輩は、行きつけのホテルへ2人で入っていくのだった。


 ◇ ◇ ◇


 ていうか、いつまでこんな関係を続けるつもりだろう。

 私自身が納得できないし、先輩だって遠からず身を滅ぼす危険がある事ぐらい分かっているだろうに。

 皆が皆、私みたいになあなあで済ますとは思えない。

 私は先輩とひとしきり睦み合って絶頂に達した後の頭で、そんな事をぼんやり考えた。


「いやあ、接ちゃんはいつも可愛くよがってくれるから、私もやりがいがあるよ」


 へらへらといつもの人好きのする笑顔で(本当に笑顔は可愛いんだよ)先輩はそんな風に私に近づいてキスしようとする。

 私は、そこで初めて先輩の……彼女のアプローチを強く拒絶する。


「やめて。それだけはやめて下さい。キスはもう二度としないって約束したでしょう。先輩が他の男と女、全員との関係を解消して、私だけを愛してくれるって言わない限り」

「……そうだったね」


 先輩は寂しそうに言う。

 そしてやおら、いつもの軽薄な表情に戻って言う。


「いやあ、でも私は本気なんだよ。接ちゃんの事を一番愛してるし、接ちゃんとのセックスが一番気持ちいいからね」

「表現!」

「ラブホの中で遠慮もへったくれも」

「情緒って言葉もお母さんのお腹の中に置き忘れてきたんですか!?」

「そうだね。知らない」

「はーっ……まったく……」


 私が呆れかえって深いため息をついた所で、先輩がいつになく真面目な顔になって、言った。


「……ママみたいな女の血が流れてる私に情緒や節操を期待するなよ。あの淫売が私を産んだ事は、もう今更どうこう言う気はないけれど、私のこの性格の原因の一端を担っているって事、接ちゃんには前に話したよね?」


 私は絶句する。


「……言ってません!!何ですかその家庭背景!?2年付き合ってきて、初耳ですよ!?」

「あれっ?」


 こりゃうっかり、みたいな顔をして、先輩は舌を出した。

 てへぺろ、と口に出しそうなお茶目な顔だ。


「……って、そんな顔しても流されませんよ!他の誰かに言った記憶と混同してるっぽいのも地味にショックだし、そんな……そんな事情があるなら……」

「あるなら?」


 どうしてもっと早く、一番に、私に言ってくれなかったのか。

 そんな考えがよぎる私も、たいがい馬鹿だな。

 私は自嘲気味に薄い笑いを浮かべつつ二の句を継ごうとしたが、そこで先輩は先回りするように続けた。


「言ったところで、私の不義理が許される訳じゃあないでしょ。

 ……ただ、言い訳をさせて貰えるなら、そういう家庭で生まれ育った事が私のこの厄介な性格を育む原因になった、っていうのは確かだよ」


 行為の後の興奮もすっかり冷めた目で、先輩は諦念と絶望の入り混じるような、少し恥じ入るような表情を私に向けた。

 ……これもまた、2年間付き合ってきて、初めて見る彼女の表情だった。


「……ね?困っちゃうでしょ、そんな事言われても。だから言わないようにしてたんだけどねえ」

「……もう言ったつもりになってた人が、何を今更」


 そしてすぐに軽薄な態度に戻る先輩に、私は思わず笑ってしまった。


「まー全部親のせいにする気はないし、私は好き勝手に生きるって決めたんだ。それを許してくれる人としか付き合いは続けてない。接ちゃんもその1人だよ」

「ワンオブゼムなんですね。オンリーワンなんかじゃなく」

「は?何言ってるのさ」


 何言ってるのはこっちの台詞ですよ、といつもの調子で私が返そうとした時、


「接ちゃんは私にとって唯一無二だよ。代わりなんていないし、オンリーワンだよ。許してくれる人は他にも4人いるけれど、じゃあ、その4人が接ちゃんの代わりになれるかって、なれる訳ないじゃない」


 先輩は、怒ったように熱弁を振るう。

 まるで私に告白された時のような、心の底から湧き上がる感情を込めて。


「……そういうとこですよ」


 私は顔を赤くしながら俯く。

 ずるい人だ。

 本当に。


「……そーゆー事、他の人にも言ってるんでしょう?どうせ」


 私がせめてもの反撃に出ると、先輩は途端にいつもの調子に戻る。


「え?当たり前じゃない。私は皆に本気だからね!」

「……ほんっっっと、情緒のカケラもない」


 言いながらも、私は何故か安心してしまうのだった。


「あ、でもこれだけは本当だよ」


 先輩は帰り支度を始めながら、何気ない事を言うように付け加えた。


「私にとって、一番大切なのは接ちゃんだから。

 他の誰かが接ちゃんと別れろって言ったら、その人と関係を切るつもり。

 それに、最後まで私のハーレムにいる事を良しとしてくれる人以外、私は付き合わない」


 そんな事を平然と言ってのける先輩に呆気に取られながら、私は自棄っぱち気味に言う。


「……呆れました。私がその最後の1人になるまで、我慢するとでも?」


 先輩はやはり自然体で返す。


「さあ。分からないよ。

 でも私は接ちゃんだけは最後の最後まで、私の事を好きでいてくれるんじゃないかなって。

 接ちゃんだけは、何があっても私の事、捨てないでいてくれるんじゃないかなって思うんだ」


 自分がいつでもフれる側に居るくせに、まるで主導権は接ちゃんが握っているんだよ、と言わんばかりの口調。そんな風に言えるこの人は、多分私の気持ちを全部分かった上でからかっているんだろう。


 だったら、お返しだ。


「……本当に私に捨てられたくないなら、もうちょっと努力して下さい。

 私があなたを、好きでい続けられるように」


 私は着衣を続ける先輩に、後ろからギュッと抱きつく。


「……はーい」


 少し困ったように、でも嬉しそうに。

 このどーしよーもない、浮気性で、軽薄で、いい加減で……

 でも、私にだけは絶対に真摯に向き合ってくれる先輩は、くるりと向き直る。


「私は接ちゃんの事、ずうっと好きでいるし、接ちゃんに好きでいて貰えるように、頑張る。

 悪い所は、その、浮気性以外は、直していくし」

「ぷっ……」


 一番直して欲しい所は直らないんですね。

 でも、いつかきっと。


「だから、それまでは……五股くらいは、大目に見てよ♥」


 いつかの、その時までは。

 まあ、浮気も甲斐性、って事で、許してあげよう。

 私だけは、ずっと。

小説家になろう、初投稿です。

普段は小説を読んだり書いたりあまりしないので、ドキドキしてます。


この作品、元々はラクガキをしている時に突発的に思いついた

「五股女の駒田さん」というダジャレみたいなキーワードが発端になってます。

そのキャラクターをデザインして喋らせてみたら、案外楽しいな、と思い、形にしてみました。


実は漫画にする予定もあったんですが、会話劇主体なので小説でも良いか、みたいな。

とにかくアホな掛け合いをさせたい一心で書いた物語なので

あんまりドラマを掘り込んでもしょうがないかなー、と思ってサラッと短い話にしました。

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