#078:辿り着いたオアシス
2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。
疲れ果てて床に伏していた冒険者たちが、のっそりと起き上がって戦利品の回収を始めたことで談笑が打ち切られ、お母さん達も横取りされる前に倒した魔物の置き土産を拾いに向かう。
それに私も同行してスタッシュの力で早々に終わらせてからは、最後に爆発が起こったという地点に散乱している魔石の欠片などをお母さんの元仲間たちが拾い集めている。
お母さんはそれに手を貸すようなので、手の空いている私も手伝うことにした。
総量がわからないものを私にしか見えないスタッシュに入れることはできず、回収用の袋を渡された際に『土は後で叩くから気にするな』と言われているので、自分の手を動かしてコツコツ集めているのだけれど……。
「ん? どうかした?」
「い、いえ。何でもないです」
先ほど重装備の人から出てきた言葉が気になって、チラ見することを止められない。
狙ったように目が合うことも増えてきたし、もうバレていそうだけれども。
「なに? 顔についちゃってる?」
「いえいえ。お綺麗ですよ」
「あら、サラも気付いたんじゃない? こいつ、これで男なのよね」
幻聴ではなかったのかぁ……。
しかも、お母さんがチームに居たころと比べて磨きが掛かっているらしい。
そんな話を聞いていると、知り合った当初からこんな人だったそうなので、お母さんがチームを抜けたことで始めた趣味というわけでもないようで安心した。
「それじゃあ、今は男所帯なんですね」
「へ? うちにはちゃんと女の子がいるわよ? そこの……俯いてるローブがそう。さっき、君に襲い掛かろうとしたゴーレムを潰したのはあの子だから」
「――え」
視線で示された先へとおそるおそる目をやれば、項垂れるようにして作業の手を止めているローブの人がゆらりと顔を上げた。
「男みたいで悪かったね」
「いつものことだろ、姉さん。気にしてるなら着飾ればいいって何度も言ってるのに」
「……知ってる? ブサイクがお洒落しても、勘違いしたブサイクにしかならないってことを」
うっかりと零れ出た言葉がこんな事態を招くとは。
命を救ってくれた恩人なのに、失言をしたままでいられない。
「いや、そんな……中性的なお姿で素敵だと思いますよ」
「……じゃあ、なんでモテないの? こいつはそれなりなのに。早くしないと子供が産めなくなるよぅ……」
「いや、僕は関係ないだろ?」
近くで作業していた同じローブ姿の男性――そっくりな顔立ちから一卵性の双子と思われる弟さんを睨むようにして言い放ち、また俯いて作業を進めるでもなく土を弄り始めてしまった。
事態は悪化した。私に誰かを慰める才能はないようだ。
過ちを繰り返さないよう脳内メモに深く刻んでおこう……。
しかし、このまま放っておくわけにはいかない。
そこでお母さんに助力を請い、彼女の気分が落ち着いたころを見計らって謝罪と共にお菓子を手渡してみると、それを一口かじった瞬間には笑顔を浮かべてくれて私の心に平穏が戻った。
そして、先ほど助けてもらったお礼に何かしたいと願い出てみたところ、口元に手を当てながら『このお菓子で十分』と言われてしまったよ。それでは引き下がれない私が作業もそっちのけでいろいろと提案していたら、苦笑を浮かべて『それじゃあ、魔獣の芸を見せてよ』と、逆に気遣われる始末。
それなら早速期待に応えようとしたのだけれど、この場所に長く留まってはいられないとのことで、下層にまで足を伸ばした経験があるらしい鷲獅子の爪痕に案内されてオアシスへ急ぐ。
横に膨らんでいた通路が狭くなるにつれて地面に傾きが見られ、最後のほうは急勾配となった岩場を登り切ると、待ちに待ったオアシスに辿り着いた。
岩場の頂点から見下ろしてみれば、小さな森とも言える豊かな緑が広がっている。その中にはほのかな緑光を発する葉を茂らせた巨木が疎らに立っており、それに照らされるようにして綺麗な泉がいくつか湧いていた。
その泉の周辺には身体を休める先客の姿が見え、彼らが使ったと思しき焚き火の跡があることからも、ここがオアシスと呼ばれる場所で間違いないでしょう。
なんと幻想的な光景か。
光る葉っぱが照明となり、ランタンオイルを節約できるという憎い演出が堪らない。それに、泉の周りで寝転がる人がいるなら湧き水トラップではないだろうし、飲み水として利用できるのなら残り少なくなってきた備蓄を思えば嬉しい限りだ。
そうやって私がオアシスの心遣いに感心していると、女じゃなかった人から話し掛けられた。
「さてと。アタシたちは寝床作ってくるよ。何だったら一緒に来る?」
「あ、私たちはこれから商売するので、ご一緒するとうるさくなると思います」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、落ち着いたら遊びにいくよ。その時に芸を見せてね?」
「はい、お待ちしてます。お店は目立つ所へ出しますので」
そうして鷲獅子の爪痕とは別れ、岩場の上から目星を付けていた場所へと向かう。
これといった道のない小さな森では意味がないかもしれないけれど、入口となる岩場の坂道から最も近い泉までの途中で露店を開いてみた。
すると、遅れてやってきた冒険者たちの全員が立ち寄り大盛況。
先ほどの戦場でお母さん達が加勢すると同時に私が打った宣伝を覚えていたのか、主に薬類と食品が飛ぶように売れていき、あの時の冒険者も約束どおり姿を見せた。
「すごいな。これ全部売るつもりなのか?」
「はい。そのために来ました」
「そりゃまたご苦労なことで。俺らにとっちゃありがたい話だが、上にあるオアシスのほうが楽だろうに」
「……はい? 上にもオアシスがあるんですか?」
迷宮が成長したことによって新たにオアシスが生まれたそうで、ここは最近できたほう――第二の場所として認知されているのだとか。
二つあるなら、臨時酒場のおじさん冒険者も教えてくれたらいいのにね。もしかしたら複数あることを知らなくて、オアシスといえば上にあるものを指していたのかもしれないけれど、ここまでの激戦を振り返れば恨み言くらいは我慢してほしい。
「お買い上げありがとうございました~。……ねぇ、聞いた? 上にもオアシスあるんだって」
「聞こえてたわよ。結構大きく育ってるみたいね」
「やっぱり、途中で道を間違えていたようですね。面目ない……」
「仕方ないわよ。迷宮だもの」
迷宮だからといっても人の出入りがある休憩所までの道順を間違えるとは思えなくて、その意味を尋ねてみたら、またもや溜息をつきたくなる事実を知らされた。
迷宮が成長するということは総面積が広がっていくわけであり、その弊害で内部構造が日夜ゆるやかに変化しているそうだ。
その影響から、通ったことのある道は塞がるか、または別の通路へと繋がってしまい、迷宮が迷宮たる所以となって今日も元気に迷子を量産し続けているらしい。
まったく、面倒くさいったらありゃしない。
これでは私の脳内メモが意味を成さないではないか。
通った瞬間に切り替わるわけではないみたいだけれど、頻繁に行き来しなければ道の変化に気付けるはずもなく、結局はまた最初からマッピングのやり直しだよ。
その後も入れ替わり立ち替わりで多数の商品がまとめ買いされていき、買い足しに戻ってくる者までが現れ始め、私を邪険にした冒険者すら訪れることもあった。
ところが、ここへ来るまでに出会ったお客さんや、私たち自身が飲み食いしたことで在庫に余裕はなく、この調子で売り続けていたら帰りの食糧がなくなってしまう。
これ以上お客さんが増えないうちに露店を閉めて、食事休憩をとることにした。
「もう帰り支度しないとご飯が足りなくなりそう」
「ええぇ……、せっかくここまで来たのに?」
「サっちゃんパワーで何とかならない?」
「う~ん、私一人で戻って仕入れてきてもいいんだけど……」
「ダメに決まってるでしょ! お母さんがそんなこと許すと思う?」
「……ですよねぇ。みんなで帰ろうか」
そんな食事も終わったころに鷲獅子の爪痕がやってきたのでエクレアの芸を披露し、それに満足した面々からのリクエストに応えていると、妙に静かだったエミリーとシャノンが眠っていたのでお開きとなり、私たちも順番に仮眠をとった。
そして翌朝――というか、最後の仮眠組が起き出してきたら村を目指して帰還の途に就く。
私たちが露店で商品を売りまくったことで共に戻る冒険者は一人もおらず、丁度オアシスに入ってきた大所帯のチームと入れ替わるようにして出発する。
その復路では、地上へ近付くにつれて道の繋がりが少しずつ変化しているくらいだった。
脳内メモが役に立つか危惧していたけれど、この程度なら全体図からの予測もできそうで、
私が案内する形で歩いていけば、数日は要したものの食糧が尽きる前に村が見えてきたよ。
そのまま夕日に照らされた村へ入ると、お祭りの準備で賑わっているではありませんか。
内部構造が変化することはもっと早めに書いておくべきでしたね。
自分の中にある迷宮像がローグライクなのですが、今まですっかり忘れていました。
よくわからない方は「NetHack」「不思議のダンジョン」「シレン」「アスカ」などで検索してみてください。
なお、仕事や学業に支障を来すことがあっても一切の責任は負いかねます。




