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#049:お金がなければ代用貨幣で

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 唯一残っていた戦利品を受け取った際もヘンテコ魔術については何も触れられず、中断されていた昼食を再開することになった。

 そこで珍しく真面目な顔つきになったシャノンが『踏み込み過ぎた』と言うエミリーを叱る。居心地悪くもそれを聞きながら、野菜主体のサンドイッチをぬるくなったミルクで流し込んでいると、話に区切りが付いたようで二人が私に向き合った。


「あたしは終わったから次はサラね」

「サっちゃんは魔術の威力を抑えてほしい。全部燃やしちゃったらお金にならないよ?」

「あ、うん。気を付ける」


 確かにお金は重要だよ。それのために私はここにいるのだから。

 需要の高い魔石ではなく、ボロボロの斧だとまともな値段で売れるとは思えないし、次があるとしたら温度を下げるか、はたまた加熱とは違う手段を考えたほうがいいのかも。


「じゃあ、反省会は終わり! あ、そうそう、サラには傷治してもらったお礼しないとね」

「いいよ、そんなの」

「そうもいかないでしょ。う~ん……今朝言ってた売り子を正式にするってのはどう?」

「正式って、続けてやってくれるってこと?」

「そんな感じ。なんか苦手そうだったから」

「……わたしも少しは手伝うから、サっちゃんの魔術見せてね?」

「うん、助かるよ。ありがとう、エミリー、シャノン」


 それにしても、必要以上に気を遣って腫れ物に触るような扱いをすることもなく、今までと変わらずに接してくれるなんて本当にありがたい。この二人なら打ち明けても大丈夫だという確信があったけれど、それをする勇気はなかったのだ。

 胸の支えが取れたという意味でも、なんだか気が楽になったよ。




 昼食も終わったことだし、獲物探しを再開する前にエミリーが破れた衣服から着替えるのを待っていたら、休憩したのにシャノンは疲れが残っているようだ。そこで、話を聞いてみたら『魔力がほとんど回復しない』と言われたので、手を繋いで魔力の補給をしてみたのだけれど、いつもとは違って私の中にある魔力が流れていった。

 そうだとしても、私は非戦闘員ということもあり獲物を探すために歩き出すと、先ほど譲渡した分を魔力支配が吸収し始めたので、たまたま魔力が薄い場所だったのかもしれない。


 その道中で、私と同じスキルを持つ人間はいないのか聞いてみたら、狙いを付けても転移で逃げ回る魔物や、老いを感じさせない種族なら存在すると返ってきた。

 加熱と冷却に至っては、他の魔術があるのだから使う人はいないだろう――とのことだった。


 それからも(しばら)くは魔物狩りを続け、軽はずみな行動を取ったと反省したエミリーは危なげなく堅実に事を為し、夕暮れが迫るころには野営地へ戻ることになった。




 野営地に帰り着くと出入り口付近を陣取り、休憩もそこそこに露店の準備に取り掛かる。

 今朝と同じく(むしろ)の上に魔道具風の箱や商品を入れた平箱を並べていき、支度が調ったことを二人に告げると呼び込みが始まった。


「いらっしゃいませ~! おいしい食事とお茶や井戸水、よく効く傷薬に薫り高い棒石鹸(せっけん)などはいかがですか~? 持ち合わせがなくても魔石で買えますよ~!」

「査定はこちら。おいでやす」

「ぷもー」


 エミリーがよく通る声で周囲に呼びかけ、シャノンは私の隣に座って怪しく手招きし、その反対側にいるエクレアも甘えたように一声鳴く。


 私はお金の一部を実家で枕貯金――枕の中に貨幣を隠すこと――しているだけで、ほぼ全額持ち歩いている。ところが、エミリーもシャノンも少額しか持たないらしく、ここの人たちも同じではないかと指摘されたことで、魔石を通貨に換算して等価交換する方法をとってみた。

 わざわざ買い取ってから代金を渡すよりは早いだろうし、多少は金額を誤魔化(ごまか)せるものね。


 そうやって人通りの多い場所で呼び込みを始めると、あまり間を空けることなく男女混合の冒険者チームがやってきた。

 私たちが年若い女子三人組だったせいか、女性冒険者の一人が代表して進み出る。


「飯と傷薬を売ってくれないか? 飯は何でもいい。四人分で頼む」

「サンドイッチでいいですか? 一つあたり銅貨(デニエ)一〇枚です」


 予め魔道具風の箱に入れておいた具沢山のサンドイッチを取り出し、()き止めていた時間を解放してからお皿代わりの大きな葉っぱに載せて値段を告げると、それを聞いた女性冒険者は目を見開いた。


「……高すぎるだろう。全部で銅貨(デニエ)一〇枚の間違いじゃないのか?」

「出張費ですよ。町まで半日はかかりますから」


 今朝は文句を言われずに割高の傷薬が売れていたというのに、なぜか苦情を入れられた。

 ただのぼったくりに聞こえても、銅貨(デニエ)一〇枚はまだ良心的な価格なのだよ。具沢山のサンドイッチは、具なしパンとは違って銅貨(デニエ)一枚では買えないのだから。

 それに、男共を魅了しまくるエミリーの営業スマイルを見習って、私もとびきりの笑顔を浮かべているというのに、この仕打ち。

 何にしろ、ここで前世のように卑屈なほどの低姿勢で応じるのは悪手だ。屹然とした態度で臨むべきでしょう。


 支払いを渋る女性冒険者に向けて、納得できないなら買わなくてもいい――と言おうとしたところで、後ろで待っていた男性冒険者から声が上がった。


「いいじゃねえか、それくらい。魔石でも払えるんだろ? もう腹減って死にそうだ」

「仕方ないな……。魔石で頼む」

「では、査定しますので取引に使う分をこちらに置いてください」


 コンビニや飲食店などで会計の際に用いられるトレイ――カルトンの代わりに、今朝までは売り物だった深皿を取り出し、その上に魔石を置いてもらって隣に座るシャノンへ手渡した。

 あとはその慧眼(けいがん)を信じて評価してもらい、足りない分はお財布から補うことでサンドイッチと傷薬が無事に売れた。


「……買い取りは安いんだな」

「出張の手数料ですから。その分、狩場での滞在時間が延びますよ。では、こちらをどうぞ」

「あぁ、そうだな。……ん? このパン温かいぞ!」

「はい。できたてに近い状態ですよ」

「もしやその箱、何かの魔道具か?」

「……ふふふ。企業秘密でございますよ、お客様」


 ヘンテコ魔術を隠すために用意した小道具にうまいこと引っかかってくれた。

 これでこそ大金を(はた)いた甲斐があるってものだよ。

 無闇に詮索されたり、魔物扱いで兵士や騎士団に通報されたりすると堪らないからね。

 女性冒険者の言葉が聞こえたようで、後ろで待機していた腹ぺこチームの面々が近寄ってきたから、もう一押ししておこう。


「他にも焼き立ての串焼きや熱々のゆで卵がありますよ。冷たい麦茶もどうですか?」

「おっ、そりゃいいな。串焼きもくれよ」

「はい。では、三本で銅貨(デニエ)一〇枚です」

「グっ――仕方ねえ、六本くれ」

「まいどあり~」


 呆れた面持ちの女性冒険者が渋々といった体で魔石を入れていた袋をひっくり返し、それでも足りない分はお財布から補填して、商品を受け取った腹ぺこチームは立ち去った。

 それを『ありがとうございました~』と笑顔で見送ったエミリーが私たちの元に戻ってきて、その笑みを苦いものに変えて口を開く。


「なるほどねぇ。前々から温かくて変だとは思ってたんだ」

「遠出する時はいつも使ってたからね」

「さっき中が見えたけど普通の箱だったような……温かいのは加熱?」

「ううん、時間だよ」


 さすがは魔道具なども取り扱っている魔術用品店の見習いだけあって、シャノンは一目見ただけで小道具だということを見抜いたようだね。

 まだ人が立ち替わり入れ替わり通り過ぎるから詳しく話せないけれど、興味津々の眼差(まなざ)しを向けられてしまっては期待に応えざるを得ないかな。




 それからは、先ほどの腹ぺこチームが呼び水となったようで続々とお客さんがやってきて、何種類か持ってきた食品の数々も残り僅かとなってきた。傷薬も少ないながらに売れてはいるけれど、まさかこれほど差が出るとは思わなかったよ。

 常ならば、携帯食としての干し肉や堅焼きパンを焚き火で焙るのがせいぜいだろうし、町で売られているものが食べられるというだけでも人気は出そうだね。


 しかし、それらと比べて他の物はまったく売れない。

 いや、正確にはまたもやエクレアを『かわいい~』と言いにきた女子チームに棒石鹸(せっけん)が一つ売れたけれど、食器類はカルトンに使っている物以外は何一つ減っていないのだ。

 何か買いたくなるような方策を考えておかないとダメかもしれない。


 なによりも、野営地から少し離れたところに川が流れていたせいで、大量に持ってきた麦茶が一滴も売れなかったのが悲しい。ニコニコ笑顔の太陽マークを描いた箱はパコパコ開け閉めしていたのに、張り切り雪だるまマークの箱には一切触れていなくて哀愁が漂っているよ。


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