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#055:お金で買える隠し玉

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 二度寝せずに起きた翌朝には、多くの店舗で営業が始まる朝三つの鐘が鳴ると共に家を出る。

 さらにお金を稼ぐためにも、昨日の帰り道で思い付いた物を買いに行くのだ。


 行き先は既に決めているけれど、価格調査を怠ることは自分の首を絞めることに繋がるので、中央通りに建ち並ぶお店を軽く冷やかしていき、並べられた商品の売値を脳内メモに刻みつけてからは、そのまま裏通りへと入る。

 そして、それから数分ほど歩いたところで目当てのお店に到着した。


 そこは硬そうな石を大量に使われた店構えで、生半可な魔術では傷すら付けられないのではないかと思えるほどに頑丈な作りとなっている。そんな店先には、丸く膨らんだ袋の前に魔術師の杖が描かれたものと、磨くように擦れば魔神が飛び出てきそうなランプが描かれた看板を掲げており、ここで取り扱う品物を示していた。

 もう何度も訪れているお店なので、私は特に気負うことなくその扉を開ける。


「こんにちは~」

「はい、いらっしゃい。おやおや、サラちゃんじゃないか。久しぶりだねぇ」

「ご無沙汰してます。あ、これお土産の麦茶です。皆さんでどうぞ」

「あぁ、ありがとうね。今日はシャノンに何か用事だったのかい?」


 そう、ここはシャノンの祖父母が営む魔術用品店。

 いったいどんな場所かというと、特定の魔術を行使する際に用いられる触媒などを取り扱っているお店で、そのついでとばかりに杖やローブなんかも売られている。

 さらにそれだけではなく、シャノンの祖父は魔道具を作れるので、それの販売と同時に修理も請け負っているらしいよ。


「いえ、今日は魔道具を買いにきました」

「そうかいそうかい。ちょっと待ってくださいな。……爺さん、爺さんや! お客さんだよ!」


 お婆さんがお店の奥へ繋がる通路に向かって大声で呼びかけた。

 それから少しばかり世間話をしていると、呼ばれたお爺さんが億劫そうな動きで姿を見せる。


「なんじゃい、今いいところなのに。アホに売るもんはないぞい」

「ちょっとお爺さん。サラちゃんですよ」

「おお、久しぶりじゃな。元気じゃったか? シャノンがいつも世話になっとるようで」

「そんな、こちらこそ助けてもらってますよ」


 客が来たと言われたにもかかわらず、いきなりアホ呼ばわりとは驚くかもしれないけれど、これはいつもの事なので気にする必要はない。もはやこのお店の名物とも言える。

 きっと、ここで購入した物を使って何か事件でも起こされたか、仕様を理解していない人から面倒な注文をされた過去があるのでしょう。

 今日の買い物は既製品のつもりだけれど、私も注意しておかないとね。

 そこに留意して注文を告げようとしたら、奥へ繋がる通路からシャノンがひょっこりと顔を覗かせてきた。


「誰かと思ったらサっちゃんだった。行商で何か使うの?」

「うん。無属性でいいから熱波を放てる道具が欲しいんだ」

「熱波……? わかった。ちょっと待っててね」

「なんじゃい、そんな物でいいのか? 流行(はや)りの短筒もあるぞい」

「お爺さんってば、すぐに短筒を売りつけるんですから」

「予備ならいくつあっても困らんだろうに。ほれ、まだ在庫はあるからのう」


 そう言ってお爺さんが指差す先には、さまざまな形状の短い筒が並べられている。

 流行(はや)りといっても最近の話ではなく、私が生まれるよりも前から存在する護身用の武器だ。

 魔力枯渇に陥った際に取られる奥の手として有名なもので、中に入っている魔石を燃料にして、短筒本体に組み込まれた術式に従って魔術が放たれる携帯可能な兵器である。魔術が真っ直ぐに飛ばないような粗悪品でも銀貨(ソル)数十枚は下らないくらいの価格をほこり、まともな品を欲すれば金貨(リブラ)が何枚も必要になるけれど、修羅場を経験した人ならば誰もが持っている代物だ。


 ただ、問題があるとすれば、魔術が飛び出るだけでは対処法がいくらでもあるという難点が存在する。肝心な時に動作不良を起こし、魔術が発動することなく使用者が死ぬことも決して珍しくない上に、魔石が取り出せないせいで魔力の補充すらできない使い捨てときたもんだ。

 しかし、依然として人気は高い。


 言葉は悪いけれど、お金さえ出せば簡単に入手できるお手軽殺傷兵器だからだと思う。

 前世でいうところの拳銃が近いだろうか。

 私のように身体強化も使えない非力な人にとっては、槍や弓よりも心強いからね。


 ちなみに、駆け出し冒険者セットには含まれておりません。

 そんな物が入っていたら粗悪品でも大赤字だよ。




 逸れてしまった思考を元に戻し、私が求める物を返答する。


「一点集中ではなくて、ある程度の面を焼きたいんです」

「範囲じゃったら、フレイムスプレッドの据え置き罠がなかったかいのう」

「ええ、残っていますよ。処刑用のファイアピラーもありましたねぇ」

「いや、罠とか処刑とか物騒ですし、周りに飛び火したら大惨事ですから!」

「なんじゃい、注文が多いのう。何に使うか知らんが、炎をぶつけたほうが早かろうに」


 相変わらず過激な老夫婦だなぁ。

 私が想定している用途では、そんなやり方だと使い物にならないのだよね。商品が燃えてしまっては元も子もないのだし。


 その事を説明しようとしたら、奥の通路から両手で荷物を抱えるシャノンが戻ってきた。

 私が短筒に気を取られている間に探してきてくれたようだ。


「サっちゃん、持ってきたよ。温度変えられるやつにしてみた。首も動くよ」

「ありがとう。面白い形だね」


 列を成すように魔石が配された金属製の皿を持ち、その部分が上下左右に振れるようにして本体と繋がっており、見た感じはまるでガードを外したハロゲンヒーターのようだった。

 それを動作確認のためかシャノンが起動させたので、手のひらを魔石が並ぶお皿部分に差し向けてみたら、ほんのりと温かい空気が伝わってくる。


 もう少し温度が高ければ私の求める物に合致するけれど、どうせ加熱の魔術を誤魔化(ごまか)すための小道具だし、周囲に熱が伝わる程度で十分なのさ。


「使えそう?」

「うん、大丈夫だと思う。じゃあ、これください。おいくらですか?」

「タダでいいじゃろ。それまったく売れんから改造したしのう……」

「そうですねぇ。さっきは麦茶もいただきましたからねぇ」

「安くしてもらえるのは嬉しいですけど、無料というのは気が引けますよ。ギルドから何か言われるんじゃないですか?」


 私の言葉に老夫婦が苦笑を浮かべて話し合い、使用者を一切考慮していない改造を施した事と、シャノンと仲良くしているという謎待遇をされて、驚くような激安価格で譲ってくれた。

 改造点がいささか気になるけれど今の段階では特に問題なく動いていたし、何か起こっても道具の時間を()き止めてヘンテコ魔術のカモフラージュとして使えるでしょう。




 魔術用品店での買い物を終えた私は、支払いの際にシャノンをお出かけに誘ってみたのだけれど、残念ながら『遊びたいのは山々だけど研究の手伝い中』だそうなので、早々にお店を辞して他に必要な物を買いに行く。

 もはや顔馴染みと言っても差し支えないであろう八百屋さんや精肉屋さんなどで材料を買い込み、自宅へ帰る前にはお向かいのパン屋さんにも寄っていく。


「こんにちは~」

「いらっしゃい! あら、サラちゃんじゃないかい。エミリー! サラちゃんが来たよ!」


 いつもの癖なのか、ミンナさんは用件を聞くより先にお店の奥へ向かって大声で呼びかけた。

 それから間髪おかずに顔を(しか)めたエミリーが姿を見せる。


「叫ばなくても聞こえてるよ。それで、どうしたの? 予定変更?」

「ううん。明日の朝までに作ってほしいパンがあるんだよ」

「売り物でも増やすの?」

「うん、そう。ちょっと思い付いたことがあってね」


 まずは試作するということで、脳内メモを頼りにしてレシピを伝えながら私も作業を眺める。

 今回作ってもらうのは、半分に切ると内側がポケットみたいになっているピタパンだ。脳内メモのレシピどおりならお砂糖が必要になるけれど、パン一つあたりにお砂糖を一〇グラムも使えば原価が最低でも銅貨(デニエ)五枚は跳ね上がるので、お砂糖はなしでお願いしたよ。

 たとえお砂糖を用意する資金があったとしても、それを回収できる確証がなければ手を出すべきではないものね。


短筒と書かれていたら古い銃器が思い浮かぶかもしれませんね。

しかし、短杖と書いてしまってはワンドと混同されるかもしれませんので、このように表現しました。

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