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#065:謝罪よりも賠償を

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 陥った状況がわからないからといって、ただ焦るだけでは無駄に時間が流れていくだけだ。

 しかし、落ち着いて考えようにもジンジンと疼く痛みがいかんともし難く、まずはそれを対処するために時間の魔術を行使して数秒前の身体を取り戻した。


 その頃にはシャノンと何か言い合っていたエミリーに抱きかかえられており、周囲の様子が視界に入ってくる。不安げな表情を浮かべるエミリーの肩越しには、先ほどシャノンが張ったと思しき氷の壁が見えていて、そこには一本の太い矢が突き刺さっていた。


 どうやら私が痛みに呻いている間に飛んできていたらしい。

 氷壁のこちら側にも一本落ちているので、私も同じような目に遭ったのだろう。

 武器屋さんで扱われている矢に比べたら随分と大きいけれど、服に空いた穴と同じ太さだし。


 ああ、そうだ。服に穴が開いてしまった。

 安めの上着だけならまだしも、中に着ていたお嬢様風の服にまで貫通していたのだ。

 これはもう、弁償させなければ――いや、もっと高い服を買わせなければ気が収まらない。

 どこの誰だか知らないけれど、断固として許すまじ!




 徹底抗戦の決意を固めた私は、心配そうに見てくる二人に『ちょっとおバカさんを捕まえてくるね』と言い残し、一人で行動するときと同じく身体の時間を大幅に加速させた。


 どこから矢が飛んできたか見ていないけれど、氷壁に突き刺さった物を見れば一目瞭然だ。

 あとは魔力の流れを辿るだけで下手人の元に行き着くことが叶うでしょう。


 しかし、魔力支配を酷使して辺りを調べてみても、魔力の流れがまったく感知できない。

 より正確に言うならば、場所と方角的にシャノンとエクレアが使ったらしきものは検出できても、氷壁に刺さった矢には魔術が使われていないようだ。

 これが狙撃に使われた弓の怖ろしさというわけか……。


 こうなってしまうと私では手も足も出せず、氷壁の先に広がる森に火をつけて下手人をあぶり出そうかと悩み始めたところで、豆粒のようになったエクレアを視界に捕らえた。

 きっと、矢に残った匂いを追っていったのだろうね。

 衝動に任せて火を放つ前に気付けてよかったよ。


 色褪せた世界の中を小走りで駆け、森の手前にまで進んでいたエクレアの元に追い付いた。

 これで加速を解除すればエクレアが導いてくれると思うけれど、風のように速い魔獣が走り寄ってきたら驚いた下手人が逃げるかもしれない。

 ここのところ、とんと使っていなかった潜伏の魔術を用いて忍び寄る策をとっておこう。


 私自身に周囲の空間を歪曲させる認識阻害の魔術をかけ、エクレアにもそれをかけると――ああっ、もう! これだと見えないじゃん! 追えないじゃん! 森、燃やそうかな……。


 行き詰まったように思えて頭をグシャグシャと掻きむしっていたら、それに釣られてソナーの腕輪も揺れて頭に当たり、視野狭窄に陥っていた私の脳裏に一筋の光明が差し込んだ。

 これを使えば姿が見えずとも距離だけはわかるのだったね。




 腕輪の光で案内してもらおうにも、私が追い付く前に噛み殺されては服を弁償させられない。

 それならば、速度を落とすよう命令するために直前の記憶を頼りにしてエクレアを探し出し、その身をひっくり返してから色褪せた世界を抜け出した。

 認識阻害の魔術を取り消せば早いのだけれど、矢を射かけられる危険を考慮した結果だよ。


「エクレア、ストップ! いきなりごめんね、見えてないと思うけど声は聞こえるよね?」

「――! ぷも? ぷもぷも」

「あ、こんな状態でも私の場所がわかるんだ。すごいね」

「ぷもーぅ。ぷっもーぅ」


 私が感心していると、膝の辺りにやわらかい何かを軽く押しつけられた。

 密着していても見えないけれど、ドヤ顔を浮かべているに違いない。

 そこで思わずエクレアを突いてみたら『ピゅもッ』という音が鳴った。……鼻だった。


「エクレア。狙撃手を見つけてほしいんだけど、ゆっくり静かに歩いてくれる?」

「ぷも」


 頷くように小さく一声鳴いたエクレアは、その命令を忠実に守って草を踏む音だけを僅かに残して歩いていき、私も細心の注意を払って後に続いた。

 そして、小まめにソナーを飛ばして腕輪を確認し、そのたびにあらぬ方向で光る魔石の色ができる限り紫色を維持するように追っていく。




 腕輪の光を追うこと(しば)し、動きを止めたエクレアらしき丸みに私の足がぶつかったことで、対象の発見を悟った。

 顔を上げてみれば、乱立する木々に身を隠すようにして顔中に泥を塗りたくって立派な弓を構える人と、同じく泥だらけになって大きな袋を握りしめる者がいた。

 泥で汚れてはいるけれど、あの弓には見覚えがある。

 いつだったかの賭け試合で護衛役のひょろ長い男が携えていた物だ。


 しかし、今はアマゾネスのような逞しい肉体を誇る女傑が握っている。……奥さんかな?

 いや、そんな事はどうでもいいか。

 私を撃ったと思われる人物が目の前にいるのだから、とっ捕まえて問い質し、犯人であれば謝罪と賠償を要求しよう。


 そのためには時間を操る魔術で女傑の動きを停止させておき、その隣で大きな袋を握っていた小柄な若い男からも自由を奪っておく。

 次に手足の拘束といきたいけれど、あいにくと手元には短めのロープが一本しかない。

 どちらか片方を縛るだけでは残った者に逃げられてしまうので、エミリーとシャノンに助力を求めようときびすを返し、少し歩いたところで服の裾を引かれて足が滑る。


 こんな時に遊んでいる場合ではないでしょう――と、エクレアに注意すべく振り向けば、森の奥から荷車を引く音が聞こえてきた。


「お~い、終わったかぁ?」

「……おい、コラ、無視してんじゃねえよ。返事くらいしやがれ!」


 小型の荷車を引きながら現れたひげ面の中年男性が時間を止めてある男女に声をかけ、しかし一切の反応を返さないものだから、妙に偉そうな片割れが棒きれを投げつけていた。


 まだお仲間がいたとはね。衝動的なものではなく、組織立った盗賊団か何かかしら。

 知らずに戻っていたら面倒なことになっていたかもしれない。


 それを教えてくれた手柄を褒めようと見えないエクレアを探していたら、偉そうな男が投げた棒きれが袋を握って固まる若者に当たって跳ね返り、さらに宙を舞って私の頭に直撃した。


「あ痛っ」

「――誰だ!?」


 何というか、今日は厄日としか思えない。

 今すぐ家に帰ってベッドの中に潜り込みたい気分だよ……。


 態度の悪い男たちが殺気立ち、武器を片手に『誰だ』『どこだ』と口にしながら周囲を探り始め、その音が聞こえたのか森の外からエミリーとシャノンが歩いてくる姿を見た。


 そこへ飛び出していかないようにすぐさま男たちの時間も停止させ、私を探しに来てくれたらしい二人へ声を掛けてみても辺りを見回すだけだった。

 それを目にして認識阻害の魔術が作動中なことに思い至り、私とエクレアの歪んだ空間を元に戻してから声を掛け直す。


「ごめんごめん。魔術解いたから見えるよね?」

「あ、いた。また何か変な魔術使ったの?」

「姿が見えないなら光属性のインビジブル? スキルオーブ拾ったんだね」

「いやいや、違うよ。そんなの見つけたら売り飛ばすもの」


 特にそれ以上言及されることはなく、時間を止めて捕らえてある容疑者の元へと案内した。

 そこで後からきた男たちが引いていた荷車を調べてみるとロープや袋などを発見し、それを使って四人の手足を背中へ回して縛り付け、頭にも袋を被せておいた。

 そして、リーダー格と思しき棒きれを投げた男の時間を解放して口を利けるようにする。


「さてと。話を聞かせてくれる?」

「なんだこれ。いったいどうなってんだ! おい、今喋ったお前、この縄をほどけ!」

「そういうのはいいから。まずは私たちを狙った理由から教えて」

「ふざけんじゃねえぞクソガキ! さっさと縄をほどけ! 俺を誰だと思ってやがる!?」


 早くも面倒になったのでエミリーに頼んで一発殴ってもらったけれど、余計うるさくなったから黙るまで続けてもらい、最終的には私の加熱で胸毛を燃やした。


「あづッ!」

「もう一度聞くよ。どうして私たちを狙ったの?」

「……あ、ある商会に頼まれただけだ……名前までは知らん」

「ある商会ねぇ……まぁいいや。じゃあ次、破れた服の弁償してくれる?」

「はぁ!? そんなもん知るわけねえだろ! 自分でどうにかしろや!」

「そう。じゃあ死んでね?」


 まともな情報を得られず、それどころか支払いすら拒絶する姿勢が頭にきて、次に尋問する人の見せしめに使おうかと思っていたら、私の袖を引いたシャノンに『奴隷として売ればお金になるよ』という素敵な助言をいただいた。

 こんなものでもお金になるというのなら、生かさず殺さずで全員連れて帰りましょうかね。


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