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#069:自家用車

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 迷宮へ出立する日取りを皆に伝えて回り、迎えた当日には朝早くから町を発った。

 これから向かう先はこのグロリア王国でも南の方にあり、小国群と隣り合うように位置するミード領はヘイデンの村というところだ。

 途中で野営をしながらも王都を目指し、そこから街道に沿って南下していくと辿り着ける。

 所要時間はどんなに早く見積もっても半月はかかるらしい。


「さっきからキョロキョロして何見てるの? こんな街道に魔物なんか出ないでしょ」

「道を覚えてるだけだよ。ずっと同じ風景が続いてるから何か目印ないかなって」

「王都までの道程はわかりやすいから迷いようがないと思う」


 私の短距離転移を連発すればすぐに到着すると思うけれど、道順がサッパリわからないので歩いて向かうしかない。たまに出てくる標識さえ覚えておけば、今後は一瞬で行き来できるのだから少しの辛抱だね。


 そうやって南の僻地へ何を売りに行くのか散々悩んだ結果、結局はサンドイッチとポトフに井戸水という基本のセットで落ち着いたよ。初めて赴く場所ではその土地の好みもわからないのだし、無用な冒険をして破産になったりしたら笑えないもの。

 それでも足りない分は、お母さんとマチルダさんが前で引き、エクレアの応援を受けた私たち美少女三人組が後ろから押している荷車に、いろいろな商品を積み込んでいるから安心だ。


 そう、荷車。とうとう我が家でも自家用車を導入したのだよ。

 もちろん、いつもお世話になっている木工工房で作ってもらったともさ。

 私以外は皆が冒険者でもあるので、完全武装でそれを引く様はどこかシュールに映る。


 その荷台には、日持ちのする保存食として堅パンやチーズに干し肉などを積んでおり、お酒もある程度は持ってきている。それに、いつもの傷薬が大量にあるし、筋力や体力の増強剤に解毒剤、ハーブの丸薬も忘れていない。

 さらにそれだけではなく、村では日用品なども不足して困っているのだ。石鹸(せっけん)蝋燭(ろうそく)などの消耗品も載せ、生活必需品だけではなく迷宮探索にも欠かせないランタンとオイルのセット、迷宮からは簡単に町へ戻れないだろうという予測で少量の砥石も用意されている。

 他にもまだ収集品を入れる袋とかもあるけれど、すべてを挙げていたら切りがない。

 これこそまさに移動型の雑貨屋さんだね。


「ちょっと大きかったかしらね、この荷車」

「そんなことないですよ。いっぱい物を運べたほうが絶対にいいですって。サラ君には少し厳しいかもしれないですけど」


 ただ、荷物を満載すると身体強化を施した人でなければ動かせないという問題が浮上する。

 今となっては私が使えるスタッシュのほうが荷車よりも物を運べるけれど、いつもはこれ以上の物資を持ち歩いていると思えば魔術の便利さに脱帽してしまうよ。


 便利といえば、シャノンに頼んでいた腕輪の改造は無事に仕上がり、五人と一匹でまたお揃いの物を身に付けている。その代わり、私が服の修繕を頼んだことでエミリーによる飾り立てが間に合わず、それでも限られた時間の中でお母さんとマチルダさんのバンドだけは何とか作り上げていた。

 既に使っていた私たち三人組とエクレアは以前の物を取り付けてあるので、遠目から見ただけでは大きな変化を感じないかもしれない。しかし、間近で見れば本体である金属板の形が変わり、その厚みも増していることに気付くはず。


 残念ながら通話機能はないものの、大きくなった本体にはバイブレーションが搭載されたよ。

 距離を調べる時と同じく、新たに取り付けられた送信先を指定する突起に触れながら魔力を流せば、それを受信した腕輪が着用者の魔力を消費して振動でお知らせしてくれるのだ。

 しかも、誰が発したのかまでわかるという優れもの。


 それに伴い、以前は全員の位置が同時に点灯されて少々不便だったので、これも個別表示に対応してくれた。

 ただし、距離を調べる場合は送信者が、緊急信号であれば受信者の魔力消費が大幅に増えてしまったので、基本的には魔力量に余裕のある私へ送るように皆で取り決めているよ。


「今のままだとサっちゃん専用だから、次は燃費の向上をがんばります。……じぃじが」

「あれだけの予算でこれを作るって、シャノンのお爺さんはすごいよね」

「売れ残りの魔改造とか、趣味に走った新規開発が生き甲斐だから」

「でも、製作費用って本当にあの額でよかったの?」

「使ったのって部品代くらいだからね。それもまとめ買いしてるし」

「今回はバタバタしちゃってたから無理だったけど、今度なにかお礼持っていくね」


 私もシャノンのお爺さんを見習って、売れ残りを改造して新たな商品にしようかな。

 ただの思い付きだと、いつだったかのリゾットみたいな悲劇もあるからそれも難しいか。

 この世界は私の知らない歴史を辿っているので、前世の知識をそのまま持ち込んでもあまり意味がないということが頭を抱える主な要因だよ。


 お爺さんの魔道具開発秘話などを聞かせてくれたシャノンとの会話に一区切り付き、私がそれを活かした商品に考えを巡らせていると、腕輪を眺めながらも荷車を押していたエミリーが口を開いた。


「この腕輪さぁ、もうちょっと小さくならない? なんていうか、ゴツいのよ」

「……これ以上の小型化は厳しいと思う」

「私が言ったやり方だと、もっと分厚くなるんだっけ」


 試作品のお披露目(ひろめ)で振動機能を知って、軸の片面だけに重りを付けて回すという細工を提案したのだけれど、それだと現状より厚みが増して邪魔になる事と、仕組みを用意するなら余計にお金がかかると言われたので取り下げた。

 今は特定の魔力ノイズを流せば暴れるという魔物の部位を中に入れてあるから、軸がぶれて回らなくなるような不安もない。

 そういった事情を伝えてみると、エミリーは首を振って自分の考えを述べる。


「そうじゃなくて、これだとかわいく飾れそうになくってさぁ」

「なんだ。それだったらゴージャス路線に変えてみたら?」

「どういうこと?」

「う~ん……華やかで大人な女性って感じ?」


 私の適当な意見では閃きに繋がらなかったようで、唸り声を上げながらも腕輪とにらめっこし続けていた。

 何らかの拘りを持っているのかもしれないけれど、これ以上機材を改良するには限度があるので何とか呑み込んでもらいたいな。




 そんな風に私たちが話すのと同様に、前方を歩くお母さんとマチルダさんも仲良くお喋りしており、数日ほど歩いたころにはこの国の王都が見えてきた。

 食べ物と飲み物なら私のスタッシュに入っているから通り過ぎてもよいのだけれど、そればかり消費しているとあちらで売る商品が減ってしまうので、買い足す意味も込めての寄り道だ。


「そういえば、みんなはギルドの依頼受けてきたの?」

「話聞いた後すぐに行ってきたわよ」

「モチモチロンロン」


 思っていたよりも準備期間が長かったので抜かりはないようだね。

 仮に忘れていたとしても、同じ案件が出ていればよその町にあるギルドでも受諾はできる。

 しかし、その依頼者が各地を廻って発注していなければ、あまりに離れた土地ではそれも難しいけれど、今回の迷宮みたいに大きなものなら王都でも受けられるはずだ。

 というか、王都や領都なら大抵の情報が集まっているから、人数制限されていない依頼なら共有されているのが当然らしいよ。


「そうそう、その時に知ったんだけどさ、迷宮ってランク制限あるんだって」

「へぇ。そうなんだ。受けられたんだったら、ランクは足りてたんだよね?」

「うん。D以上からなんだって。ギリギリセーフ」

「正確に言うなら制限ではないよ。あれはただの目安だから、ミリっちのランクが上がってなくても受諾はできてたはずだよ」


 ほぼお試し期間のFからEへの昇格を省くと、ランクを一つも上げられない冒険者が危険な迷宮に赴いて勝手に死ぬだけならばまだしも、他の人たちを巻き込むような惨事を引き起こしては害悪でしかない。そこで、冒険者ギルドからは一応の規制をかけられている。

 しかし、任務の遂行を優先するためなのか、どうしても――と粘れば受諾可能なこともあり、低ランク冒険者が迷宮に入り込むことも珍しくないらしい。何をするにも自己責任に変わりはないものの、目標を達成しさえすれば報酬が貰える。おそらくはこれが原因なのだろう。


 そんな話をしながら意外と安い入都税を払って王都へ入り、外で待つお母さん達とは別れて飲食物の補充をする。普段来ることのない場所で相場を見聞きして少し興奮した私をエミリーとシャノンが引っ張り続け、せっかくなのでシャノンの実家――両親が営む古物店にも顔を出し、あまり長居することなく巨大な門から外へ出た。


 そのまま歩くこと数時間。

 夕暮れも差し迫った頃合いに、見通しがよい幅広の街道を練り歩く行列が視界に入った。

 中央には馬車や荷車を引く人たちを据え、それらを囲むようにして兵士か冒険者らしき人影がポツポツと歩いており、なんとも異彩を放つ集団だ。


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