#064:いくらで売れるかな?
2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。
大人でも手こずるような魔物を倒した翌朝も露店を開き、未だに遠回しの引き抜きをかけてくる不届き者には在庫不足を理由に割増料金で品物を売りつけた。その後、お客さんの波も落ち着いてからは『討伐報酬が貰えるかも』ということで、仕入れも兼ねて町へと帰る。
先日の調査員や、先に遭遇した誰かが報告してさえいれば、これほどの強敵なら間違いなく特別報酬を貰えるらしい。
場合によっては、周辺の町村や冒険者ギルドから討伐依頼が出ているかもしれないそうだ。
そのような話を聞きながら微加速状態で歩いて町まで帰り着き、今回は戦利品が多いこともあって私も冒険者ギルドまで同行した。
出入り口近くの掲示板を見やれば、複数体のオーガが出現した情報は既に共有されており、緊急性は低いものの予想どおりに討伐依頼が出されている。
それを確認してから受付カウンターへ行き、私が戦利品を広げている間にも係員と何やら話をしていたエミリーとシャノンは、たんまりとポイントを付与されていた。
そして、なんとそのボーナスのおかげでエミリーがDランクに昇格したのだ。
残念ながらシャノンはランクアップまで届かなかったけれど、Cランクにはリーチが掛かったようで、硬貨の詰まった小袋も手にした二人はとても嬉しそうにしていたよ。
なお、当然ながら私には何の報酬もない。
私は冒険者ではなく、護衛を雇っただけの商人ですゆえ。……ちょっと虚しい。
「いやいや、それもこれもサっちゃんがスタッシュで運んでくれたおかげだよ」
「そうね。あれがなければポイントはかなり減ってたわ」
「それはほら、二人は護衛以外にも仕事してくれてるから」
などと話しながら、お祝いを兼ねて小洒落たお店で少しお高いディナーを楽しんだよ。
あまり遅くならないうちに帰宅して、お母さんにピタパンの件を相談し、話がまとまったら温かいベッドでゆっくりと身体を休めた。
少し寝過ぎた翌朝は、商品の仕入れと、エクレアが倒してくれたオーガの素材を売りに行く。
冒険者の二人は特別報酬を得るためにギルドへ提出したけれど、私の分は丸ごと残っているので、いくらになるのか楽しみだ。
豊かな顎髭は紡績工房で丈夫な紐に生まれ変わり、立派な角や大きな牙などは骨細工工房でさまざまな武器や防具、物によっては家具の部品として活用される。
まずは筋力増強剤になるという鮮やかな血液を売るために、伝手のある薬屋さんへ向かった。
「こんにちは」
「いらっしゃい。あら、この前の……たしか、シャノンちゃんのお友達ね?」
「はい、そうです。今日はオーガの血を持ってきました」
「まあ! もう倒してきたの? 今朝は妙に冒険者の方々が薬を買いにいらしたから気になって聞いてみたのよね。そうしたらオーガが大量発生したから稼ぎ時だとか言ってて――」
おっと、そうだった。ここのおばさんはお喋り好きだった。
このままおばさんトークに絡め取られて時間を無駄にするわけにもいかず、私が話題の方向転換を試みても悉くが失敗に終わり、結局はおばさん自身が話に区切りをつけていた。
「――というわけなのよ。ほんと、参っちゃうわ。そうそう、オーガの血を見せてもらえる?」
「あ……はい」
少々精神的に疲れたけれど、このお店で売る物をスタッシュから取り出すと同時に、止めておいた時間を解放して机の上に置いた。
「あら。あらあらあら。こんなに状態のよい物は久々だわ。量も多いし高く買い取るわね?」
「そうなんですか? ありがとうございます!」
いつもの癖でついつい時間を塞き止めておいたことが結果的に実を結んだようだ。
この調子なら、同じく時間を停止させてある他の部位にも期待が持てそうだよ。
そして、薄い胸を膨らませている私をよそに金勘定をしていたおばさんから代金を受け取り、またおばさんトークに絡まれないよう早々にお店を後にした。
その足でエミリーに紹介してもらった紡績工房へ赴き、豊かな顎髭を取り出すと『ちょっと血で汚れてるね』と言われるだけで、至って普通の価格で買い取られた。
体毛はよほどの時間が経たない限りは劣化なんてしないのだから、こんなものなのかな?
続いて訪れたのは、行商を始めてから毎晩お世話になっている毛皮の敷物を購入した皮革工房にほど近い場所に並んだ骨細工工房だ。
ここは誰からの紹介も受けていないので最も綺麗な建物を選んで中へ入り、オーガの素材を提示してみても特に変わった反応をしなかった。それどころか『妙に生臭いな、この骨は』と言われてしまい、何でもかんでも時間を塞き止めておけば高く売れるわけでもないようだ。
それが終わってからは、仕入れのために飲食店へ立ち寄っていつものスープなどを買い込み、臨時収入も得たことでエクレアへの労いと感謝を込めて、上等なお肉を購入して帰宅した。
そして、翌日からもオーガが出た野営地をベースにして行商の日々を送る。
それからはオーガが徐々に狩られていき、日夜脅かされていたゴブリンは平和を取り戻した。
しかし、討伐依頼が出されているオーガを目当てにした冒険者が増えたことでゴブリンも倒されてしまい、その数を大幅に減らしていく。
私たちのほうはというと、冒険者が押し寄せたことでオーガには有り付けなかったけれど、資金力に余裕のあるお客さんが増えたとも言えるので、蜂蜜や少量の砂糖を使った甘くて素敵なお菓子などを取り扱えるほどに稼がせてもらったさ。
ちなみに、冒険者ギルドの発表によれば、オーガはあの付近に建つ打ち捨てられた孤城に元から住み着いていたそうで、それが異常繁殖したことにより食べる物が尽きてしまい、それを求めて外に出てきていたのではないか――と考えているようだ。
ゴブリン以外の魔物どころか、野獣すら滅多に見かけなかったのはその影響かもしれないね。
そういえば、フルーツのお店は粘っているものの、他の対抗店はいつの間にか姿を消した。
採算が合わなくて諦めたのか、それとも移動中に魔物か何かにでも襲われたのか……。
心配ではあるけれど、今はもうあの狩場のブームは過ぎているし、今更戻ってくることはないだろうね。
そう。オーガはほぼ狩り尽くされて、ゴブリンすら僅かしか見かけなくなったのだ。
冬に備えて服や防寒具を買い揃えたというのに、私にお金を運んでくれる人が激減した。
このままではいかん――ということで護衛の二人と会議を開き、次の行き先を決めるために冒険者ギルドの依頼掲示板を見にきている。
「なにこれ……『過剰な料金を請求する悪徳商人にご用心』だって。私じゃないよね?」
「それだったら『ホイートンの村にインプ出現。デーモンに注意せよ!』もあるわよ」
「とうとうサっちゃんの名声が隣の農村にまで!」
「まだそこで商売してないから私とは関係ないって。もう注意事項はいいから行き先探そうよ」
まったく、失礼しちゃうなぁ。
早く私の絵柄に時代が追い付いてほしいものだよ。
採集依頼では冒険者が各自赴くだけなので、野営地が必要となる討伐系を主体に探している。
ところが、碌な物が見つからない。『王国主催サイクロプス定期討伐隊員募集中』は物資が支給されるのでうま味が薄い。『秋の大掃除! 大繁殖したオークの大掃討』は既に時期が過ぎていた。『迷宮討伐』は現場が隣国境だから遠すぎる。『街道に出没する盗賊退治』なんて野営地がないから論外だ。
他にも『コカトリス討伐』や『ワイバーン討伐』もあるけれど、行き先は他領や隣国だし、それ以前に騎士団が出動する案件でしょう。そこの守護はサボっていないで仕事しなさいよ。
あと、オークの件は“秋”の部分だけ取り替えるタイプで少し笑った。
なかなかよい依頼が見つからず、私たちが眺めている最中にも増えるので帰りどきも読めないでいると、『古代遺跡に巣くった軍隊アリの殲滅』というものが加わった。
殲滅依頼なら期間も長くなりそうなのでこの場所に決定し、準備に一日を当てた翌日には町を発って古代遺跡へと向かう。
もう町を出てから随分と時が経ち、それでも今後の稼ぎに思いを馳せて街道を歩いていると、暇を紛らわすためなのか二人がからかってくる。それを弁解しようとした私の腰に突如として横方向から強い衝撃が起こり、耐える間もなく吹き飛ばされた。
「サラ!」
「サっちゃん!」
何が起こったのか理解が及ばず、痛みが広がり始めた腰に手をやれば上着に穴が開いている。
私がそれを確認した時にはエミリーとエクレアが走り出していた。
「サラに何すんのよ!」
「ぷもォ!」
「あっ……ダメ、戻って! アイスウォール!」
「ちょっ――シャノン! 邪魔!」
シャノンが氷の壁を魔術で造り出し、飛び出したエミリーとエクレアに制止の声を掛けた。
しかし、間に合ったのはエミリーだけで、もはや一陣の風と化したエクレアは速度を増して一直線に駆けていく。




