#066:進路変更
2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。
森の中から私を狙撃してきた悪党どもを町へ連れ帰って売り払うためにも、尋問を終えたことで『喋ったんだから解放しろ!』とか喚く男の時間を停止させたり、服の破れをエミリーに繕ってもらったりして着々と準備を進めていく。
しかし、これから行商に赴く途中だったこともあり、私のスタッシュには大量の商品を詰め込んでいる。そこで、やつらが持ってきた荷車を使おうと思ったのだけれど、四人とも載せるには小さすぎてそれも難しい。袋やロープなどの少ない荷物が入っていた木箱を降ろしても、棒を投げつけられていた小柄な若者と、弓を構えていた女傑しか載せられなかった。
ひとまず、この状態で荷車を引いてはみたものの、私とシャノンの力では車輪の回転が重く、そこに人間を二人も載せているものだから体力的な問題ですぐにバテてしまった。
最終的は残りの二名も荷車にくくりつけて、今までそれらを引きずってきたエミリーに後ろから押してもらいながら進むことになったよ。
「ふぅ……。エミリー、魔力は大丈夫?」
「それはまだ平気なんだけど、上に載せた木箱は捨ててかない? 落ちそうなのよ」
「う~ん……一応、お酒とか干し肉も入ってたからなぁ……。捨てるのが惜しいというか」
「ふふふ、サっちゃんらしいね」
「ぷもっ! ぷもっ!」
「なに、エクレア。食べたいの? でもダメだよ。売ったお金で新しいの買ってあげるからね」
荷車に結びつけたロープを引いてくれているエクレアが、干し肉という言葉に反応したようだけれど、これを食べさせる気には到底なれない。なにせ、四人揃ってかなり臭かったからだ。
不衛生なものを食べてお腹を壊すと困るので今は我慢してもらいたい。
そうして亀のような歩みで町を目指していると、後方から馬の足音が聞こえてきた。
街道なのだから人や馬車が通るのは当然のことで、その運行を妨げないよう端に寄っていたら、私たちをゆっくりと追い越した荷馬車から声を掛けられる。
「……おや、そこにいるのはサラ君かな?」
「え? あっ、マチルダさん! お久しぶりです」
「何やら荷物が多いようだし、よかったら乗っていくかい?」
「いいんですか? ありがとうございます」
幌のない荷台に乗り込んで背中を側面へ預けて座り、あまり元気のない笑顔を浮かべたマチルダさんが馬を止めるように御者へ指示を出してくれた。
動きを止めた荷馬車へ近付くと、僅かな積み荷が載る荷台にはチームメイトが一人だけ同乗していたようで、こちらも元気がない。……というか、憔悴しきっている表情なのだけれど、相当な激戦をくぐり抜けてきたのかな。
そんな彼女たちを心配に思いながらも、私たちが運んできた幅を取る荷物はどう積み込めばよいのか悩んでいたら、それに気付いたらしいマチルダさんから提案を受ける。
「連れていたのは盗賊団かい? それは荷馬車に結べばいいよ。旦那、構わないね?」
「んあ? ああ、いいぞ。運賃は多めに貰ってるからな。二頭引きだし、それくらい余裕ってもんさ。何なら俺っちが手ぇ貸すぞ?」
そう言って荷馬車から降りた御者のおじさんが率先して作業をこなし、不安定な状態で荷車に積み上げていた悪党どもや木箱は、落とさないように自前のロープできつく縛り付けられ、それを荷馬車に連結する作業も手早く済ませてくれた。
その際に、御者のおじさんが口にした『なんだこいつら、全然動かねえな。死んでるのか?』という言葉を聞いて、何かを握りしめるチームメイトの肩が震えていた。
荷台に乗せてもらってからは、チームメイトは眠ったようでマチルダさんだけが喋っている。
話の合間に近況を問うてみたら、まるで自嘲するような笑みを浮かべて『迷宮に行ってきた帰りだよ』とのことだ。そこに興味を持ったらしいエミリーとシャノンが食いつき、私もいろいろなことを聞かせてもらったよ。
どうやら迷宮付近にある村で寝泊まりしている冒険者が多く、日ごとに人が増えていくせいで食料品などの生活必需品が不足し始めた。マチルダさんのチームに事故が起きたこともあり、補給と療養のためにも町へ帰ることにしたのだとか。
その帰り道で仕事を終えた行商人――この荷馬車を操る御者のおじさんと知り合い、途中で私たちが暮らすブルックの町にも寄るからと、お金を払って乗せてもらっていたらしい。
迷宮かぁ。依頼掲示板に出ていたけれど、場所がかなり遠いのよね。
話を聞く限りでは想像以上に稼げるチャンスが転がっていそうなのに、お母さんとはあまり遠くに行かないという約束をしているから無断で出向くと怒られそうだ。
どうせ商売するのなら、募集が始まったばかりの古代遺跡よりも、既に多くの冒険者が訪れている迷宮のほうが儲かりそうだし、帰ったらダメ元で相談してみようかな。
そうして街道を荷馬車に揺られ、ロープで拘束してあるとはいっても悪党どもの時間を止めたままだと御者のおじさんに怪しまれそうだ。お肉を自然解凍するがごとくゆるやかに速度を上げていくと、町の門に到着するころには喧しく騒ぎ立てていた。
その声を聞いたらしい門番が駆け寄ってきて私たちに指示を出し、御者のおじさんも僅かとはいえ荷物を載せているので検閲を受ける必要があり、急いで場所を変えることになった。
そこでマチルダさん達と別れる前に、相乗りさせてもらった分の料金を払おうとしたら朗らかに断られたよ。かといってタダでは申し訳がないので、ここ最近私のお店で人気急上昇中の商品を入れた小袋を取り出した。
「では……代わりにこれをどうぞ。皆さんで召し上がってくださいね」
「なんだい? とてもよい香りがするね」
手渡した小袋の中には、優しい甘さの蜂蜜と塩気を効かせた木の実を練り込み、噛むたびにザクザクとした食感を楽しめるナッツクッキーが入っているよ。
おやつによし、携帯食によし、夜間の見張り中に小腹が空いた時にもぴったりなので、これがまた飛ぶように売れるという脅威の一品である。
お砂糖は一切使っていないから蜂蜜以外の材料も安く手に入り、私の加熱を使えば自宅でも容易く大量生産できる上に、時間を止めずとも風味が長持ちするという大きな利点もあるのだ。
その後は皆でお礼を述べ、どことなく羨ましそうに見てくる門番の兵士さんに急かされて、門の脇に立てられた詰め所へと向かった。
頭に被せておいた袋で周囲が見えずとも状況を察したのか、静かになった悪党どもは門番の兵士さんに連行されていった。それを見送った私たちは木箱を抱えて詰め所に入り、身分証を提示してからはそこにいた中年のおじさん兵士に話を聞いている。
「……そうですか。依頼に出ていた盗賊団ではないんですね」
「どうせ金に釣られて雇われた冒険者崩れだろうな。そんで、こいつらは売却でいいのか?」
「はい。引き取って面倒見る気はありません」
「んじゃ、ちと待っててくれ。金用意するからよ」
戻ってきたおじさんから代金を受け取った私は、一五枚の銀貨を手にして詰め所を後にした。
四人の人生がたったの銀貨一五枚に早変わりだ。こんな額では破れた服すら買い直せないよ。
特筆すべき点のない奴隷なら、庶民の平均的なお給料を一年間貯金し続けてようやく誰か一人を買える値段だけれど、罪を犯した輩を欲しがる者などいるはずもない。彼らは専門の機関に買い取られて死ぬまで強制労働を課せられることになるそうだ。
ちなみに、町の兵士ではなく奴隷商人のところで売り払ったとしても、犯罪者の買い取り額は一律なのでまったく儲からないらしい。
そんなものは適当に誤魔化せばよいと思われそうだけれど、あの手の仕事を生業にしている人たちに嘘が露見した場合のリスクを考えると……ねぇ?
詰め所を出てからは受け取った代金を皆で山分けし、悪党どもが身に付けていた装備品などは『売れば服が買えると思う』と言って、二人が分配を辞退したので私の所有物となった。
そして、またいつものように冒険者ギルドへ顔を出すらしい二人と別れた私は家路に就く。
これを売り払ったお金は私の服だけでなく、二人にも何か買ってあげないとね。
それとも、お菓子の試作品を渡したほうが喜ぶかもしれない。
今の段階でも個人用にお砂糖だって買えるのだから、新商品を考えるためにもアレを作ってみようかなぁ。
そんなことに思いを巡らしながらも家に入り、予想外に早く帰ってきたことで驚くお母さんに迷宮行きの相談をしたのだけれど、案の定色よい返事はもらえなかった。
しかし、私がすんなりと諦めたことを不審に思ったのか、ジト目で睨んでくるお母さんから爆弾発言が飛び出した。
「どうせ黙って行く気なんでしょ? それなら、お母さんも一緒に行くわ!」
「……えっ」
こうして、新米冒険者と中堅冒険者のペアを護衛に雇った見習い商人のチームに元ベテラン冒険者が加わり、バランスを度外視した歪でちぐはぐなチームが結成された。
明日は朝一でエミリーとシャノンに相談しないとね。……お母さんがめっちゃやる気だって。
お読みいただきましてありがとうございます。
ここらを区切りに、またもや話の舞台が変わります。
投稿は変わらずこのペースで続けますので、これからも応援していただけると嬉しく思います。




