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#050:いきなり最終装備級

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 すべての食べ物が売り切れる前に客足が途絶えたので、私たちもちゃっかりと取り置いておいた晩ご飯を食べた。その後は井戸水を加熱したお湯と石鹸(せっけん)で服の隙間から手を入れて身体を拭い、汚れを落としてから交代で眠る。


 そして、見張り役が回ってきた際にシャノンの魔手が私の脇を(じか)に襲い、それに驚いて飛び起きたら額と額がぶつかり合い二人揃って悶絶した。お互いの精神が入れ替わることなく痛みが引いてからは、シャノンのリクエストに応えて私のヘンテコ魔術を少しだけ披露する。


「やっぱり時間のやつがすごいね。何しても葉っぱがちぎれないよ」

「そうだね。服にかけると動きづらくなる代わりに、金属鎧より硬くなるし」

「武器にやれば刃こぼれ知らずになりそう……」

「……後でエミリーに言ってみよっか」


 その他にも小石を加熱して瞬間溶解させ、それを冷却しつつ枝で突いて形を変えてみたのだけれど、シャノンは『天然物にしか興味はない』と一刀両断だったよ。


 そうやって遊んでいるうちにも一つ目の薪が燃え尽きたこともあり、満足げな表情を浮かべるシャノンは明日に備えて短い眠りに就いた。

 このままでは在庫が心許ないので、朝の営業を終えたら町へ帰ることになっているよ。

 日用品が売れないのは残念だけれど、人気のある商品を仕入れてきたほうが稼げるものね。




 翌朝も露店を始めると、見覚えのある人たちが残っていた食べ物を買いにきた。

 後から苦情を出されても面倒だから、時間が経つと冷えてしまうことを伝えると『すぐに食べるから問題ない』と言うので、商品を渡せばその場で食べながら狩りへ出かけていった。


 それと同時に魔石以外の買い取りもしていると、持ってこられるのは折れた剣やひびの入った斧、そして傷だらけで少し太めの棒きれ――棍棒くらいだった。

 さすがにそれらを買い取る気にはなれず断ったのだけれど、なかなか引き下がらずに『金属は溶かせば使えるだろう』としつこいから鉄貨(ケント)で買い叩いても喜んで譲ってくれたよ。


「これどうしよう……。エミリー、使う?」

「いらないわよ。鍛冶屋か鉄工所に持っていけば引き取ってくれるでしょ。棍棒以外は」

「あそこのおじさん達苦手なんだよねぇ……」

「それなら武器屋でもいいじゃない。帰ったら行くつもりだし、まとめて売ってこようか?」

「いいの? ありがとう」


 こうやってワゴン品が増えていくというわけか。謎が解けてスッキリしたよ。

 あの時は値段を聞きそびれたけれど、武器と言うにはいささか厳しいから二束三文だろうし、鉄が必要になった職人さんが買いあさりに来ているのだろうね。




 お日様が十分に顔を覗かせるころには、お寝坊な冒険者をポツポツと残して野営地から人気(ひとけ)がなくなってしまったので、露店を手早く片付けた私たちは町への帰途に就いた。

 今朝も食べ物と傷薬が少し出ただけなので、次に仕入れる品物はかなり絞り込めそうだよ。

 ここでもマヨネーズ掛けのゆで卵は好評だったし、串焼きや腸詰めは飛ぶように売れたけれど、人の数だけ味の好みもあると思う。それらに振りかけるハーブソルトやチリパウダーなどの香辛料も用意しておくといいかもしれないね。もちろん、有料ですよ。


 それに、この稼ぎが確かなものとなれば蜂蜜くらいなら買っても元は取れそうだから、女の子向けに素朴なお菓子を出せば人気が出るに違いない。

 なにも手の込んだものではなく、ほんのり甘いパンケーキでも売れると思うのだ。

 実家のお向かいにあるパン屋さんではお高い蜂蜜パンが瞬殺だもの。




 そうやって今後の商売に思いを馳せても歩き続けた疲労感はいかんともし難く、私のふらつく足取りに気付いた二人からお昼休憩が言い渡された。

 皆で木陰へと入り、確保しておいたお昼ご飯も食べ終わり、今なら周りには人がいないから丁度(ちょうど)よいだろうと、夜中にシャノンと話していた内容をエミリーに提案してみる。


「ねぇ、エミリー。その剣気に入ってる?」

「うん? うん。使いやすいよ」

「じゃあ、長く使いたいよね。もっと丈夫にしてみない?」

「おぉ、またサっちゃんの魔術が見れるのですな!」

「シャノンはもう見たじゃない。そんな期待するほど派手なものじゃなかったでしょ?」

「……ちょっと待って。どういうこと? あたしの剣がどうなるの?」


 私のヘンテコ魔術で時間を停止させたら、どれだけ手荒な扱いでも()びない折れない刃こぼれしない剣になる――と言ってもなかなか信じてもらえず、見つめていた剣から顔を上げたエミリーに疑わしげな視線をいただいた。


「パンにかけてたやつでしょ? そんなので剣が折れなくなると思えないんだけど」

「私のナイフで実験済みだから大丈夫だよ。()びないってのはまだ言い切れないけどさ」

「実験って、わたしが寝た後でやったの? ……じぃざす」

「エクレアは寝てたし暇だったからねぇ」


 名前を呼んだことで『ぷも?』と見上げてきたエクレアを『なんでもないよ』と頭を撫で、エミリーに納得してもらうべくお母さんに貰ったナイフをベルトから抜き取った。


「はい、エミリー。これで適当に石でも切ってみて。身体強化使ってもいいよ」

「嫌に決まってるじゃない。ポッキリ折れたらどうすんのよ」

「大丈夫なんだけどなぁ……あ、そうだ。棍棒ならどう? 売れそうにないし」

「それなら、まぁ……」


 引き取ったままスタッシュに入れてある傷だらけの棍棒を取り出し、時間停止の魔術を使う。それをエミリーに渡したら路傍に鎮座する岩の前まで歩いていき、慣れた手早さで身体強化を施して思いっきり打ち付けた。

 すると、棍棒はその形を崩すことなく岩に小さな傷をつけるだけだった。


「……すごっ」

「まだ不安なら気が済むまでやってもいいよ」

「わたしもやってみていい? ウィンドカッターで切ってみたい」

「うん、いいよ」


 その後も、力の限り捻ったり石に叩きつけたりしていたエミリーが諦めて戻ってくると、順番を待っていたシャノンに頼まれて地面に棍棒を突き立て、安全圏へと退避する。

 それを確認したシャノンがワンドを構え、ごく短い呪文を唱えると三日月のような弧を描く薄緑色の刃が飛び出し、狙い違わず命中した。

 しかし、棍棒はビクともせず、二つに分断された魔術の刃は虚しく霧散する。


「うわぁ……これはひどい。サっちゃんひどい」

「ええっ、私がなの?」


 落ち込んだかに思われたシャノンだったけれど、不敵に笑いながら『いつか攻略してみせる』と言っていたので、案外楽しんでいるようだね。

 散々試して納得してくれたエミリーの剣と盾にも時間を止める魔術を施したし、気力もお腹も満たされた私たちは町を目指して歩を進めた。


 どうせなら他の防具も強化しておきたかったのに、帽子を固めたら動くたびに耳当て部分が肩とぶつかってズレてしまう。さらに、篭手にかけると手首が動かせなくなり、胸当ての際には『食い込んで痛い』と言っていたので断念したよ。

 脇をくすぐった時にも思ったけれど、エミリーってば体格の割りには意外と胸が大きいのだよね。……羨ましい!




 ふらふらになりながらも歩き続け、どうにかこうにか日が沈みきる前に町まで辿り着いた。

 往路よりも休憩の数が減っていたし、私にも少しは体力が付いてきたのかもしれない。

 そして、町の中に入ると二人は冒険者ギルドに寄っていくそうなので、スタッシュで預かっていた戦利品などを渡すために道から逸れた。


「これ、預かってた魔石ね。あと護衛のお給料なんだけど、本当に最低額でいいの?」

「それでいいよ。荷物持ってもらってるし」

「うん。それに、ご飯も食べさせてくれたしね」

「じゃあ、これがお給料ね。売り子と査定してもらった分も上乗せしてあるよ」


 そのついでに私が買い取ったワゴン行きの装備品も手渡せば、それぞれがお礼の言葉を口にしてお給料を受け取り、二人は手を振って冒険者ギルドへと向かっていった。


 食べ物以外は今ひとつの売り上げだったけれど、シャノンが魔石をかなり安く査定していたことで、二人に特別手当込みのお給料を出しても痛くない儲けだった。あまり数を持ってこなかった食べ物だけでここまで稼げるのなら、これからもぼったくる方向でいこうと思う。……ただの出張費だよ?




 二人と別れてからは、閉店作業中の自宅に帰り着くとお母さんが『怪我(けが)はない?』と迎えてくれて、スタッシュから解放したエクレアと一緒に私も居間で寛ぎ、行商中の出来事などを話しながら晩ご飯を食べる。

 そして、疲れから来る眠気に抗うことなく早いうちから眠りに落ちた。


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