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ヒスイとコハク  作者: 九十九 少年
22/24

あの場所、あの人

 二人はスフェーンを再び目指し霧の中を進む。今まで荷車では毛布を頭まで被り横たわっていたコハクは上半身を起こす様になった。


「ヒスイちょっと待って」


 コハクが突然引き止め耳に手を当てる。


「どうかしたか?」

「何か聞こえる…声みたいな…よく解らないけど段々と大きくなってくる」

「本当か?どっちからする?」

「あっちの方から」


 コハクが指差す方向に進んだ。カルサイトで情報屋から聞いた通りだったが、これはコハクにしか聞こえない様だ。

 

 そして霧が薄くなっていくと目の前に高く険しい山が現れた。


「コハク…着いたぞ…」

「長かった…けど…やっとここまで来れた」

「これからだ」

「うん、そうだね」


 遂にスフェーンの麓まで辿り着いたのだ。しかし、この険しい山では荷車はもう引く事が出来ない。そこでヒスイは荷車を崩し、いくつかの木材と部品で脚のない椅子を作り上げ、それをロープで固定するとコハクを乗せ背負った。


「ヒスイ重くない?」

「問題ない」


 そして二人は最後の試練に立ち向かっていく…


……

 

 …パパラチアはテーブルにつき煙草をふかしながら新聞を読んでいる。

 宿ウトは今日も相変わらずの物静かであるが、突然扉が開き鐘が鳴った。


「母さん、ポロ持って来たよ!」


 突風が吹いて来たかのようにインカが現れた。


「全く騒々しい娘だね」

「てか、何で煙草吸ってんのよ。止めたんでしょ?ほら消した消した」

「うっさいね~、早くそれ置いて帰んな」


 パパラチアは虫が悪そうな顔をしながら煙草の火を消す。

 インカは両手に持っていたポロの瓶をカウンターに置くと思いつめた表情をした。


「ねえ母さん、あの子達大丈夫かな?」

「…さぁねえ…けど信じてやんな…」

「…そうだね!またいっぱいポロ飲ませてやんなきゃな!」

「バカ言ってんじゃないよ」


 すると二人のやり取りの最中に扉が開き鐘が鳴った。

 

「ほらお客が来たんだ、早く帰んな。いらっしゃい、二人かい?」

「はいはい帰りますよ」


 パパラチアが接客する中、インカは宿ウトを後にする。その帰り道、二人の健闘を祈った…


……


 


 スフェーンを登り始め数日が経つ。行く道の大半は狭く細く、一歩踏み外せば崖に落ちてしまうような所だ。それでも霧が薄くなっている事は救いだった。


 コハクを背負いながら登る景色は霧と岩、所々に生えた木が続く。暗くなる前に野宿が出来るある程度の広さが場所を見つけている。二人の容態は決して良いとは言えず、ヒスイは塞ぎ切らない左足の傷から血が流れ痛みに耐える。一方、コハクは右肘から下が石になり視界もぼんやりとしていた。


 だが決して諦めず進み続けるとコハクの視界に青白い光が横切り、それを目で追った。


「ヒスイ…あっちに行ってみて」

「声がするのか?」

「ううん、違うんだけど、ちょっと気になる事があって」


 コハクが指差す方向は草木が生い茂っている方向で、それを掻き分けながら進んでいくと霧が更に薄くなっていく。


 そして最後に掻き分けた時、二人は茫然とした。


「ヒスイここって…」

「ああ…全くといって良いほど同じだ…」


 目の前には池があり、青白い光が無数に飛び回る。それはソダライトの”青の池”と酷似していた。

 二人はここで野宿することを決めた。ヒスイが火を起こし食事の準備をする姿をぼやけた視界で見るコハクは微笑んだ。


「なんか不思議だけどね、私、今すごい幸せ…」

「そうか」

「この場所に…ヒスイと一緒に居られる事が」

「…俺にも分かるよ…」


 食事を終えると、コハクは池の側に行きたいと言ったので、ヒスイは彼女を抱え池の近くに座らせる。横にヒスイも腰を下ろした。二人はその景色を眺めると心が洗われた。


「綺麗…それに懐かしいなあ…」

「ああ…またこの景色が見れるとは思わなかった」

「もう行けないと思っていたから…これから私達の秘密の場所にしようね」

「そうだな…この旅が終わってもまた来よう」

「…ヒスイありがとう…私の為に…」

「いきなりどうした?」

「ごめんね、見ちゃったの」

「…俺の日記か?」

「そう」


 ヒスイは片手で顔を覆い少し恥ずかしそうにした。


「石像病になってからは私の事ばっかり。ヒスイだってこんなに大変なのに…自分の事も大切にして欲しいよ…けど私、嬉しかった。こんなにも思ってくれて…」


 それを聞いたヒスイは懐から何かを取り出し言った。


「コハク…俺は…君だから命を掛けられる。君のいる世界で生きたいんだ。だから絶対に君を助ける」

「うん…」

「俺は…コハクの事が好きなんだ」

「私も…ヒスイが好きです…」


 そしてヒスイはコハクの左の薬指に指輪をはめた。


「指輪?」

「…これからも俺とずっと一緒にいて欲しい」

「嬉しい…私もヒスイの為に生きたい…ヒスイの顔はここかな?」


 コハクはヒスイの顔に触れようとしたが、もう目がほとんど見えなく、その手は宙を彷徨った。手を取られヒスイの頬に手が当たるのが分かるとコハクは笑った。


 寄り添う二人を夜光虫の光が優しく照らす…


 翌日、朝が来ると直ぐに出発しコハクの聞く”声”が大きくなる方へ向かう。終着が近く、二人はその”声”の方向へ急いだ。

 ヒスイの義足は彼の血で染まり今も血が流れ続け、休み休み足の状態を確認した。コハクは降ろされる度にヒスイが苦しんでいるのではないかと、心配で堪らなかった。それでも直ぐにコハクを背負い”始まりの人”を目指した。


「ヒスイ平気?」

「ああ、大丈夫だ」

「本当に?隠し事は駄目だよ」

「…かなり痛むから休みは所々で取らせて貰うけど大丈夫だ。コハクは大丈夫か?」

「私は…昨日も言ったように目がほとんど見えないかな」

「そうか…けどもう少しだ、もう少しの辛抱だ」

「うん、そうだね」


 二人は励まし合いながら細く狭い道を進む中、突然椅子に括りつけていたロープが切れてしまった。


「きゃ!」


 コハクはその場に落ちてしまう。


「コハク!怪我はないか!?」

「う、うん、大丈夫」


 急ぎ椅子に新しくロープをつける作業に取り掛かり、物の数分で取り付けが終わる。


「すまなかった、さあ行こ…っ!!」


 コハクの元に向かおうとしたその時、後ろから何かが衝突しヒスイに強い衝撃が走る!

そして体制を崩したヒスイの下に足場はなくそのまま崖へ落ちていく!


「なっ!…!?お前!?」


 落ちていくヒスイはぼんやりだが、紛れもなく人の影を目撃し、それが突き落としたのを確信するが霧の中にヒスイは消えていった…

 コハクは何かを言いかけたヒスイの気配をなくなったのに気が付く。また違う誰かの気配を感じた。


「ヒスイ!?どうしたの!?返事して!?」


 その影は近づき何も言わず、椅子にコハクを座らせ背負い歩き出した。


(ヒスイじゃない!?誰なの!?それに山を降りている!)


 カルサイトでの恐怖が蘇り震えるがコハクはその影に問い掛けた。


「…誰なんですか?…ヒスイはどうしたの?…」


 思わず使い慣れた言葉を使ってしまったので、言ったのか分からないのだろうと思ったその時


「…この高さだ、彼はもう生きてはいないはずでしょう…」


 同じ言語で答えが返ってきた事に驚いたが、コハクは更に問い質した。


「ヒスイはどうしたの!?それに私をどうするつもり!?」

「突き落としたんですよ…彼を先程いた崖から…あなたには私と一緒について来て貰います」

「一体何が目的なの!?あなたは誰なの!?」


 それ以上、影からは何も返っては無く不気味で焦るコハクだが、気持ちを落ち着かせ椅子と自分を固定しているロープを噛み始める。そしてヒスイを信じた…


 …一方、崖から落ちたヒスイは直ぐに意識を取り戻しヨロヨロと立ち上がるが数本の肋が折れていて痛みに顔を歪めた。上を見上げ、どれ程落ちて来たのかを確認したが、霧が掛かった中では把握出来ない。それでもヒスイは動き出した…


 …影は尚もスフェーンを下って行く。どうにかしてここから脱しようとするコハクは必死にロープ噛み切ろうとしていた最中、その影の足が止まる。そこには追いついたヒスイがいた。


「はあ、はあ、はあ、…コハクは離せ!」

「ヒスイ!」


 コハクはその声に安心したが、ヒスイは苦しそうだった。一方の影は何も言わずにその場に留まっている。ヒスイは目を凝らし、その影を見つめていると少し霧が薄くなり段々と影が明らかになる。

 

 そして、その正体にヒスイは驚愕した。


「あんた…アメトリンか?…」


 その言葉にコハクは耳を疑った。


「うそ…アメトリン?…」


 金色の長い髪の男がそこに立っており、それは紛れもなくアメトリン本人であった。そしてアメトリンは口を開く。


「お久しぶりですね。まさか、また言葉を交わすとは思いませんでした」

「何故ここにいる?何故こんな事をした?」


 その問いにアメトリンは少し黙ったあと語り始めた


「…まあ…最後ですからね、全て話しましょうか…私にはもう時間がないんですよ。前に話しましたね、私はガーアイで何も成果を上げられていない。このままでは私はあそこに居られなくなる…そんな時コハクさんと君が現れたんです。未開の地の人間、かつ未知の病気、これほど素晴らしい研究対象があるかと」

「あんた…何を言っているんだ?…」

「コハクさんには私の研究材料になって貰います」

「アメトリン!!」


 ヒスイは叫び、アメトリンに飛び掛かろうとしたが踏みとどまった。


「そうですね、その判断は正しいですよ」


 アメトリンが今いる場所は、崖の際でありヒスイの行動によってはコハク諸共飛び降りるつもりだった。


「くっ!…どうすればいい?」

「石像病の研究が出来れば良いんです。あなたはもう一度ここから飛び降りて死んで下さい」

「コハクも殺すのか!」

「彼女の命は僕が一度救っているんですよ。どうしようが僕には権利がある」

「お前…!」


 怒りに満ちたヒスイをアメトリンは更に煽り立てた。


「それと…カルサイトでコハクさんを襲った二人組、あれは私が雇いました」


 ヒスイの怒りが抑えられなくなりそうになったその時、コハクがロープを噛み切った!コハクの落下に驚いたアメトリンにヒスイは飛び掛かり押し倒す!アメトリンの頭に地面はなく、深い霧が覗いていた。胸ぐらを掴み必死に抑え込むヒスイは言った。


「諦めろ!このまま突き落とすぞ!」


 アメトリンの表情は苦しそうだが懐から何かを取り出した次の瞬間、


”パン!”


 ヒスイは今まで聞いた事のない音を聞いた。最初は何が起きたのか分からなかったが、左腹部が妙に暖かい。その部分に手を当てるとヌルッとした感触を覚え、手についたそれを見ると血でベッタリと染まっていた、脇腹を見ると大量の血が流れている。

 そして力を無くしたヒスイはアメトリンの方へ倒れていった。


「ははは!知らないだろ!銃ってんだよ!これでもう終わりだな!」


 のし掛かるヒスイを除けようとした時、脆くなっていたのか突然地面が崩れ二人は崖に落ちていく!


「ああああああ!」


 アメトリンは叫びと共に霧の中へ消えて行った…


「!!ヒスイ…!」


 間一髪で抱きついたコハクが際ギリギリでヒスイを支えた。力を振り絞ってヒスイを引きずり出すと、ヒスイの胸の上で息を荒げた。そして生暖かい液体に触れる。


「な、何これ?血?!しっかりして!」

「…大丈夫だ…心配しなくていい…行こう」


 ヒスイはフラフラと立ち上がり、椅子を探したがどうやら一緒に落ちて行ってしまったらしい。無理やりコハクを背負い、再び歩き始めるとコハクは自分の左太腿の上を絶えず流れる暖かい血を感じた。


「駄目だよ!血が全然止まらない! 動かないで!このままじゃヒスイが死んじゃう!」

「ここで止まっても山を降りようとしても、どっち道二人共助からない」

「それじゃどうするの?!」

「このまま進む。そして『始まりの人』に二人共助けて貰うんだ…それしかない…」

「でも!」


 二人が助かるにはそれしかなかった。それを聞いてコハクは何も言い返せず自身も決意した。


 「お願い…神様…」


 コハクはヒスイの傷口を押さえ、流れる血を少しでも止めようとした…

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