#079:お祭りで仕掛ける
2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。
驚くほど儲かったお金で仕入れをするために村の広場へ向かってみると、お祭りがあることで露天商は端の方へと追いやられており、その人数や取り扱う商品が大幅に減っていた。
自分たちの都合で呼び寄せたくせに、自分たちの都合でこのような扱いをするなんて、この村の住人はいったい何を考えているのやら。
お祭りであれば私も参加することに否やはなかったけれど、あまりよい感情を抱けないね。
なにより、ここにはあのお店がなくて私の気持ちが盛り上がらない。
「……一旦、ブルックの町に戻ろう。羊飼いの隠れ家亭が私を呼んでいる!」
「ほんと好きね、あそこの料理。……あたしも食べたいけどさ」
「仕入れじゃないのかヨっ!」
仕入れなんて他の町でもできるのだから、無料でおいしいご飯にありつける所へ行くべきだ。それに、自分たちの都合を優先するような村だし、外部から来た私たちが商品を買い占めると文句を言われそうな気もするしね。
「この具合だと、もう明日か明後日にお祭りでしょ? いくらなんでも間に合わないわよ」
「そうですね。今回は諦めて、のんびり休憩しようじゃないか。サラ君も疲れているだろう?」
「まだ諦めるのは早いですよ。私に任せて!」
おいしいご飯のために自他が認めるほど張り切った私は、首を傾げる皆を連れて荷車を預けている宿屋へ向かう。そこで邪魔になる木箱なども追加料金を支払って預かってもらってから、村の中でも人気のない場所へと移動する。そして、皆にはスタッシュの中に入ってもらうことを説明し、その内容が呑み込まれるかどうかというくらいの早さで実行に移した。
あとは、時間を加速させた私が短距離転移を連発して町へ帰るだけだ。皆は先に入っているエクレアと一緒に寛いでいてくれたらよいのだよ。
そうやって色褪せた世界の中を音もなくブルックの町付近まで帰り着き、こちらは少々お天気が悪かったようで、夕日を遮る分厚い雲の下で皆を外へ出した。
「うっぷ……気持ち悪い……」
「スー……はぁ~……」
「あぁ、外がまぶしいや……」
「……冒険者時代の嫌なことを思い出したわ」
「ぷっも~ぅ!」
距離が距離だったから私の主観では一時間ほどかかったけれど、皆に流れる時間はいじっていないので数秒の出来事だったはずなのに、まるで長い間閉じ込められていたような反応だ。
スタッシュ内に居ると、私の加速が影響しないことは一緒に飛び出てきたエクレアが実証してくれている。いったい何があったのだろう。
「みんな、どうしたの?」
「空も地面もなかった」
「広いような……狭いような……」
「ひたすら暗かったね」
「……サラ、あんたも入ってみなさい。絶対嫌になるから」
まとめてみると、スタッシュの内部は天地がなくて圧迫感のある真っ暗闇というところかな。
それと、外に出される前には遠くの方から光が差し込んできたらしい。
経過時間については計るものがなくて判断のしようがないけれど、皆は口を揃えて『数秒ではない』と言っていたよ。
どうやら、外とは連動せずに別の時間が流れているようだね。
あまりに劣悪な環境であれば、エクレアを入れてもよいのか考え直す必要がありそうだ。
町に入ってからは、驚き呆れた表情のエミリーとシャノンはそれぞれの自宅へと帰り、私は狐につままれたような顔をしたマチルダさんとお母さんを連れて帰宅した。
既に宿を引き払っているマチルダさんは私のお家でお泊まりだよ。
まずはご飯の支度をしようにも使える食材がなかったので、スタッシュに残っていた商品を提供する。それを皆で食べてからは、迷宮への出稼ぎで疲れた身体を労るべく落ち着くベッドでとろけるように眠りへ落ちた。
翌朝。昼一つの鐘。……寝過ぎたようだ。
お母さん達はお出かけしたのか、家には私とエクレアしかいなくなっていた。
これから私も出かける予定なのだけれど、留守番をどうしたものか……。
行き先はお向かいのパン屋さんだから、エクレアに任せても大丈夫だよね。
「こんにちは~」
「おや、サラちゃん。いらっしゃい。エミリーなら出かけてるよ」
「今日は買い物にきました。パン粉と小麦粉くださいな」
「小麦粉はわかるけど、切りくずなんてどうするんだい。お腹が空いてるなら食べていきな」
「いえ、お祭りの料理に使おうと思いまして。おいくらですか?」
「料理ったって……まぁ、あんなのタダでいいよ。ちょっと待ってな」
それから暫くして持ってきてくれたのは、木皿に盛られたパンの切れ端だった。
富裕層向けのサンドイッチを拵える際に出たものらしくて、しっとりしたパンの端を切り落としたものでしかなく、さらに量も足りそうになかった。
「ありがとうございます。でも、ちょっと足りないかもしれません。具なしのパンも売ってもらえますか? 古くて硬くなったのでいいです」
「うちに古いのはないよ」
「それじゃあ、形が悪かったり崩れたりしたやつで」
「おかしな注文だねぇ」
今度は至って普通の、それでいてやや硬めのバゲットを持ってきてくれたので、それと小麦粉を買って家に帰り、お祭りに持っていく料理の試作を始めた。
保存の魔術を解除したジャガイモを茹でる傍らに、加熱と加速の魔術で乾燥させた硬いパンをヤスリで削っていたらお母さん達が帰ってきた。そして、竈の前で作業をしている私の手元を見るなり『サラ、あんた何やってんの!?』と凄い剣幕で詰め寄ってきて、理由を話してもなかなか聞き入れてくれずに苦労したよ。
若いころは鷲獅子の爪痕という高ランク冒険者チームに所属していたとしても、さすがは元パン屋の娘だけあって、私がパンで遊んでいるように見えたのかもしれないね。
一緒に帰ってきていたマチルダさんが間を取り持ってくれたおかげで、嫌そうな顔を浮かべながらもお母さんが手伝ってくれて、三人でやれば瞬くうちに下準備が完了した。
あとは、茹でたジャガイモを潰してから形を整えて、小麦粉・卵液・パン粉をつけて高温のラードで揚げるだけ。
「♬いざ進めや、ふんふふん~――あ、キャベツ忘れた。……まぁいいか」
そんなこんなで、みんな大好きポテトコロッケのできあがり!
いつだったか冬になれば作ろうと計画していたもので、当時はお金がなくて大量の油が買えなかったけれど、冬に備えて家畜が解体されるころには懐にも余裕が生まれていた。そこで、市場にラードが売りに出されたら買い集めておいたのだ。
そんな経緯があって作り上げたのが、こちらのコロッケでございます。
ぷりぷり怒っていたお母さんも、これを食べてからはニコニコ笑顔を浮かべているよ。
しかし、これだけでも十分においしいのだけれど、ソースを掛けたらよりおいしい。
まだ汎用性のあるソースは世間に出回っておらず、私が作って広めたら大儲けのチャンスに繋がりそうだ。ここは一つ、宣伝を兼ねてお祭り会場へ持っていき、将来的にお客さんとなる住民たちの反応具合を確かめておきたい。
秋のうちに領都で買い込んでおいた酸っぱすぎるトマトや、人参、玉葱、にんにく、セロリなどの野菜をみじん切りにし、割と安く手に入るリンゴもすり下ろしておく。それらに加速を使って弱火で煮込み、スパイスやハーブも入れてさらに煮込み、塩と高価な砂糖の代用としての蜂蜜を追加する。迷宮で捕獲した虫から搾っておいたお醤油も入れてまた煮込み、最後にお酢を入れて一煮立ちさせたら中濃ソースの完成だ。
この状態でもよいのだけれど、さらに加速を使ってじっくりと寝かせ、味を落ち着かせてから漉しておくと口当たりがよくなると思う。
迷宮産のお醤油は、私の記憶に残っている大豆から作られたものとは香りが微妙に異なるけれど、結構似ているからたぶん大丈夫なはず。
あと、工程を少し変えるとデミグラスソースにもなるので、前世では西洋問わずに人気の高い味だったし、この世界でも通用するに違いないという自信がある。
実際に、羊飼いの隠れ家亭から供される料理には同じようなソースが掛かっていたからね。
あれはお肉の風味がとても強かったから、私のレシピとは違うのだろうけれど。
なお、使わなかったしっとりパンの切れ端は、蜂蜜フレンチトーストにして食べました。
そして迎えた冬のお祭り当日。
雑貨屋業務はお休みしているので、朝も早くからせっせとコロッケを揚げていく。
今回はチーズやコーン、それにお豆などを中に閉じ込めた具材入りのコロッケなのだ。
そんな揚げたて熱々のコロッケと、特製中濃ソースを雪がちらつくお祭り会場へ持っていく。
すると、人だかりができるほどの人気を博し、マヨネーズとの相性がよいことまで知られてしまい、口から湯気を出す人たちから『普通に売ってくれ』との声も多かった。
この調子ならレギュラー商品化決定だね。……マヨネーズをソースの隣に並べておいたのは、何を隠そうこの私です。うっふん。
中濃ソースとは、とんかつソースほどではありませんが、ウスターソースより少し粘りけのあるものです。
最適とは言えなくとも、何とでもそれなりに合う万能ソースとお考えください。




