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姫様は義務を果たそうとしている。




 毎日のように庭に出られるようになって気が付いたのは、私の部屋の外壁にだけ植物が蔓を伸ばしていることだ。

 ここに来たばかりの頃にはなかったもので、それ以来あまり意識してはいなかったけれど、いつの間にか幾重にも重なって伸びてきていた。

 規則的に編まれた形で伸ばされているのを見れば、自然に伸びたものではないのが分かる。所々に咲く色とりどりの花も勿論聖の森に咲くものだ。

 こんなことをしてくれそうなのはあのドラゴンしかいない。初めてドラゴンに触れた日も、体調の悪い私がいる部屋に向かって同じことをしてくれていた。


 外壁を覆う蔓を見上げながら、私はふと二つの疑問点に気が付いて首を傾げた。

 あの日は、ほとんど誰にも会わず部屋で過ごしていた。ドラゴンはどうして私の体調が悪いことに気が付いていたのだろう。

 それよりも不思議なことがもう一つ、私はドラゴンに部屋の位置までは教えていない。何故、ドラゴンは私の部屋が分かったのだろう。


 一人で考えても答えは出そうにない。今晩ドラゴンに御礼を言って、それから聞いてみればいい。



 あの夜の胸騒いは『気のせい』という形で過ぎ去っていったけれど、不安が跡形もなく消えたわけではない。

 夕刻が迫る頃にはやることもなくなっている私は、ほとんど毎日騎士達の集まる鍛練場へと遊びに、もとい邪魔をしに来ていた。


「あ! 姫様! 新技を生み出したところなので是非感想を聞かせてくださいよ!」

「ええ、激辛評価でも宜しければ」

「姫様すみません! 姫様に差し上げようとパンを焼いて失敗しました……」

「あら、真っ黒じゃない。白い部分だけいただくわ」


 ……邪魔をしに来ているはずが、何故か騎士達は友好的に接してくれる。

 誰も彼もが強面の屈強な男だというのに、蓋を開けてみればただの愉快な仲間達で、私にとってはいい息抜きになっている。


「皆、もう少し立場を弁えろ。……どいつもこいつも、纏めてあほ丸出しで本当に申し訳ございません」


 唯一、そう言って彼らを窘めるのは紫紺の髪の従者だ。

 何となく口うるさそう、いや、お目付け役の臭いはしていたけれど、彼が一介の騎士どころか騎士団長という場所に立っている人物とは思いも寄らなかった。

 どう見てもまだ若いし、この中では細身で見た目が美しすぎる。……初めて侍従を見た時も同じことを思った気がする。


「姫様も御自身が国の上に立つ者の伴侶である自覚をお持ちください。窓際に佇む紅百合のような貴方様が、どうしてこんな汗臭い場所で筋肉達磨達に母親のように慕われて……」


 騎士達に向かってあからさまに嘆いてみせる従者に、皆は「団長それはあんまりです!」「せめて筋肉馬鹿とお呼びください!」と反論している。

 内容はともあれ、騎士団自体はそこまで上下関係にうるさくなく皆仲が良いのは数日でよく分かっていた。

 騎士はもっと張り詰めた空気の中で働いているものかと思っていたけれど、そんな想像は早い段階で吹き飛ばされてしまった。


 普段はこうして明るくふざけている者達が多いけれど、皆が一様に一度剣を握れば人が変わったかのように真剣に取り組む。

 実力は素人目にも分かる程で、剣に魔法が絡む様は見ていて美しい。個々に得意な魔法が違って、戦い方に幅があるのも見ていて飽きない。

 立場上忙しいのか、たまにしか現れない従者も舞うように剣を奮う人だ。綺麗だったのでもう一度見たい。

 これも、何度も魔物討伐に伴った侍従の戦い方に似ている。というか、侍従が従者の戦い方に似ていると思うのが、何だか引っ掛かる。


 真っ黒な焦げパンの何とか食べられそうな部分を探しては、「こんなものを口にしてはいけません」と従者に取り上げられていた時、書類を手に何人もの騎士達が雪崩れ込んできた。

 剣を収めて駆け寄る者達も、書類を覗き込んではざわつき始める。


「団長! 極めて異例な事態なのですが、王都を魔物に囲まれている状態だそうで……」


 端的に報告する者の手が震えている。従者と共に書類を見せてもらうと、祖国でも年に一度あるかないかの規模の襲撃について記されていた。

 それも一ヶ所ではなく、東西南北、縦横無尽に散らばっているらしい。


「一番数が固まっている場所は何処かしら」


 冷静に部隊の配置を決めている従者に問い掛けると、訝しげに眉をひそめられる。


「……何をおっしゃりたいのですか?」

「大群を相手にするのなら、今この国で最高の火力を出せるのは私だと言いたいの」


 場が騒然となっている中で毅然と口にすれば、従者は苛立ちを隠さずに息を吐いてから片手で額を押さえる。


「姫様は、どうして御自身が陛下に求められたのか、考えたこともなさそうですね」

「そうね。私の使い途は『兵器』くらいしか思い付かないわ」


 王族として、女として役に立たない私がこの国に出来ることは一つ。持ちうる力を最大限に発揮して国を守ることだけ。

 従者が「貴方様という方は……」と侍女同様に泣き出しそうな顔をしているけれど、何を言っても首を縦に振らないだろう者とこれ以上話している時間はない。


「騎士団長、この場で出来る最善の選択をしてくださいな」


 近くにいた騎士に、「ほら、早く私も連れていきなさいよ」とせっついて外の馬車へと案内させる。

 何人もの騎士達に、「危険です!」「陛下が心配されます!」と口々に止められたけれど、誰もが私に触れられない。手を伸ばしては空を切るばかりの動きをする者達に、私を押さえ付けて止めることは出来ない。


「本当に、とんでもない方ですね。陛下には私が報告して怒られておきます」


 無理矢理馬車に乗り込もうとする私に、従者は半ば諦めた声色でそう告げる。

 騎士団長直々の了承も得られたところで、納得して私を連れていかざるを得なくなった騎士達が、「必ず御守りします。王妃陛下」といつになく真剣な口調で私を呼ぶものだから、「姫様で結構よ」と軽口を叩いてから乗り込んだ。



 薄暗い空を黒く覆って飛んでいるのは魔物の群れだ。

 それらが森から森へと移ろうとしているのを見て、私は場所の窓から手を伸ばした。空気をかき混ぜるように腕を奮うだけで、一帯の魔物が爆発して霧散していく。

 祖国ではこれが何度か続くだけで終わったのに、今回は例外らしく、何度も何度もそれを繰り返している。


 地に降りてきている魔物は騎士達に任せ、比較的安全な場所で馬車と共に置き去りにされていた私は、一人で空を見上げて塊を見付けては掃除をしていた。

 この行動で確かに誰かを救えているはずなのに全く実感がない。いつも何処か他人事だった。自分にとっては驚異ですらないものだから、人々のように恐れられない私には、魔物の討伐はただの掃除だ。


 騎士達が避難誘導をしてから閑散としていたはずの空間に、突如として悲鳴が上がった。

 馬車を降りて辺りを見回すけれど、もうこの辺りに騎士達は一人として残っていない。


 ただでさえ無理矢理ついて来たのに、勝手に動いてもいいものかとほんの一瞬だけ考えて、すぐに走り出す。

 たとえ今しているのが許されない行動だったとしても、今そこに向かえるのが自分しかいないことは分かっていた。



 丘の上から見下ろした場所で、数人の人々が魔物の群れに囲まれていた。

 個々に応戦しているものの、多勢に無勢といった形で時を追う毎に減るどころか増えている。泣き叫ぶ子どもの姿を視界に入れた時、私は状況の確認を止めて腕を掲げた。


「そこでじっとしていて!」


 一撃で弾けて散り散りになっていく魔物達を見送ってから、人々は唖然とした様子で私を見上げている。

 そうしている間にも新たに魔物が沸いているのを見て、「何をしているの! 今のうちに逃げなさい!」と声を張り上げた私に、一人が唇を戦慄かせて何かを言おうとしていた。


 何が言いたいのかは大体分かる。昔からずっと言われ慣れていたことだ。

 人々が無事逃げられるように、新たに生まれている魔物達に照準を合わせる。


「あ、あの! 助けていただいて、ありがとうございました!」

「え……?」


 予想外の言葉が耳に届いて思わず人々を振り返れば、次々と頭を下げて逃げていく。

 纏めていた魔力が散らばってしまう程に驚いていた。魔物を倒して御礼を言われるなんて、今までに一度もなかったことだから。


 これは、掃除じゃない。

 胸の中に生まれた初めての感覚に、魔力を再び集め直す。人々の代わりに私を囲む魔物達に思い知らせる為に。




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