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#072:大根足

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 村の裏手から外へ出て、その背後に(そび)える山の方へと延びる一本道を歩いていく。

 そこは意外にもまともな造りとなっているものの、随所には固く刻み込まれた窪みが幾筋も走っており、迷宮が見つかったことで整備したにしては古くささを感じてしまう。


「マチルダさん。この道って、元は何かに使われてたんですか?」

「この先に鉱山があったんだよ。ここは採掘した鉱石を運ぶための道だね」

「そうなんですか。迷宮のせいで使えなくなったのかな」

「いや、とっくに掘り尽くして放置されていたらしいよ」


 今となっては(しな)びた農村だけれど、元々は鉱山の町として賑わっていたみたい。

 村というには意外と広かったり、ボロボロの家屋がやたらと多かったりした理由は、このような過去があったからなのだね。その当時の人たちが重たい鉱石を積載した荷車や馬車で何度も通っていたら、(わだち)も深くなるってものか。


 そんな歩きやすそうで歩きにくい道を時折窪みに足を取られながらも進んでいくと、村から見えていた山の麓へ近付くにつれて妙に虫を見かけるようになってきた。

 もう冬なのに活動しているのはこの世界特有の現象だけれど、未だに慣れないのよね。

 それに、慣れないといえば他にもある。


「あ、大根だ」

「あら本当。足腰強くておいしそうね」


 どこからともなく大根が走ってきて、私たちの前を横切り一目散に(やぶ)の中へと消えていく。

 なにも驚くことはない。大根だって生きているのだから動いて当然だ。

 しかし、走り回るお野菜というものが、どうにもこうにも落ち着かない。


 移動するのだから落ち着かないのは当たり前だけれど、私が言いたいことはそういう意味ではなくて、植物は自立歩行しない――という前世の常識を捨てきれないのだよ。

 記憶保護には日々お世話になっていても、細かいところで融通が利かないからなぁ……。


「逃げてきたってことは、何か居るのかもしれませんね。ボクが見てきましょうか?」

「そうね、お願いできる? 魔物がいたら始末しておいてね」

「ええ。任せてください」


 お母さんの隣で荷車を引いていたマチルダさんが列から離れ、大根が走ってきた方向に見当を付けて歩いていった。

 私たちがその場で待機していると、先ほどの個体と思しき大根が(やぶ)の中から現れてはどこかへ走り去り、程なくしてマチルダさんが戻ってきた。


「虫でした。大量の害虫が畑に群れてました」

「……それじゃあ先を進むわよ」


 虫食いを恐れて逃げ惑う大根。

 村で布教活動をしていた聖職者には、子羊よりも大根を助けてあげてほしい。

 どちらも似たような色だしね。




 この付近に魔物は見かけなかったそうなので移動を再開したけれど、山の麓に広がる森の中に入ってからは、固く踏みしめられた道にすら虫が歩いている姿を度々見かけるようになる。

 さすがにこれは多すぎやしませんか。


「なんでこんなに虫が多いんだろう?」

「迷宮が近いからよ」

「……何か関係あるの?」

「そりゃあ、迷宮で生まれるからね」


 虫なんてどこにでも湧いてくると思ったら、この場合は意味合いが変わってくるようだ。

 ある日、先ほどのようにお野菜が虫に食い荒らされることが頻発し、時を同じくして珍しい昆虫を見かけるようになり、もしやと思った村の誰かが調査に赴いたらしい。

 すると、打ち捨てられた坑道が迷宮化していることを発見して大騒ぎとなった。

 このまま放置していては迷宮で生まれた魔物が外へ溢れ出して危険なことになるため、その元を絶つ計画がこの地を治める領主によって立ち上げられた。


 今すぐに魔物が溢れるとは限らないけれど、行ってみれば大迷宮ということも珍しくない。それを懸念したお貴族様や村の偉い人たちが迅速に計画を進めたものの、迷宮の成長度合いが想定以上に速かったことで村の兵士や住民だけでは対処が間に合わない。

 領主も関わっているのであれば自らが抱える騎士団を出せばよいのだけれど、少し足を伸ばすだけで小国群が広がっている。この位置関係から軍事行動と捉えられかねないので気安く出撃させることは難しく、国を(また)がって活動できる冒険者ギルドへ依頼を出すに至ったわけだ。


 若干、話が逸れてしまったけれど、迷宮から魔物が溢れ出す最初の段階として珍しい昆虫を見かけるそうで、言い方を変えたらまだ大丈夫というサインでもあるのだとか。


「なんだか、迷宮って生き物みたいだね」

「生き物というか、魔石とオーブの産物って言われてるわよ?」


 何らかの要因により地中深く埋まった巨大な魔石と複数のスキルオーブが融合した――という説が最も有力らしく、それが原動力となって迷宮は自動的に運用されているそうだ。

 迷宮を討伐するとはその中核を破壊することであり、報奨金もたんまり貰えるみたいだよ。


「迷宮を作るスキルがあるんだね。もしかしたらバグったやつかも……」

「バグ? 虫ならそこら中にいるじゃない。食べたいの?」

「いやいや、いらないから。そんなことより報酬だよ。誰からいくら貰えるの?」

「まったく、相変わらず現金な子ね。……コインだけに」

「………………」

「えっと、レアさん。ボクでよければ悩みを聞きますよ?」


 年甲斐もなく頬を赤く染めたお母さんのことはマチルダさんに任せよう。

 私は貰えるお金のことが知りたいのだ。


「エミリーとシャノンは何か知ってる?」

「領主とこの村の守護、あとは村長の連名で依頼だったから、その全員から貰えるよ」

「おお、領主! 絶対金持ち! 期待が膨らむ!」

「それってギルドにあったやつでしょ。サラは貰えなくない?」

「なんてこった! 私も冒険者登録しておけばよかった!」


 そうだよ。依頼が出ているのは冒険者だけだよ。私はただの行商人だよ。ふぁっく!

 今から短距離転移で戻って登録を――ダメだ。ポイントを稼がないと依頼を受けられない。

 お金のためならゴネることも(いと)わないけれど、普段の営業に差し障りができてしまう。

 ランク不足なのに依頼を受けた問題児の店なんて言われたら商売あがったりだよ。


「落ち着いてサっちゃん。大丈夫だから」

「……本当に? いつもの冗談だったら泣くよ?」

「迷宮が出た土地の領主は、破壊されたメイズコアを買い取る風習があるんだよ。そのお金はギルドとか関係なくて、討伐したチームに対して渡されるんだ」

「ほうほう。それがお高いのですな」


 それと、領主には及ばないものの村を救った功績として守護からは金一封と粗品が供与され、村民を代表した村長からは村の工芸品や農産物を贈られるそうだよ。

 これらも冒険者ギルドを通したものではないので、私も手に入るようで安心した。


 しかし、それらに比べてしまうと冒険者ギルドからの報酬はあまり多くないらしい。

 ある程度のお金は貰えるそうだけれど、領主によるコアの買い取りが非常に高額なことと、迷宮内で拾える同業者の落とし物や、迷宮が生まれたことで地中に変動が起こって露出した鉱物と、埋もれていた魔石にスキルオーブ、外の世界とは一風変わった魔物の素材が高く売れることもあり、冒険者ギルドは経費削減を図っているみたい。

 その代わり、懐が痛まないどころか逆に肥やすことになる貢献度ポイントが、他の依頼とは一線を画すほど付与されるのだとか。


 冒険者ギルド自体が物好きなお貴族様によって作られたものだし、そちらを立てる意味を込めてこのような在り方を取っているのかもしれない。

 せめてもの気持ちが貢献度ポイントなんて、裏では商人が糸を引いていそうだね。


「そんなわけで、サっちゃんもわたし達と変わらないくらいお金が手に入るはずだよ」

「さぁ、行こう。すぐ行こう。今すぐ行こう!」


 その話が聞こえていたのか、前で荷車を引く二人から失笑が漏れ、お母さんからは『だから気が早いって言ってるでしょ』と(たしな)められた。

 荷車が空にならないと迷宮に入るつもりはないみたいだから、売り込みをがんばらないとね。




 そんな話をしているうちにも迷宮へ近付いていたようで、まれに大きなトカゲや毒々しい色合いのヘビなどが姿を見せるようになってきた。これら爬虫類は昆虫よりも後に出てくるそうだけれど、元から住み着いていたものなのか判断できず……いや、普通は冬眠する時期だから迷宮産で間違いないのかも。

 仮にそうだとしたら次の段階へ進んでいるという事なので、迷宮がさらに成長している証明となってしまい、危険度が増したとも考えられる。


 この迷宮が発見されて結構な日が経つというのに、討伐に向かっている冒険者たちはいったい何をしているのか。

 私がそれを気にしても仕方がないので、襲い掛かってくるものだけを倒しながら進んでいると、山の崖にポッカリと口を開けた洞窟――廃坑が見えてきた。


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