親友がTSして美少女になったが、それでも『男女の友情』が存在することを証明したいと思う
俺――倉嶋徹には悩みがあった。
その悩みというのは……俺の親友のことだ。
そう、少なくとも俺は『彼』のことを親友だと思っていた。
もちろん、彼も俺のことを親友だと思っている――そう信じたい。
だが、そんな関係に亀裂が生まれる事態が発生したかもしれない……。
「おーっす」
「! 来たか……」
俺は親友の『声』を聞いて、振り返る。
未だにその声にも慣れないが、その姿にはもっと慣れることはなかった。
長い銀髪を後ろで結び、ポニーテールを揺らす。白雪のような肌が、これから暑くなる季節のためか、しっかりと晒されていた。
西田結城――かつては男だったはずの親友は、今ではどこからどう見ても『美少女』でしかない存在になってしまったのだ。
『TS症候群』と呼ばれるものらしく、数百万人に一人の確率で発生するという、突発性の性転換症状。
元に戻る方法は確立されておらず、性別が変更されるというのが国単位での対応となっていた。
そんな稀有な症状に、俺の親友はかかってしまったのだ。
「何で先に帰るんだよー。今日はお前の家で遊ぶ約束だっただろ?」
「ああ、その通りだが……ちょっと用事があってな」
「おお、そうなのか。じゃあ仕方ねえな……。ってか、何で家の前で待ってんだ?」
口調などに変化はなく、相変わらず男らしい話し方をしている。
だが、彼はすでに『彼女』となっており、一人称が『オレ』である結城は、俺から見れば『オレっ娘』美少女というようにしか見えなくなってしまっている。
「なんとなく待っていた……」
「何だ、それ。まあいいや。早く中でゲームしようぜ」
ぐいっと軽率に俺の腕を引く親友。
そう――問題はそこにある。
見た目こそ美少女になっているが、中身は俺の親友である結城のまま。
すなわち、俺に対して『美少女』がめっちゃ仲良く接してきているようにしか見えなくなってしまっているのだ。
ただでさえ女の子耐性の低い俺に、いきなり美少女からのこんなスキンシップはつら過ぎる。
思わず手を引くと、結城が少し驚いた表情をした。
「あ、悪ぃな……。オレ、こういう姿だったの忘れてたわ……」
少し寂し気な表情を浮かべる結城。
そう、こいつは天然なのか分からないが……自分が女の子の姿になっていることをよく忘れてしまう。
だが、しょんぼりした結城の姿を見ると、俺は以前に決意したことを思い出す。
――俺と結城は親友だ。その関係は、たとえ結城が美少女になったとしても変わることはない、と。
「……いや、結城。今のはちょっと静電気が発生して痛かっただけだ」
「え、静電気? オレは感じなかったけどな。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。それより、早くゲームやろう!」
「おう、いいぜ!」
俺は以前と同じような距離感で、結城と接する。
……どうしてか、今のこいつは少し近づくだけで、いい匂いがした。
「ふぅ、それにしても最近、だんだん暑くなってきたよなぁ。エアコン付けてくれよ、エアコン」
「まだそんな時期じゃないだろう」
「えー、頼むから付けてくれよー」
そう言いながら、ひらひらとスカートを動かす結城。
……わざとやっているのか、こいつは女の子になってから女子用の制服に身を包むようになった。
しかし、あらゆる仕草が女性的ではなく男のままであるために、暑い時は涼むために平気でぺらぺらスカートをめくったりする。
俺はそちらに視線を向けないようにしながら、
「……仕方ない。二十八度だぞ」
「えー、意味なさそう」
「意味はある」
主に俺の精神衛生上の問題だ。
「じゃあ涼しくなったらゲームするかぁ!」
そう言いながら、ごろんと俺のベッドに転がり、不意に漫画を見始める結城。
昔からこういうやつだ。こういうやつなのだが――
(……パンツが見えているっ!)
どうあがいても無防備な結城に対し、俺はどこまでも平静を装うことでいっぱいいっぱいだった。
それも、俺は『男女の間に友情関係』が存在することを、こいつと一緒に証明したいと思う。
意識してるのでBL要素ありかなっと!
こういう親友がTSして無防備みたいなネタが好きなので、短めですけど書いてみました!