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俺は女の子を見た。
同じゼミのはずなのだが、俺には全く記憶がない子だった。
でもなかなかに可愛らしい顔立ちで、その表情も純粋そうで好感が持てる。
おれは考えた。
俺にはミキがいる。
でもミキは死んでいて、俺はその姿をまだ一度も見ていないのだ。
それに比べて今目の前にいる女の子は生きていて、見ることはもちろんのこと、手を繋いだりキスをすることだってできるのだ。
考えていると女の子が不安げな目で俺を見上げた。
この表情がさらにかわいいのだ。
俺が黙っているのでしびれをきらしたのだろう。
女の子が言った。
「あのう、お返事は?」
俺は言った。
「ごめんなさい。俺、好きな子がいるんで」
女の子は目に涙を浮かべると、背を向けて走り去ってしまった。
かわいそうだとは思うが、俺にはミキがいる。
ミキを裏切ることなんてできないのだ。
昼が過ぎ、午後の講義を受けようと教室で待っていると、熊田が話しかけてきた。
熊田はこの講義はとっていないはずなのだが、教室に入って来たのだ。
「おい、さやかをふったそうだな」




