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#076:オアシスはどこ?

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 お母さんとマチルダさんに助け出された傷だらけの冒険者たちは、廃坑の入口前に出していた露店で買い物をしてくれた覚えがあり、私たち三人娘と同年代の男女混合チームだった。

 そんな彼ら彼女らとの再会を喜び合う気はなく、有料の井戸水で患部の汚れを流させてから有料の傷薬を渡してあげて、これまた有料の温かいスープも提供する。その都度お値段を告げていると、彼らは目に涙を浮かべて申し訳なさそうにお礼を口にするだけで、もしやと思えば手持ちがまったくないそうだ。


「この恩は忘れない。一生忘れない。……けど、払える物が何もないんだ」

「外でも言いましたけど、魔石とか素材でもいいんですよ?」

「いや、そうじゃなくて、戦闘中に財布とか入れた鞄を落としたんだ」

「それは災難でしたね。今すぐ探しに行きましょう!」

「それが…………あそこのスライムにな」

「…………これ食べます?」


 鎧どころか服までがボロボロに破れてしまった女の子を見て気の毒になり、サービスしようと取り出しておいたクッキーを、無一文となった冒険者チーム全員に無料で配った。

 まさかお財布だけでなく、すべての荷物をスライムに溶かされたとはね。食べ物も、飲み水も、今まで稼いできた戦利品の何もかもがスライムの糧となったそうだ。


 命を賭して一攫千金(いっかくせんきん)を掴みにきたのに、籠で水を汲むことになるだなんて迷宮は怖すぎる。

 私だったらその場で失神してしまいそうだよ……。


 その後は、大きな傷が癒えるまでの約一晩を共に過ごし、これから地上に戻るということで携行糧食と薬類の補充をしたいと頼み込まれてしまった。それを含めて、今までの料金を兼ねる物として予備武装に持っていた短剣や短槍を差し出されたのでそれを受け取ると、しつこいまでにお礼を繰り返して立ち去っていく。

 あ、貰った装備品は後で売り払います。当たり前でしょう?




 ランタンに照らされただけの真っ暗闇をとぼとぼ歩く私は、実のところ迷宮に飽きていた。

 背伸びをしたいお年頃の冒険者チームと別れてから、もう一週間以上経っている気がする。

 それなのに、オアシスが見えてこないのだ。

 周りを囲む壁はとっくに岩だらけなので中層に入ってはいるのだろうけれど、いったいいつになったら辿り着けるのやらと、滅多(めった)にお客さんとも会えないことで迷宮が嫌になってきた。


「ぷもゥ……!」

「え……またなの?」


 しかも、魔物の数がすごく多くなってきて、群れで襲ってくることも珍しくない。

 単体ならどうってことのないゴーレムが多いけれど、その主成分が岩に変化しているせいで戦闘ごとの所要時間は(いや)(うえ)にも増えている。


「んもう! 倒したんだからさっさとくたばれ!」

「ミリっち! それはわたしとサっちゃんで見ておくから次行って!」


 魔力がさらに濃くなったことに比例して、胴体に致命傷を与えても上半身だけや下半身のみで這いずり回る時間も延びてきた。

 そして全身が岩になったことにより、よほどの高温でなければ火を放っても無駄となり、水で濡らしても意味はなく、風を吹き付けても動きを止められず、硬く凝縮させた石弾や氷槍をぶつけなければ大した打撃にならない。

 この影響で、放出系魔術が主体のシャノンは私と一緒に後方で控えている。


「外した!? レアさん!」

「任せて! ハッ!」


 その一方で、このチームにおいてダメージソースであるマチルダさんとお母さんは、絶好調で岩のゴーレムを次々と打ち砕いていく。

 今は弱点を突こうとしたマチルダさんの攻撃が外れてしまったけれど、両手にそれぞれ剣を握ってくるくると舞うように戦うお母さんは相変わらずの切り裂きっぷりだ。舞姫や疾風の(きみ)という二つ名よりも、ミキサーやシュレッダーのほうが私としては想像がしやすい。


「――ぷもっ! ――ぷもっ!」

「もう止まったよ、エクレア。戻っておいで」


 もちろん、エクレアも私をしっかりと守ってくれている。

 お母さんとマチルダさんが打ち漏らしたゴーレムは、エミリーが防波堤となってトドメを刺していき、それでも這い寄ってくる死に損ないはエクレアが体当たりして砕いているのだ。


 こんな戦闘が何度も続いている。

 もしも皆の装備を強化していなかったら、人間よりも大きな岩の人形を剣で切って槍で突くという暴挙に出られず、相当な苦戦を強いられていたのかもしれない。

 私は戦闘に関しては応援以外に何もしていないけれど、事前に最硬の強化を施したのだからサボりではないよね?




 今日も今日とて、巨大な昆虫や何度脱皮したのか見当も付かない爬虫類、なぜこんな所にいるのか不思議でならない走鳥類からたびたび襲われた。

 その中に岩のゴーレム、時々土のゴーレム、所により砂のゴーレムが混じることもある。

 砂のゴーレムならシャノンが操る水や風の魔術で一掃できるから楽なのに、あまり姿を見せてくれなくて私は悲しいよ。


 そうして、数えることもバカらしくなってやめた袋小路から別の通路を探したり、時には上へ向かったりしてひたすら進んでいると、徐々に道幅が広くなっていく通路に出くわした。

 そこを歩いていたら先の方から激しい戦闘音が響いてきて、久々にお客さんと会えることに浮かれた私は弾むような足取りで吸い寄せられていく。


 向かった先は、通路が横へ膨らむようにして縦に長く延びた広場となっており、そこではもはや見慣れた光景が広がっている。

 今までと違う点といえば、合同チームなのかわからないけれど十数名以上の冒険者が叫びを上げながら魔物の群れを相手に立ち回っている。魔術を放ち、剣で切りつけ、槍で突き刺し、斧でたたき切るという、猛烈な攻防戦が繰り広げられていた。

 しかし、それでも形勢不利なようで、私たちがいる方へジリジリと押されている。

 

 これを見なかったことにして逃げ去るか、それとも加勢して恩と商品を売りつけるか。

 すぐにでも決めなければ、私たちも有無を言わさず巻き込まれてしまうに違いない。

 ギリギリまで粘ったほうが薬類の売り上げに期待が持てる――という考えは捨てておこう。


「倒せそうなら、介入して物を売りたいんだけど」

「そうは言ってもねぇ……。あの数は厳しいかもしれないわ」

「う~ん……。それなら、あの人たちには悪いけど逃げたほうがいいのかな?」

「レアさんがいるし、倒せなくはないと思うよ。でも、周りに被害が出ることも考えるとおすすめできないね」

「周りに被害があるんですか?」

「そうだよ。レアさんが本気を出したら魔術が飛び散るんだ」


 何だそれは。くるくる回りながら魔術を飛ばすなんて、私のお母さんはスプリンクラーか。

 ただの水ならまだしも、それが殺傷力を伴った魔術なのだから迷惑きわまりない。


 それをどうにかできないか頼んでみても、回らなければ多数の魔物を同時に相手取ることは難しく、かといって放出系の魔術を使わなければ打ち漏らしが多くなる。しっかりと狙いを付けようにも回っていたら不可能に近いとかで、にっちもさっちもいかない状態だった。


 これはもう、申し訳ないけれどご縁がなかったと割り切って撤退しようとしたら、ジリジリと後退してくる冒険者の叫びが耳を打ち、それを聞かされた私の足は止まらざるを得なかった。


「ここを越えたらオアシスなのによぉ! これじゃあ倒しても切りがねえ、クソが!」

「おい、早まるなよ。なんとか持ち堪えろ!」


 オアシスとは、迷宮に長期間篭もったことで頭のおかしくなった連中が吹聴しているだけの幻かと思い始めていたのに、この場を乗り越えれば辿り着けると言うのなら――


「よし、助けよう! 目的地はすぐそこだよ!」

「……もう、この子ったら。当たらないように離れておくのよ?」


 苦笑を浮かべたお母さんと、その笑いを堪えたマチルダさんが駆け出すと同時にシャノンが魔術を放ち、今にも飛び掛かろうとしていた魔物に向けて遠距離からの狙撃が行われた。


「助太刀いたす~」

「なんだ!? 新手か?!」

「いや、助けてやるって言ってただろ!」

「あれってよ、もしかしてブルックのアイドルじゃねえか? 最近二人組になったとかいう」


 シャノンと一緒にエミリーもアイドル扱いされている。これは私も負けていられないね。

 割と余裕のある反応だったし、早速お店の宣伝をしておこうではないか。


「皆さん! 増強剤や傷薬はいかがですか? お買い求めの方は――」

「今はそんな場合じゃねえよ! 荷物持ちは引っ込んでろ!」

「売ってくれるならいいじゃねえか。おい、そこの娘。後で買うからな」

「はい。お待ちしています」


 商売の最中はどんな暴言を吐かれても表情を崩してはならない。

 さすがに度を越えるものなら排除するけれど、この程度なら猿の鳴き声みたいなものだ。


 ひとり残された私は離れた所から皆の活躍を見守っていると、足下で周囲の警戒に当たってくれているエクレアが突然後ろを向いたかと思いきや、その瞬間に身体が震えるほどの破砕音が背後から響いてきた。


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