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侍従は外堀を埋めている。





 魔力を制するのは魔力である。そう確信していたアズレトは早期の成長を望んだ。

 人型が大人に近付けば、自然と体内を巡る魔力もついてくると踏んでいた。見た目が成長すれば、少女と再会した時には小さな子どもではなく、男として見てもらえる可能性もある。


 成長することで、少女に相応しく釣り合う容姿と、数年以内に王座に就いても誰にも文句を言われない身体を手に入れられる。

 遅延がひどい箇所が現れる危険性よりも、アズレトは未来への希望を優先した。



 物事は順調に進んでいる。

 人型が赤子の内から帝王学を受けてきたアズレトにとっては、王となる時期が早まったとて然程問題ではなかった。

 父もさっさと隠居してしまえばいいものを、息子の働きぶりが心配なのか度々現れるので困ることはほとんどない。

 むしろ、そろそろ信用してもらいたいところだが、侍従や乳母も「親は子どもを心配する生き物ですよ」と父の肩ばかり持つ。いい加減子ども扱いはやめてほしい。


 十六歳、竜人としてはまだ赤子と言える年齢だが、既に人型は十五歳の肉体になっている。

 あれから八年、会えはしていないが内密に調査を進め、少女が名のある貴族の令嬢どころか、幼少期に隠蔽された王女であることが発覚していた。


 あの魔力ではただの人間は触れただけで即死だ。年を重ねる毎にその威力も上がっていると思われる。

 聖の森に近い離宮に幽閉するのは妥当な判断だが、存在まで揉み消していた理由は何なのか。そこまではどんな手を使っても掴めなかった。その判断を下した本人に直接会って口を割らせるしかない。

 幸い、動き出そうと画策していたところで、あの国はやたらと厳しい条件で密かに侍従を探し始めたようだ。大方、強くなりすぎた少女に手を焼いているのだろう。

 時は満ちた。



 普段は滅多に口にしない、『命令』という名目で呼びつけた、自分の乳母と侍従を交互に見つめる。


「お前達は未来の王妃の『侍女』と『従者』になる。その時はあの方を頼んだ」


 侍女長と騎士団長である二人に格下な役を与えるのは、少女に気を遣わせないようにする為に。少女には心から信用している者しか付けたくない。

 二人共仕事の多い者達だが、畏まって我が儘を言う自分に笑いながらも首肯した。


「自信満々の陛下の心が打ち砕かれないよう願っております」

「陛下、女性に無理強いだけはいけませんよ。嫌われたら一貫の終わりですからね」

「二人揃ってうるさいぞ」


 何故、背を押す言葉ではなく保守に回る言葉でしか送れないのか。

 不安は残っているが、あまり時間もない。『侍従』という役を得る為にはまだ根回しが必要なのだから。



 侍従を選ぶに関して、国王陛下直々に魔力量を計測していると知った時は思わず拳を振り上げたくなった。

 完全なる勝利は目の前だ。


 魔力、武術共に屈強な男を求めているという条件で、武術では既に大男達をのして一定の注目は集めておいた。さすがに、あれだけ騒げば国王も観ていただろう。


 武術で勝ち上がった者だけが、一人一人呼び出されて国王と対面する。周囲に護衛は控えているだろうが、無関係の他者がいないのは有り難かった。早々に片が付けられる。


 国王と形式的な言葉を交わし合い、計測の為に腕を差し出したアズレトは静かに笑った。

 あまりにも順調に事が運び過ぎて気を張り詰めたままだったが、今のところ特に裏はないし、ここまで来れば此方のものだと思えば笑みが溢れていた。

 計測をしていた国王が目を見開いたと同時に腕を下ろす。

 早速身分を明かせば護衛が前に出てきたが、構わず本題へと進む。


 まず一つ、契約書に記載がある『化け物』とはあの少女、王女殿下のことで間違いないか。


 これは計測に来るまでに書かされていたものだが、口にするのも腹立たしい呼び名だ。よく自分の娘を化け物などと呼べたものだ。

 この質問に、国王は逡巡してから首を縦に振る。ここで一度激しい怒りが湧いたが、数枚花弁が散ったところで抑え込んだ。


 二つ目に、自分は約束を取り付けにきたのだと話す。

 少女に宛がう為に侍従を探しているようだが、少女の性格が記憶からずれて成長していない場合、侍従なんて必要ないと突っぱねる可能性が極めて高い。

 その時は強引にでも自分を少女の侍従とすること。


 これには国王だけでなく、周囲の護衛達も驚きの声を上げていた。

 疎ましく思っている隣国の王が、身分を偽って『化け物』だと思っている娘の侍従になりたがっているのだから、当然の反応だ。


 そこで三つ目に畳み掛ける。

 一年後、少女が自分を嫌っていないようであれば、貰っていくということ。


 ざわめきが大きくなる。

 アズレトの二つ年上の少女の年齢はもうすぐ十八になるはずだ。結婚適齢期真っ只中の少女に声が掛かっていないのは奇跡だった。

 触れられないという悪条件が付いているとは言え、この国と強固な繋がりを持つ為に少女を欲しがる国は数多存在すると思われる。

 だからこそ、隠蔽されていたのが奇跡だ。その件には腹が立ってはいるが、そうでなければ急成長程度では到底間に合わなかった。

 どうしてあれにするのか、という質問には、初恋の相手だから、と簡潔に答えておいた。諸事情は省いたが、嘘は一つも吐いていない。


 護衛も付けず、身一つで乗り込んできているのがどういう意味かは嫌でも分かるだろう。

 アズレトは自分の申し出をこの国が断れるはずがないことを分かっていて、更には一人でもこの国の兵力に劣らないのだと証明しに来ていた。

 現に、今回の適性試験では武術だけでも既に頂点に立っていた。あの大男達はこの国の中でも強者揃いだったのだろうと思う。それに魔力量も、国王の反応を見れば分かる。

 アズレトは真っ向からこの国を脅している。


 慌てて書類を用意させる国王に、何とはなしに一番聞きたかったことを質問した。

 何故、少女の存在を抹消したのか。


 笑えばそんな印象はなくなるが、基本の面差しは冷たいと言われているアズレトの顔は、真顔になったことで苛立っていると捉えられたらしい。国王の顔が引き攣る。

 もう為す術がないと、まるで攻め入られて首を取られる寸前のように、大人しく縮こまった国王はあっさりと口を割る。


 紡がれる内容に、どんな極悪な親なのかと殴り込みにきていたアズレトは拍子抜けした。

 そして、やりすぎた、と思った。


 詳細を知らないが為に、少女を救い出すことだけを考えていたが、内情は思っていたものとは大きく違っていた。


 早急に用意された書類に目を通して名前を書き入れる。

 随分と派手なことをしてしまったせいで護衛も使用人も怯えているが、少女が欲しいだけであって敵意があるわけではないのだと、説明しては幾つもの花束を生み出して贈っておいた。

 もう少しやり過ぎていたら、目の前で泡を噴かれていたかもしれない。



 何の障害もなく事を成し遂げたアズレトは、許可を得て離宮を目指していた。

 まだ顔を合わせるわけにはいかないが、あわよくば姿だけでも見て帰れたらと、淡い期待を胸に前へと進む。


 この数年で誰も寄り付かなくなったと聞く離宮は、言葉通り使用人の一人もおらず、寂しげな雰囲気を醸し出していた。

 窓から見える聖の森が近付く。

 ここで姿を見つけられなければ、森にも足を運ぼうかと考えていたところで、外を眺めながらアズレトは歩を止めた。


 小さな庭で、聖の森の紅百合に囲まれながら土を弄るストロベリーブロンドを見つけた。

 ふと顔を上げた少女は、幼い頃の愛らしさを残しながらも輪を掛けて美しく成長している。動揺して一度窓に額を打ち付けた。

 やはり気になるのは顔色の悪さだ。華奢なのは使用人や侍女が職務放棄をしてまともに食事が運ばれていないからなのか、それとも魔力のせいか。

 手は届きはしないのに、窓に手を着いて少女を見守った。早く魔力を取り去って助けてやりたい。元気にしてやりたい。

 そして、一年後には自分のことを好いていてほしいと願った。




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