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#077:ツキが回ってきた

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 轟音(ごうおん)に身を竦ませた私の足下には、ゴーレムの残骸らしき瓦礫(がれき)がいくつも転がってきた。

 それを上手に避けたエクレアが私の背後へ回り込み、警戒心を露わにして唸り声を上げる。


 同士討ちする姿を見たことのないゴーレムが砕けて飛んでくるなんて、いったい何が起こったのかと振り向けば、舞い上がる土煙の中ではランタンの灯りが二つ揺れていた。

 そして、その灯りの間から野太い声が聞こえてくる。


「無事か、お嬢ちゃん。荷物持ちでも周りを見ておかねえと死ぬぞ?」

「あ……はい、ありがとうございます」


 うっかりとお母さん達の活躍に見入ってしまい、前にばかり気を取られていたことで後ろから迫っていたゴーレムに気付けなかったみたい。

 普段から、すぐに敵を見つけてくれる魔力支配は常に稼働させているけれど、魔力の流れを感知しても魔術が入り乱れるこの場では、既に読み取り困難な状況となっている。もはや何が何だかわからない状態なのだ。


 それというのも、多数の冒険者がいることで光属性のライトがそこら中を照らしているし、シャノンやお母さん、それに他の冒険者たちも雨あられと魔術を降らせまくっている。それらと相まってゴーレムが動く際に生じる微弱な魔力の流れに気付けない。

 例えるなら、目の前で竜巻が発生している最中に背後で風がそよぐ――というようなもので、その程度の小さな違いでは意識できるはずもないのだよ。


 私が脳内で誰にともなく言い訳をしていると、ランタンの灯りがどんどん近付いてきて持ち手の姿が露わになった。

 まず目に入ったのは、すごく重そうな全身鎧を着込んだ背の高い人だ。その両脇には服の上から金属製のパーツで要所を守り、ランタンを手にする軽装備姿の二人が続く。そこから一歩遅れるようにして分厚いローブを目深にかぶった二人で、合計五名の冒険者がそれぞれ大荷物を背負って歩いてきた。


 その人達が唸りを上げるエクレアを見たようで揃って足を止め、一瞬だけ身体を硬直させた重装備の人から視線を向けられる。


「お嬢ちゃん、そいつは何だ? ここにいた魔物じゃねえだろ」

「この子は私の使役獣です。ベヒモスではありません」


 やはり、見た目に違わぬ強者のようだね。

 いくら頭の中がカオス状態になっていても、私の魔力支配に気取られることなくゴーレムを破壊してみせるほどに優れた冒険者なら、一目で見抜いても何ら不思議はない。

 それならば、私から先にベヒモスの名称を出したほうがいい。そうしておけば勝手に勘違いしてくれるでしょう。

 しかし、事は都合よく運ばないようで、細身を軽装備で包み込んだ人から指摘を受ける。


「……使役獣。本当にそうなの? 君が魔物使いには見えないのだけど。鞭はどこ?」

「鞭で叩かなくても私の言うことはしっかりと守ってくれてますよ。いきなり飛び掛かりませんから安心してください。エクレアも落ち着いて。ね?」

「……ぷも」

「え、なにその鳴き声! これ絶対ベヒモスじゃないわ。あんたの勘違いよ」

「いや、だが……これだぞ?」

「ベヒモスの鳴き声忘れたの? ……まったく、鍛えすぎなのよ。頭の中まで筋肉なんだから」


 そういえばそうだった。お母さんもマチルダさんも鳴き声を聞いたことで疑念を持ったのだ。

 あとは何か芸でも披露しておけば、いつかの狩場調査員みたいに納得してくれるはず。


「あの、よかったら芸をお見せしますよ」

「えっ、芸するの? 見たい見たい!」

「おい、そんなもん後にしとけ。今はあれをどうにかしねえと、あいつら全員死んじまうぞ」


 私と細身の人との会話を遮るようにして、横に膨らむ広場のような通路で今もなお繰り広げられる戦場を重装備の人が顎でしゃくり上げた。そして、暗くて鎧の一部に見えていた巨大な盾と幅広の長剣を持ち上げて、これから助けに向かう姿勢を示している。


「仕方ない……か。終わったら見せてね?」

「はい、わかりました。どうかご武運を」

「ふふふ。大丈夫よ、あれくらい」

「んじゃ、行くぞ? ――お~い、荷物持ちはここに集まれ! 俺が守ってやる!」


 私の前へ進み出た重装備の人が、地面に剣を突き立てて声を張り上げた。

 その大音声は、呪文の詠唱なのかただの悲鳴なのかも判然としない阿鼻叫喚(あびきょうかん)の戦場に響き渡り、そこで戦っていた冒険者たちの耳にも入ったようで各々が反応を寄越してくる。


「うるせえ! 気が散る!」

「お前がうるせえ! あの姿はBランクチームの“鷲獅子(じゅじし)の爪痕”だろうが!」

「“鷲獅子(じゅじし)の爪痕”だったら、もうAランク間近って話だぞ」

「助かったぁ……これで何とかなる……」


 どうやら相当に有名なチームらしい。

 それも、BランクだとかAランクやらと、今までにない強さを持つ集団のようだった。


 幻ともいえるオアシスを目指していたら雲上の人たちに助けられるだなんて、私にはツキが回ってきたのかもしれない。

 迷宮に篭もってかなり経つことでお月様を拝めていないけれど、ここでそれが廻ってくるのであれば、オアシスでの商売にも期待が持てるってものでしょう。


 重装備の人が呼び寄せた荷物持ちや負傷者たちと共に、早くも勝利ムードが漂い始めた戦場を安心した気持ちで眺めていたら、そこへ向かって駆けていた四人の先頭が急に立ち止まり、続く三人が次々と衝突していた。

 それからすぐに絡まった四人が勢いよく振り返り、重装備の人へ向けて何かを指差しているけれど、その先では狂ったように舞い踊るお母さんが無双しているだけだった。


 あれは確かに迷惑な戦法だと思う。たぶん、流れ弾に当たった人も居そうだよ。

 大変危険ですので近寄らないようにしてください。




 加勢に向かった四人の強さは凄まじく、通路の奥からわらわらと湧いて出てくる魔物どもを次々と討ち取っていき、無双中のお母さんとも驚くほど綺麗な連携を見せていた。

 そして、戦場に満ちた吐き気を催すような魔力の奔流を押し流すほどの爆風が通路の奥から吹き込んできて、それを境にして魔物の出現には終止符が打たれたようだ。


 それに伴い、今まで戦い続けていた冒険者たちがその場で崩れるように座り込んだり、そのまま倒れるように寝転がったりして、命が繋がったことを喜び合い勝利の余韻に浸っていた。

 しかし、いや、やはり死者は出ていたらしく、一部では声を殺して涙を流す者もいる。


 そんな中を静かに歩き抜け、戦場に赴いていた皆を探していると、武器を収めたお母さんが先ほどの四人と何やら談笑中だった。


「――のよ。じゃあ、相変わらずの移動要塞なの?」

「それがね、さっきベヒモスの子供みたいな魔獣がいてね、それ見て固まってたわよ」

「あぁ、いつだったか盛大に吹っ飛ばされたものね」

「そうそう! あれは笑ったわ。『ここは俺に任せて先へぶはぁっ――』だっけ?」


 なんだ。知り合いだったのか。

 昔話に花を咲かせているようだし、ぐったりと疲れた面持ちで見守っているエミリーとシャノンを連れて先に休憩しておこうかな。マチルダさんは興奮した顔つきで話に聞き入っているみたいなので、誘わないほうがいいよね。

 そのことをお母さんに伝えようとしたら、重装備の人がやってきて話の輪に加わった。


「おう、レア。久しぶりだな」

「ええ。何年ぶりかしら。バートも元気にしてるみたいでよかったわ」

「そんなことより、復帰したってのは噂で聞いている。続けてるなら戻ってこないか?」


 これはあれか。お母さんが冒険者をやっていたころに所属していたチームなのか。

 それがAランクに近いBランクとすれば、お母さんも同等だったりして……?

 いや、私が生まれたころには辞めていたし、さすがにそれはないだろうね。


「悪いけど断るわ」

「即答かよ。ちっとは考えてくれ。やっぱりお前がいねえと――」

「やめなさいって。レアには王子様がいるんだから、いい加減諦めなさい」


 王子様って、あの父のこと? 確かに顔だけは王子様だったけれど、ある日突然行方知れずになった人よりも、何年経っても想ってくれている人のほうが嬉しいのではないかしら。

 それに何より、高ランクの冒険者ならお金をたんまり持っていそうだし、私は応援するよ!


 お母さんが即座に両断したことで場の空気が少々暗くなってしまい、それを払拭するためか、今まで話を見守っていた軽装備の男性がおどけるように口を開く。


「もういい歳なんだし、君らがくっつけばいいんじゃない? お似合いだよ。……ぷっくく」

「ちょっとぉ、やめてよね! アタシの好みじゃないこと知ってるでしょ!?」

「ああ。こいつとだけは勘弁してくれ。俺にそっちの気はねえ」


 今、何か不穏な言葉が聞こえたような……。いや、まさかね。

 薄いとはいえ鎧を着ているから骨格まではわからないけれど、声は女性そのものなのだし、こんなに綺麗な男がいて堪るもんですか。


鷲獅子はグリフィン(グリフォン)のことです。

鷲の上半身に獅子(ライオン)の下半身を持つ有名な怪物ですね。

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