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ヒスイとコハク  作者: 九十九 少年
21/24

想い

 翌日になってもヒスイはまだ目を覚まさなかった。コハクは今日も呆然とヒスイを見つめる。

 

 またもや男が入ってきてコハクを担ぎ上げると家の外に出た。相変わらず霧が立ち込めていて視界は乏しい。家の裏側まで連れて行かれると、そこには薪割場があり、近くにある椅子にコハクは座らされると男は黙って薪を割り始めた。


「あの…これって一体?」


 何も言わない男にコハクは問いかける。


「ずっとあそこにいるのも体に悪い。外の空気を吸え。深呼吸してみろ」


 訳が分からなかったが、コハクは言われるがまま目を閉じ深呼吸すると冷たい空気が体の中に入ってくる。溜まった息をゆっくりと吐くと体も心もどこかスッキリした気分になった。

 そして今度は薪を割りながら男が問いかけてきた。


「あの少年はどんな少年なんだ?」

「え…ヒスイは村で一緒に暮らしていて…村では薬を作っていて…」

「それから?」

「無口であまり人とは…ううん、村の人とは全然話さなくて…けど本当はすごく優しい人でて村にいなきゃいけない人で…」

「村では一人で住んで居たのか?」

「はい…誰も彼には近づかなかったけど…私とお父さんとお母さんも…昔はよく家に押しかけてご飯作りに行ったり…逆に私の家に呼んだり…して…楽しかったなぁ…」

「…そうか…」


 それから男は再び黙り込み、薪を割り続けコハクも何も言わずにそれを見続けた。


 次の日、コハクは居間に椅子に座らされていた。男が奥からバケツにいっぱいのジャガイモを入れて持ってくるとそれを”ドン!”とテーブルの上に置いた。


「皮抜きだ、何もやってないと気が滅入るだろ。それにここにいる以上は雑用の一つや二つ手伝ってもらう」


 コハクはナイフを手に取り黙々と皮を剥き始める。村で作業をしていた時のように懐かしい気持ちになり色々と忘れる事も出来た。向かいには男も座っていて、長い時間ジャガイモの皮を黙々と剥いているその姿をコハクはチラチラと見た。


「…なんだ?」

「い、いえ…なんでもないです…」

「…君達が二度目だ…」

「え?」

「石像病に見舞われた人間は、その異形さと原因不明の病とみなされる事で感染を恐れた周囲の人間から疎まれる。そしてスフェーンに助けを求めて、その自由のきかなくなった体を引きずってここを彷徨う。俺は数人そういった人間を看取ってきた」

「なぜ石像病に罹った人はスフェーンに…『始まりの人』の存在を知ってて…いるかも分からないのに助かるって思うんですか?」

「声が聞こえるらしい」

「声?」

「君には聞こえないか?」

「何も…」

「そうか…いずれ聞こえて来るはずだ」

「そう…ですか…それと二度目って?」

「…ここまで来た者はある者達以外は皆一人さ。言ったように疎まれるんだ。だから一人で困難に立ち向かうしかない…しかし君には彼がいる。彼は本当に君の事が大切なんだな」


 コハクは手を止め、考えるとどんどんヒスイの存在が大きくなっていき、彼女の中の扉が開こうとしていた。


「君とって彼はどんな存在なんだ?」

「ヒスイは…私にとって…幼馴染で…だけど…あれ?…」


 答えが出ず、コハクの頭がぐるぐると回っているのが男には分かった。


「今日の目標は達成したな」


 そう言うと話の途中で男は片付け始めて、答えをそれ以上聞かなかった。

 食事を取った後、コハクは担がれベッドに寝かされた。


「ありがとうございます」


 男は何も言わず部屋を出た。横を振り向くと変わらずヒスイが眠っていて昨日より呼吸が安定している。男と話したからか様々な感情が入り混じり、コハクには今までのヒスイとは違って見えた。ふと目を丸机に移すと一冊小さな本があるのに気が付き手に取り表紙をめくる。


「…これって…」


 どうやらヒスイが書いている日記のようでコハクはそれを読み始めた。



   ○月×日

母さんが居なくなって一ヶ月。まだ帰ってこない。

寂しいから母さんが置いていった本や日記を読んでいたら僕のお父さんは外の人間だと分かってとても驚いた。村の人が急に冷たくなった気がする。多分僕の中に外の人間の血が入っているからだと思う。どんどん皆離れていくと思うんだ。だからこの日記が僕の友達だ。


   *月*日

今日はコハクとコハクのお父さん、お母さんが家に来た。ご飯を作ってくれて美味しかった。その後も色々と話せて楽しかった。けど僕は上手く笑えていたのか分からない。

今度はちゃんと笑えるようになりたい。



 そこにはヒスイの当時の切実な気持ちや思い出があってコハクは胸が痛くなったり、懐かしさに微笑んだ。読み進めていくとつい最近の所まで差し掛かった。


 


   *月*日

コハクが石像病になった。村は歓喜に沸いているがコハクは本当にそれを受け入れているのだろうか。俺はコハクの本当の気持ちを知りたい。


   *月*日

あの日コハクは生きたいと言った。しかし石像病に関して調べているが何も掴めない。この村じゃもう無理だ。数日後、俺はコハクを連れこの村を出るつもりだ。必ず治療法を見つける。


   *月*日

コハクの右足が石になって数日。カルサイトを目指す中コハクは自分の足で目指す。

何も出来ない自分がもどかしくて堪らないがコハクが必死に自分の運命に立ち向かっているんだ。今はコハクをしっかりと支えてやるべきだ。


   *月*日

カルサイトを旅立ってからコハクの心身ともボロボロだ。俺のせいだ・・・・心配でたまらなく正直自分がどうしていいのか分からない。


   *月*日

コハクが死にたいと言った。何も言葉が出てこなかった。

だが諦めたくない。コハクに何と言われ思われようが絶対に助ける。俺はコハクが居たから生きてこられた。そしてコハクにはこれから素晴らしい未来が待っているはずなんだ。だから俺は絶対にコハクを助ける。



 

 …そこで日記は終わっていた。そしてそのページにポタポタと雫が落ち文字が滲む。


「自分が…今こんなに大変なのに…ずっと私の事ばっかり…」


 コハクはベッドから這い出し、石になった足を引きずりながらヒスイの元に向かい右手を握る。


「…ありがとう…ありがとう…」


 ヒスイへの思いが溢れ出しコハクは涙を零し、そのまま深い眠りへと誘われていった…


……


(…スイ…ヒスイ…)

(…誰か呼ぶ声がする……聞き覚えのある…優しく暖かい…懐かしい声だ…)

(もう少しよ…頑張りなさい…)


……


「…ハク…コハク…」


 その声に目を覚ましたコハクが顔を上げるとヒスイが優しくこちらを見ていた。


「ああ!良かった!良かった!」


 コハクはヒスイの胸に顔を埋め戻ってきてくれた事に安堵した。


「すまなかった…体はどうだ?」

「私の事はいいの!ヒスイは?気分は悪くない?」

「俺は大丈夫だ…コハクは?」

「良かった…私は大丈夫だよ」

「そうか…良かった手ここは何処なんだ?」

「私達が倒れた時、助けてくれた人がいて、その人の家で治療をしてくれたの…何故かは教えてくれなかったんだけど私達と同じ言葉で話せる人なの」


 ヒスイはぐるっと部屋を見渡し、最後の自分の左足を見ると掛かった毛布が浮いておらず感覚が無いのを実感した。


「ごめんね…ヒスイの足が…」

「心配しなくていい、膝下は残っている。それに…意識をなくして何だが俺自身でも同じ事をしようと考えていた」


 体を起こした時、痛みが走ったが包帯を取り傷口を見てみると見事な縫合がされていた。感染症もないようだ。そして再び包帯を巻き直すと、ヒスイはベッドから片足で立ち上がった。


「動いて大丈夫なの?」

「問題ない、体力も戻った。家主に会って礼をしに行ってくる」


 そう言うとヒスイは壁を伝いながら部屋を出て行った。一つ鍵が掛かった部屋以外は全ての部屋を見て回ったが男の姿はない。外に出てみたが、その姿を確認出来なかった。仕方なく部屋に戻るとコハクが何やら紙を持ち読んでいた。


「ヒスイ、これ」


 ヒスイはそれを受け取る。どうやら男が書いて部屋に置いていった手紙のようだった。


”食料の補充で少し深い所まで向かう。二~三日は戻らないが、その分の食料は置いておく”


 視線をベッド横の丸テーブルに移すと水と食料が置かれていた。


「それとね、最後の文章はこっちの物で私にはまだ解らなかったの。何て書いてあるのかな?」


 ヒスイはもう一度手紙に目を落とし読んだ。


”望むなら直ぐに旅立つんだ。必要な物も用意した。苦しむのは私だけでいい”


 最初それの意味をそのまま受け取ったが、その文字に気が付いた。ヒスイはその男が誰なのかを全て理解した。再びテーブルを見ると食料の他に布が巻かれた物が置いてあった。ヒスイはその布を取って中身をみると、そこに有ったのは義足であった。


「ヒスイ、これって」


 ヒスイはそれを自分の左足に当ててみるとぴったりと合った。

 接着部に痛みは走るが、有りし時の様に動く事が出来る。


「コハク、直ぐに行こう」

「行くって?」

「スフェーンに…『始まりの人』の元へ」

「そんな急に、第一まだ御礼だってしていないのに」

「いいんだ」

「え?」

「いいんだ…」


 それからヒスイが早急に支度を始めると、その姿に戸惑うコハクだったが残されている時間は少ないのを分かっている彼女も決意した。

 最後に置かれた食料と水を拝借すると、ヒスイは少し悩んだ後、懐から一冊本を取り出しテーブルに置いた。

 コハクを背負い家の外に出てみると変わらず霧が立ち込んでいる。荷車にコハクを乗せヒスイは取手を強く握りしめた。しかしヒスイは少しその場で止まった。


「ヒスイどうしたの?」


 ヒスイは後ろを振り向き家を少し見つめた。


「いや、何でもない。行こう」


 再びスフェーンに向かい車輪を回し始める…


……


 男は霧の中を進み背中には大きな荷物を背負っている。家を離れた二日後に男は家へ戻ってきた。中に入ると人の気配はなく部屋の扉を開けると、もうそこに二人の姿なかった。


「そうか…行ったか」


 男は部屋を出ようとした瞬間、テーブルに一冊本が置かれているのに気が付き、それを手に取り本を開くと男は少し笑った。そして首に掛けた鍵を取り出し部屋を後にすると、とある扉の前で止まった。そこは鍵が掛かった場所でヒスイが唯一入れなかった部屋だった。鍵穴に入れ回し中に入ると男は何かを見つめ独り言の様に話しかける。


「いや…何というか難しいものだね…どう立ち振る舞っていいものか解らなかったよ…でも良かった…会う事が出来た…命も助ける事も出来た…ドットとペリの子にも会えたよ…それと懐かしい物も置いて行った…君との出会った頃の物だ…色々と思い出す事が多いね…彼は気付いていたのだろう…彼等が私達の様にならないことを祈ろう…そして、もう一度会える事があったら…全てを話そうと思う…いいだろ?……ラズリ…」


 その部屋には石像があった。美しい女性の石像だった。


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