#052:ぷち強化
2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。
家のベッドでぐっすりと眠ったおかげで筋肉痛は解消し、翌朝は私が強化した装備品入りの木箱を抱えるお母さんを見送った。その後、行商の支度を調えて店舗エリアで待っていると、待ち合わせの鐘が鳴るよりも早くに普段着のエミリーがパンを届けにきてくれた。
そして、作りたてのパンと、私の代わりに売り払ってもらったゴミ装備の代金を受け取り、エミリーが『着替えるついでに籠置いてくる』と家に戻っている間にシャノンが訪れて、小声でお喋りしながら待機する。
それから待つこと暫し、準備万端のエミリーが姿を見せた。
「おまたせ。おろ、シャノンと入れ違いだったんだ」
「あれ? エミリー、装備変えたの?」
「あぁ、この前怪我しちゃったでしょ。だから無理して買ったんだ」
「あそこの店主、ミリっちが値切ったら嬉し泣きしてたよね。顔が引き攣るくらいに」
「……それって原価割れしたんじゃないの?」
「そうとも言う」
胸元を覆うだけの胸当てをやめて、肩から腰までを守る革鎧になっていた。
それも上等な皮革を使われているそうなので、それなりに値が張る代物らしい。
しかし、さらなる防御力を求めてなぜ革鎧なのか。
金属製でない理由を尋ねてみれば、肩をすくめて『高くて手が出なかった』とのことだった。
いつだったか訪れた冒険者専門店では金貨が必要なお値段だったものね。
つるっぱげのお店にも鉄鎧はあったけれど、まだ気軽に買える物ではないのだろう。
それに、硬さが必要であるならば、私の手にかかればチョチョイのチョイだよ。
「エミリー、その鎧なら食い込まないだろうし、強化しても大丈夫そうじゃない?」
「どうだろう……。試しにやってみてくれる?」
ひとまずは鎧に流れる時間を止めてみたのだけれど、結果としては昨日の私みたいなぎこちない動きになってしまい、皮革製品らしさである柔軟性が損なわれるだけだった。このままでは満足に動くこともできず、もしも魔物に取り囲まれたら鎧で守られていない腕部や脚部に傷を負いかねない。それをこの場で悩んでいるのも時間がもったいないし、何か思い付けば移動しながら試せばいいかな。
「とりあえず出発しようか。いい方法がないか歩きながら考えてみるよ」
「いっそのこと、サっちゃんに絵を描いてもらえば?」
「サラの絵って……あれは、ちょっと……」
「……私の絵で魔物が怯むとは思えないんだけど」
そんな効果があったら売り物にできそうだよ。
ただ、魔物に囲まれた危機的状況で、かわいらしいデフォルメ絵の魔除けの札が懐から出てくる様を想像すると、私なら気が抜けてしまうに違いない。……対人になら意外と使えるかも。
新商品のアイデアは一旦脇に退けて、エミリーの鎧をどう強化するか歩きながらも考える。
全体的に時間を止めると動きが悪くなるのなら、停止させる範囲を一部分に限定してみたらあっさりと成功したので、指で補助しながら縦縞や横縞にしてみても多少ましと言える程度にしかならず、苦し紛れに鎧を指先で適当に突いていたら当たりを引いた。
「あ、これいいかも。あんまり邪魔されない」
「そう? だったら綺麗にやり直すよ」
魔力支配のおかげで検知はできるけれど、ぐちゃぐちゃな配置だったのですべてリセットし、まるで水玉模様のレインコートみたいな等間隔になるよう強化していく。
それを鎧と帽子、ついでに篭手にも施しておいたよ。
「どう? 動ける?」
「……うん、大丈夫。ちゃんと指も動く」
「ねぇねぇ、サっちゃん。わたしのもお願い」
「いいけど、服に直接するのはやめたほうがいいよ? 動きづらくなると思うから」
「えっと……確か、預かってもらってる荷物の中に薄手の外套があったはず」
「おっけい。道具箱ね」
スタッシュからシャノンの道具箱を取り出して足下へ置くと、その中からフード付きの外套を引っ張り出した。それの上で先と同じようにトントントンと時間の停止を行使していたら、首を傾げたエミリーから話し掛けられた。
「さっきの話だと、サラの服は強化してないってこと?」
「うん。金持ちな商人の振りをするにはお貴族様みたいな優雅さが必要だからね。やわらかい動きに見せるなら時間を止めた服なんて着ていられないんだよ」
「へぇ~。商人は商人で大変なのね」
「防御面なら服の下にチェインシャツ着てるから大丈夫」
金属糸を使って編まれていてもまるで布のように薄いシャツだけれど、お母さんが言うにはゴブリン程度では傷すら付けられないほどの強度があるらしい。それほどまで優秀な防具でも、凄まじい熱に晒されたら溶けてしまうから注意が必要だとか。
とはいっても、金属が溶けるほどの熱なんか浴びたら私自身が先に燃えてしまうけれどね。
そんなことを思い返している間にも強化が済んだので、それをシャノンに告げると手触りを確かめたり匂いを嗅いだりし始めた。
「そうそう、大事なこと言い忘れてた。触ればわかると思うけど、鋲付き鎧みたいな形に強化してあるから隙間には注意してね」
「わかった。不可視のスタデッドアーマーとか格好いいじゃない」
「その形だったらチェインシャツにもできるんじゃない?」
「……ちょっと試してみようか」
確かにこの方法なら問題なく強化できるかもしれない。
動きが鈍るようなら間隔を大きく取ればよいのだし、やらないよりはましでしょう。
善は急げということで、二人を連れて街道沿いに生える木立へと移動する。そこに身を隠して時間を加速させてから一張羅の上着とチェインシャツを脱ぎ、あまり密集させすぎないように水玉模様を施していく。
具合を確かめながらも作業を進め、丁度よい塩梅に仕上がったらば魔術を解除し、シャノンに呼びかけて上着を脱いでもらい、こちらも時間を加速させてテキパキと処置を済ませた後は、加速した分の時間を手早く巻き戻して街道を歩き出した。
荷物を載せた馬車に追い抜かれたり、道行く冒険者に押し売りしたりしているうちにも、脳内メモに残る風景からして前回お昼ご飯を食べた場所に到着したので、木陰に入って休憩する。
疲れてはいるけれど、倒れ込むほどではなくなっているよ。私も少しは成長しているね!
「ふぅ……。ここまで来ればあと半分くらいだね」
「何言ってんの。まだまだあるでしょ?」
「え?」
「町から出る前に言っておいたんだけど……聞いてなかった?」
脳内メモを検索してみても何も出てこなかったので、食事の用意をしながら説明を求めてみると、どうやら行き先は前回よりもさらに奥の狩場らしい。
先日の帰り際に二人が冒険者ギルドへ寄ったのは、なぜあそこに青いゴブリンが出たのか情報を得るためだったそうで、あの狩場の奥にかなり強い魔物が現れたのではないか――ということが冒険者ギルドの見解なのだとか。
「それで、そっちに行くの?」
「そのこと聞いたら、サラは『人が多いなら行く』って言ってたじゃない」
「……ごめん、まったく覚えてない」
「奥のほうが多いとは思うよ。ランクが一回り高い人たちだけど」
人が多いということはお客さんが大勢いるわけで、それがお金に余裕のありそうな高ランク冒険者というならば、これで行かない手はないでしょう。無意識でもちゃんと答えていた私に拍手を送りたいね。
謎が解けたことだし、私たちは作りたてのサンドイッチと冷たいミルクで昼食を摂り、エクレアも大豆をポリポリと齧っている。
いつもの大麦とお肉の欠片を混ぜたものに、煎った大豆を加えてみたよ。
仕入れの際に買ったものをエクレアにあげてみたら喜んでいたので、今後はこの方向でいく予定なのだ。大豆は畑のお肉というからね。とあるカップ麺の謎肉の原料でもあるのだし。
まだ半分以上も残っているのなら早めに発とうとしたところ、考え込んでいる様子のシャノンから何やら言いづらそうな面持ちで見られていた。
「シャノン、どうしたの? やっぱり動きづらかった?」
「……サっちゃんって人の時間もいじれるんだよね? それを自分にやれば体力も戻らない?」
「戻るよ。でも、私以外にすると記憶が消えちゃうから、自分だけやるのってズルくない?」
「あたしらの事はいいから回復させときなさいよ」
「うん。わたしも魔術で移動速度上げてるから、あんまり気にしないで使ってね」
これと一緒に私だけ記憶が消えないことについて聞かれたので、記憶を守るスキルを持っていると答えたのだけれど、残念ながらそこは信じてもらえなかったよ。
今朝に言われたことすら覚えていなかったのだから、仕方のない反応なのかなぁ。




