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#070:キャラバン

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 荷物が積載する荷車を引いてはいても、私以外は皆が体力お化けの冒険者ということもあり、このままでは前方をゆっくりと歩く集団に追い付いてしまう。横から抜こうにも割と長い行列だから、何となく気まずい空気が流れそうだ。

 そんな不安は私だけではなかったようで、荷車を引くお母さんが指示を出してくる。


「サラ。エクレアはスタッシュに入れておいて」

「あの人たちに見られたらまずいの? もう飛び掛かったりしないんだけど」

「ぷもぷも」

「念のためよ。念のため」


 何もなければ後で出せばよいのだし、言われたとおりにエクレアをスタッシュに吸い込んだ。

 それ以上は何かを頼まれることもなく、私たちは速度を落とさず歩いていく。


 既に私たちの存在は捕捉されていたようで、そろそろ最後尾に接触しそうなくらい近付くと、行列の中程にある馬車から降りた裕福そうな装いの男性が、冒険者か兵士を伴ってこちらの方へと向かってきた。


「これはまた、お美しいお嬢様方だ。我らは南の方を廻っているのですが、行き先が同じならご一緒しませんかな?」

「よろしいのですか? 是非ともお願いします」

「では、こちらへどうぞ」


 私たちを代表してお母さんが受け答えをしていた。

 お嬢様と言うにはいささか歳が……いや、何でもない。だから睨まないで。


 そのまま裕福そうな男性に促されて行列のやや前方に加わり、案内を終えた彼は伴っていた護衛を一人だけ私たちの傍に残して元居た馬車へと戻っていった。

 列を追い越す最中に見かけた人たちも、私たちと同じように誘われたのだろうか。


「ねぇ、お母さん。なんでこんなに人が集まってるの?」

「そのほうが安全でしょ?」

「そうだよ。長距離移動中に隊商を見かけたら、できる限り入れてもらったほうがいい。サラ君には心強い護衛がいるけど、今後も遠出することがあれば覚えておくといいよ」


 そうか。これは隊商――キャラバンというやつだったのか。

 中央列の馬車や荷車を守るようにしているし、言われてみれば確かにそのとおりだ。

 時期的にも行き先が同じであれば、迷宮付近の村から応援要請が出ていたのかもしれないね。

 ということは……この人たちは私の敵にあたるのでは。


 これだけの人数。これだけの物資。そして、とても身なりのよい人物。

 それなりに育った私のスタッシュでも太刀打ちできない物量を相手にして、これからどう立ち回るべきか頭を悩ませていたら、後方を歩くおじさんから話し掛けられた。


「よぉ、嬢ちゃん達もあの村に行くのか? 稼ぎ時だもんな」

「え、あ、はい。あちらは大変みたいですね」

「なんでも迷宮が見つかったんだとよ。そんで人が押し寄せて食うもんもないとか聞いたな」

「それで皆さんは物を売りに行くところだったんですね」

「俺らはただの運び屋さ。売るのはさっきの旦那だろ」

「あっ、そうなんですか」


 暇潰しがてらにおじさんが話してくれた内容によれば、私と同じような行商人が列を成しているのではなくて、この集団は一つの商会が組織する隊商らしい。

 それに、わざわざ狩場に赴いてまで商品を売って回ることもなく、村へ運んだ物資をその場で販売するだけとのことで、私のやり方とかち合う危険は考えなくてもよさそうだ。


 これなら敵は少ないと言えなくもないような……。

 あまり気負いすぎる必要はないかもしれないね。

 それでも、途中で人を見かけたら私たちのように誘いをかけているそうなので、行商人自体は少なからず居るみたいだけれど。




 私たちが隊商に加わってから少し歩いたあたりで日が暮れてしまったので、ここらで野営を行うことになった。

 あくまでも移動を共にするだけだから、ご飯や寝床の準備は自分でやらなければならない。

 それを私も含めて皆が慣れた手付きで着々とこなしていき、ヘンテコ魔術を誤魔化(ごまか)すために魔道具風の小箱もスタッシュから取り出して、楽しいディナータイムと相成った。

 不必要な箱を出しても邪魔になるけれど、人目があるから仕方ないのだよ。


 そして、私たちがお喋りしながらも温かいご飯を食べていると、周りにいる人たちから羨望の眼差(まなざ)しが集まってくる。

 それを面映(おもは)ゆく思いながらも食事を続けていたら、隊商に誘ってくれた裕福そうな男性が魔道具風の箱へ射貫くような視線を注ぎながらも、こちらに向かって歩いてきていた。

 その隣には、いつの間にか姿を消していた護衛を連れている。


「これはこれは。保温庫の魔道具ですか。しかも小型とは、面白い物をお持ちで」

「ええ。まあ」


 冷蔵庫の魔道具は存在するのだから、保温庫の魔道具も有るといえば有る。だからこそ、私のヘンテコ魔術を誤魔化(ごまか)すための小道具として思い付いたのだ。

 しかし、物を腐らせないように冷やす冷蔵庫とは違い、主に温かさを保つために用いられる保温庫はあまりメジャーなものではない。何かを温め続けるよりも必要に応じて火を(おこ)せばよいのだから、冷蔵庫を買えるようなお金持ちですら食指が動かないのだと思う。

 その冷蔵庫にしたって、詠唱者の体臭が絡みついた氷を受け入れられるのならば、魔術的な回路を持たないごく普通の――氷で冷やすタイプのものが使われているしね。


 そのような理由から保温庫の魔道具はあまり出回っていないけれど、変なことを口にして問題が起こっても面倒なので、適当に相づちを打っておいた。

 それを受けた裕福そうな男性は気を悪くすることもなく、にこやかな笑顔で話を続ける。


「それに、スタッシュまでお持ちのようで。不躾ですが、いかほどの容量がお入りに?」

「あまり入りませんよ。大きければ荷車なんて必要ありませんから」

「確かにそのとおりですな。しかしながら、お綺麗な上にそのような力までお持ちとは、さぞや名高い商会にお勤めなのではありませんかな?」

「そう……ですね。規模はまだ小さいですが、とても素敵な店主がいるところですよ」


 まだ目立つような傷すら付いていない真新しい自家用車が早くも役に立つとはね。

 荷物を運ぶことではなく、私の引き抜きを回避するためだけれど。

 これを機会に、お母さんには先見(せんけん)(めい)に目覚めてくれたらいいのになぁ。


 そんなお母さんは私の言葉を聞いて口元が少し緩んでいるような気がする。

 あまり顔つきを崩すと素敵な店主から遠ざかってしまうよ。


「やはりそうでしたか。……ところで、話は変わりますが、その小型保温庫を入手した工房の所在をお教え願えませんかな? もちろん、謝礼をお渡しいたします」

「えっと……すみません。これはまだ試作品の段階ですので他言はできないんです。事情はわかっていただけると思いますけど」


 今までにこやかに話していた裕福そうな男性――どこぞにある商会のお偉いさんは、表情を取り繕うことに限度が訪れたようでほんの少しだけ口元をゆがめてしまい、謝罪と別れの挨拶を残して立ち去った。


 周りの目があるためか、素直に引き下がってくれてよかったよ。

 隊商の関係者だけならまだ何とかできても、夕食を遮られて鋭い目つきになっていた四人の冒険者を相手にするのは大変だものね。


 あれ以降は商会側から接触してくることもなく、防寒のテントを張って交代で見張りを立て、外から遮られているなら大丈夫だろうと遅い晩ご飯を食べたエクレアと一緒に仮眠をとった。

 そして、翌朝からは南へ向けての移動を再開する。




 王都から数日ほど離れたころに、集団の先頭を歩く隊商の護衛が色めき立った。

 すぐに私たちの元にも伝令役の人が走ってきて、話が終われば次へと急ぐ。


「それじゃあ、ちゃちゃっと倒してくるから、サラ達はここに居なさいね?」

「わかった。気を付けてね」


 どうやら前方にオークの群れが現れたそうで、それを打倒しなければ進めないらしい。

 隊商にまぜてもらったからには、このような事態に遭遇したら応援要請を受ける義理がある。義務ではないのだからと動かないでいれば、隊商から叩き出されることもあるのだとか。

 そこで、可能な限り人を出してくれるように言われていたけれど、お母さんとマチルダさんだけが戦線へ加わり、小一時間もすれば殲滅していた。


 もはや見飽きたゴブリンとは違って粗末な剣や斧で武装していたようだけれど、隊商全体をみればそれなりに護衛がいるのだから苦戦することもなかったみたい。

 これは人間相手にも言えることなので、盗賊に襲われることも滅多(めった)にないそうだよ。




 道中の町や村に立ち寄りながらも移動を続け、その地の領都を発ってから数日が経過したあたりで、ようやく目的地が見えてきた。

 大きな山を背景にして畑で囲まれるようにポツンと佇む村なのに、大勢の人が居る気配だけはここまで伝わってくる。


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