クエスト
今回は長くなります!
さわやかな秋晴れの続く今日此頃、皆様いかがお過ごしでしょう。
父さん、母さん、俺は完全に昼夜逆転した引きこもり生活から、強制的に朝6時起床10時就寝の生活を送ることが出来るようになりました。
え? なぜかって? ……寝耳に水って本当に起きるんですね。カエデという頼れる仲間のお陰で毎日俺の布団が水浸しになります。
色々ありますが俺は異世界で何とかやってます。
風邪を引かないよう気をつけて下さい。
敬具
追伸 俺の部屋には入らないで下さい。いつか入っていい時にはまた手紙を送ります。
「準備出来た? 早くクエストに行くわよ!」
勢い良くドアを開け、俺の部屋に入るカエデを睨みつける。
「お前今何時だと思ってるんだ? まだ朝の7時だぞ?」
「何言ってるの? 早く行かないと良いクエストが取られちゃうじゃない。て言っても最近は色んなクエストがあるから困ることはないけど、クエストを受けるにはカードが必要なの! カードが身分証になるし、その人のレベルによって受けれるクエストが違うの。」
なるほど、ゲームとかでよくあるやつだ。こんなゲームみたいな世界にしてもらうと、やっぱりやる気出るよなー!
カエデは俺の書いている手紙を覗き見て、クスっと笑った。
「ぶふっ! 何で部屋に入って欲しくないの? 何か見られたくない物でもあるの?」
「う、うるせー! そんなわけないだろ? やっぱりプライベート空間だし、ちょっと片付けしてからじゃないとなー」
「何言ってんの? まあいいや。私は今日クエストで現世に行くからついでに部屋を片付けてきてあげる」
「いや、いいから! てか行けるのかよ!」
今は7時15分。昔の俺ならそろそろ床に入って妄想に浸りながら眠っている頃だろう。
「分かってるわよ! 今日はあんたのクエストを手伝ってあげるから現世には行かないわよ! さあさっさと行くわよ!」
家から徒歩15分の所にある木造の大きな建物に入ると、受付と20個ほどの売店があった。ショッピングモールみたいだな。
「お前何でそんな大きなリュック背負ってるの?」
カエデはにやにやしてから受付を指差した。
「さあ、ここがギルドよ! 受付に行ってさっさとカードを作って来なさい。レベルが上がれば現世にも行けるし、魔法も使えるわよ。」
無視かよ。まあいいや、それより魔法!
魔法まで使えるのかよ。これはテンション上がってくる。
やはりこんな朝早くから来てる人はいないのか、5つある受付には2人しか人がいなかったし、売店も人はちらほらとしかいなかった。
俺は早くカードを作りたくて、早歩きで受付に行った。かなりの美人さんで、受付の人もエルフ耳を付けていた。聞こえにくくないのかな。
「あ、あの、カードを作りたいのですが……」
「カード登録ですね! 少々お待ち下さい。」
そう言って受付の人が持って来たのは、現世の身分証などと同じぐらいの大きさのカードと、飾りの付いた大きな丸い水晶を持って来た。
「ではこの水晶の上にある飾りにカードを置いてから手を置いて下さい。」
言われた通りにすると水晶が光り、カードには俺には読めない、異世界語が書かれていた。
異世界語もちゃんと覚えないとな。
「えーと、山口奏太さん。第四運命神候補者 えーと、体力は少し低いですが、それ以外は平均的ですよ。あ、でもこれは珍しい緑属性ですよ! 家庭菜園などが上手く育つから農業などおすすめですよ。
あとレベル1なので、今から受けれるクエストは5つほどしかございませんが……」
「分かりました、ありがとうございます。」
「料金は800アイーダです。」
「料金?」
俺はカードを置いてカエデの所に行き、事情を話すと、今晩の夕食の唐揚げ2個という破格の安さで取引をし、受付のお姉さんに800アイーダを渡し無事、カードを手に入れた。
「さあ! クエストに行くわよ! 今回は一番簡単で安全なクエストにしましょう!」
そう言ってカエデは受付の人に何かを話し、布で出来た袋と青い鳥を連れて来た。
「その袋と鳥は何だ?」
「この袋には大きなガラス玉が入っているわ。あとこの鳥はちゃんと自分でクエストをしてるか監視するの。さあさっさと行くわよ!」
俺たちはギルドを出て、家一軒ないたまに大きな木があるだけの平原に来た。
何でこんな所に来るんだ?
「があああああ……ぎぇええええ!」
そんな叫び声と共に、ドラゴンが空から降りて来て、大きな木にとまった。よく見ると大きな木には鳥の巣の様な物があった。まあよく見るツバメの巣の数十倍の大きさはあるけど。
「あれがファフニルよ! ファフニルはメスを惹きつける為に宝石とかキラキラする物を集めるの。まあ宝石もガラス玉も同じようなもんだから宝石の変わりにガラス玉を置いて行くの。」
「は? あのドラゴンの巣にあるお宝盗むってか? これが一番簡単なクエストとかふざけてるだろ! みんなあれか? チート持ちなのか?」
「荒れてるね〜」
「お前のクエスト選びのせいだ ‼︎」
「あほ! あんなラスボス感溢れるドラゴン相手に勝てる訳ないでしょ! このドラゴンは一度寝たらなかなか起きないから寝てる間にこっそりお宝とガラス玉を交換するのよ。」
あーなるほど……ちゃんとそういう理由があるのか。何の考えもなしに選んだんだと思った。
カエデは背負っていたリュックを下ろして、中から食べ物やマッチを取り出した。
「ここで昼になるまで待つの。ファフニルは夜行性だからお昼の12時ぐらいには寝始めるわ。」
なるほど。持って来た時計を見ると、現在8時50分。待てない長さではない。
俺たちはまだ朝ごはんを食べてなかったので、適当にご飯を食べながら話したり、トランプをしたりして、暇をつぶした。
11時半ぐらいになった頃、急にファフニルが鳴き出した。
「おいおい、大丈夫なのか⁉︎」
「ええ、あれは寝る前に威嚇して周りの敵を追い払ってるの。ファフニルは木の半径5メートルぐらい近付かないと襲ってこないから大丈夫よ。
俺たちがいるのは木から10メートルぐらい離れてるから襲って来ることはないだろう。
鳴き始めてから五分もたつと、ファフニルは鳴くのを止めて、寝始めた。
ファフニルが寝始めて30分ぐらいたつと、カエデが立ち上がって、
「そろそろ動くわよ!」
と言いトランプや食べかけのご飯をリュックに直し、リュックは背負わず置いてまま、ゆっくり歩き出した。
「音を出したらダメよ。」
カエデが小さな声で言った。俺はこくりと頷いてゆっくり歩き出した。
ファフニルの寝てる木は樹齢1000年は超えてるだろう大きな木で、こんな大木を登れるだろうかと心配していたが、近づいてみると乗っても折れなさそうな太い枝が数えきれないほど生えていた。
ははーん、これを階段みたいに登って、ドラゴンがいるてっぺんまで登るのか。
俺とカエデは向かい合って頷き、カエデが登って行く後をついて行った。
案外すぐについて、見た目ほど高くないんだなとなめて下を見ると、足が震えるほど高かった。え、これ足滑らして落ちたら即死じゃね? ここで死んだらどうなるんだろ。
俺は早くクエストを終わらせたくて、涙目になりながら木を登って行った。
途中、葉っぱが生えてる所があって前が見えなかったがこけないように、必死に木にしがみつきながら上に進んだ。
やっとてっぺんまで登りきると、達成感があった。だがここで終わったらただの木登り大会だ。
目の前には凄い音の寝息をたてながら寝るドラゴンの周りには色とりどりのキラキラした石があった。これが今回のお目当のお宝か。
俺はあの異世界行きのジェットコースターに乗ったせいか、あまりこのドラゴンが怖いと思わなかった。前まではこんなの見たら泣いちまうんだろうな〜
あのジェットコースター怖っ‼︎
「私がこのガラス玉を置くからあんたはあの宝石を取って来て。」
俺の耳に手を当ててコソコソと話した。
こくりと頷いて近づくとドラゴンの鼻息が顔に当たった。臭っ!
歯磨き大切 しよう絶対
歯磨きのありがたみが伝わる臭さ。
俺はなるべく口呼吸で宝石がある所まで行った。
手のひらぐらいの大きさの宝石が五つ。
俺も袋もらっとけば良かったな。
どうする……2回に分けて持っていけば落とさないから安全だが、あの鼻息を浴びるのは嫌だ。よし、素早く持っていけばいいだろう!
俺は何の迷いもなく宝石を全部抱えてカエデの所まで逃げた。
よし、あとちょっと!
てか、カエデは何をしてるんだ? 何でそこらへんに置いとかないんだ?
カエデの隣につくと、カエデは何を考えたのか袋の中のガラス玉を巣にぶちまけた。
ガラスのカチャカチャという音がドラゴンの目覚ましアラームにならないことを祈った。
カエデは何事もなかったかのように鼻歌を歌いながら袋に宝石を詰めている。
こいつは何なんだ、馬鹿なのか? いや、馬鹿じゃなきゃこんなことはしない。
「グッ、グッグギャアー‼︎」
あらもうお目覚めですか?
俺とカエデは一目散に逃げた。どうやらラッキーなことにまだ気づかれていない。今のうちにぜひ逃げたい! だが、枝の螺旋階段だから降りるペースが遅い。
まあ気づかれてないし、なるべく慎重に行こう。
カエデもそれぐらい分かってるだろう。
俺はカエデが凄いスピードで枝から下に降りていく姿を目の当たりにした。
カエデは音が鳴ろうが知ったこっちゃなしで、ミシミシという枝の音や、ガサガサと草の音を鳴らしまくりながら駆け下りて行った。
止めろ。まだ間に合う。今すぐその馬鹿早い走りをやめてくれ。
後ろを振り返ると、巣にいるドラゴンと目が合った。
その瞬間、凄いスピードでドラゴンが飛んで来た。
やばいやばいやばいやばい。
「マッタクシカタガナイシカタガナイ」
よくペットショップとかにいる喋る鳥みたいな声がし、空から青い鳥が降りてきた。
こいつは確か、監視役の鳥!
「ヘンゲ! ヘンゲ!」
ボフン! という音と共に鳥の周りに煙が出てきた。よくアニメとかでみる忍者みたいだ。
ヘンゲって変化のことだろ? てことは何に化けるんだ⁉︎
ドラゴンも煙にびびったのか少し鳥の様子を見た。
煙が消え始め、どうなってるのかとわくわくしながら見た。
そこには、カカシがいた。
は? なんっでカカシなんだよ⁉︎
とりあえず逃げよう。あれだろ? これは俺はいいからお前は逃げろ! てことだろ⁉︎
俺はカカシを置いて逃げた。
いい奴だったよ、さいならカカシ!
あと少しで地面という所で後ろを振り返った。
あいつはまだピョンピョン跳ねてドラゴンの攻撃をかわしていた。意外にも素早い動きを見せるカカシ。
あいつなら大丈夫だろう。
無事を祈りながら地面に辿り着いた。
カエデはドラゴンがこっちに来ないことを疑問に思っているのかずっとドラゴンのことを見ている。
事情を説明すると悲しそうな顔をした。
「でも、仕方がないわ。それにそろそろだったから」
どういう意味だ? 後で聞いておこう。
カカシは小さくて見えないが、ドラゴンがまだいるってことはまだ避けてるんだろう。
カカシ、お前、反復横跳び得意だろう。あと……カバディとか……
ドラゴンが炎を吐いた。ごめんなカカシ。
カカシの木や布が落ちてきた。せめて集めてお墓に埋めてやろう。
そう思って、一か所に集め始めた。カエデも流石にかわいそうと思ったのかしょんぼりしながら集め始めた。
ようやく集め終わり、どこかに埋めようかと思っていると、カエデがネックレスを出した。
「何してるんだ?」
「この鳥たちはみんな不死鳥なの。でも何億歳も生きてるってわけじゃなくて不死鳥は100歳になると死んで、また生まれるの。本当は生まれるのに1時間ぐらいかかるけど、このネックレスを当てとくと3分で生まれるわ。」
なるほど。よく分からんがとりあえず待てばこいつはまた生まれるのか。
俺は3分をカップ麺が出来るときより長く感じた。
3分経ったからなのか、急に木や布が光始めて、次第に鳥の形になった。そして光が消えると、さっきと同じ青い鳥がいた。
不死鳥だから身がわりになったのか。
カエデはネックレスを自分の首にかけ、立ち上がっ俺に近づいた。
「さあさあ、私の活躍でクエスト成功したんだから早くギルドに行って宝石とお金交換してもらうのと、こと鳥返して来て! 私は疲れたから先帰る」
なんと勝手な! カエデは本当にこのまま帰るつもりなのか俺に鳥と宝石の入った袋となぜかカエデのカードを渡して帰路を走り始めた。
「おい待て‼︎ お前のせいでドラゴン起きて、不死鳥は死ぬわ、俺も危険な目にあうわ、お前の活躍で迷惑したんだ! クエスト報酬貰うのも、鳥返して来るのもお前がやれ!」
「は⁉︎ 本当はあれぐらいの音でドラゴンは起きないのよ! 私を責める前にまずあのドラゴンに苦情出したらどう?」
こいつ! なんか正論言ってるようにみえるが、めちゃくちゃだ。もうらちがあかない。俺はしぶしぶ鳥と袋を持ってギルドに向かった。
ギルドのお姉さんに宝石と鳥を渡すと、笑顔で「少々お待ちください」と言われた。
癒される。俺はこういう人と冒険したかったのに……
ギルドのお姉さんはどうやら虫眼鏡で宝石の種類とかを見て、調べてるらしい。見ただけで分かるとか頭の良い人なんだろうか。
全て見終わったのか、今度は鳥に確認を取っている。真剣に鳥と話す姿はなんか、もう、神々しい。
「お待たせしました。宝石は3000アイーダのが2つと2000アイーダのが1つ、5000アイーダが2つ。
合計で1万7000アイーダです。
そして、不死鳥再生料の1000アイーダを含めると、1万8000アイーダです。」
そう言って封筒を渡して来た。たぶん中にお金が入ってるのだろう。
「あと、カードをお出し下さい。一緒に行かれた方もです。」
俺は意味が分からないがとりあえず、俺とカエデのカードを出した。
すると、ギルドのお姉さんは小さな金属の棒のような物でカードに触れた。
すると、カードは一瞬光った。そして俺にカードを返した。
「あの、今何をされたのですか?」
「今のはカードに魔法でポイントを記したのです。本来ならネックレスに記すのですが、それだとどれだけクエストをクリアしたのか分からないのでカードに記すのです。ですがご安心ください。ネックレスにはクエストをクリアすると自動的に記されるので。
ネックレスの字も見ようとすれば見れるのですが、なにせ天界語なので、何を書いてるのか分からないんですよ」
なるほど分からん。とりあえずポイントが貯まったことだけは分かった。
「あ、あとおめでとうございます。山口奏太さん。あなたはレベル3になったので魔法が使えるようになりますよ。」
「え? そんなに上がったんですか? まだ1つしかクエストしてないのに」
「あのクエストは初心者用のクエストの中で一番難しいクエストでしたからね。普通の人なら最初のクエストはもっと簡単なものにして、地道にレベルを上げていくのですが……」
くそ、あの馬鹿アマ! 初心者に厳しすぎるだろ!
でもこれで魔法が使えるようになったし、あんま怒らないでやろう。
ポケットに封筒とカードを入れて、家に帰って行った。
次話もよろしくお願いします