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#046:新装開店

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 どれだけ断ってもなかなか引き下がってくれないマイナーな宗教の勧誘――という悪夢にうなされていたら、左右の脇をエミリーとシャノンに掻き回されて目が覚めた。

 既にお日様は顔を覗かせており、大小さまざまな寝息と静かな(ささや)きしか聞こえなかった冒険者の野営地も、起き出した人たちが談笑を交えながらも狩りの支度に取り掛かっている。


 今から商売を始めたら、通勤通学時間帯の駅前にあるコンビニのように繁盛しそうだね。

 しかし、それを始める前に、エミリーとシャノンには一つ物申しておきたいことがある。


「起こすなら普通に起こしてよ」

「何言ってんのよ。サラが先にやったんでしょ?」

「そうだそうだ。サっちゃんの真似(まね)しただけだよ」


 仕返しというならエミリーはわかるけれど、なぜシャノンまで混ざっていたのだろう。

 その場の流れに乗っかっただけにしか思えないから、申し開きを聞いてみよう。


「ねぇ、シャノンはただの便乗だよね?」

「……わかっていても、やらねばならぬ時がある」

「そう。じゃあ、エミリーはそっちね」

「仕方ないわねぇ……任せなさい」


 覚悟を決めたのか、シャノンは潔く両腕を持ち上げたので私とエミリーで両脇をひとしきりくすぐってみた。

 ところが、期待した反応が返ってこない。


「フハハハハ。わたしには効かぬわ!」

「ほう……。では、受けてみるがよい。今まで隠してきた奥の手を」

「……もう二人でやってなさいよ。あたしは火消してくるから」


 呆れたエミリーが火の始末をつけにいき、残された私とシャノンで一騎打ちが始まった。

 開始早々に飛び掛かって後ろからその身を拘束し、セリフどおりの意味で服の袖に奥まで手を差し入れて、直接地肌をくすぐったことでシャノンはかわいらしい悲鳴と共に白旗を揚げた。


 どうやら私と同じく薄手の防具を着込んでいたようで、その隙間を狙えば容易く陥落したよ。

 身体が小さくて適正サイズを見つけられなかったことが敗因だろうね。

 私も似たような状態だから気を払っておかなければ。……特に今夜とか。




 軽い運動で頭も起きたことだし、冒険者たちが狩りに発ってしまう前に商売を始めよう。

 まずは、出したままだった食器を道具箱に片付けて、つい先ほどまで寝転んでいた毛皮の敷物と一緒にスタッシュへ収納し、その下に敷いていた(むしろ)を持って移動する。

 行き先は人が多く通りそうな出入り口付近だ。


 そこで(むしろ)を拡げてからは、木工工房の親方さんに作ってもらった魔道具風の箱を二つ取り出して、開閉部が私の方へ向くように設置する。

 そして、その周囲には怪我(けが)の手当に使う傷薬や包帯などを配した平箱、私が見ている前でのみ貸し出す予定の砥石と水桶、一つ持っておくだけでも何かと重宝する汎用的な革袋、携行に適した固形の棒石鹸(せっけん)にコップやお椀などの小物類も見栄えよく並べていく。


 お母さんから日用品は売れないと言われているけれど、半日もかけて歩いてきたこの場所なら意外と売れるかもしれないのだし、出先で使えそうだと思ったものを少量ずつ持ってきたよ。


 その中でも特におすすめなのが、当店自慢のハーブ入り棒石鹸(せっけん)

 以前、町に訪れた行商人から大量に買い込んだオリーブオイルで作ったもので、その後私が摘んできたハーブをふんだんに入れている。ひとたび使えば森の中で吹く風に似た爽やかな香りに包まれることは必至の一品なのだ。

 材料の関係上、南方からの行商人がこなければ作れないけれど、傷薬と並んでうちを代表する売れ筋商品なので、うっかり使い切ってしまっても町まで簡単に帰れないここでなら、きっと売れてくれると思う。


 あとは、二人から化け物扱いされたことで泣く泣く描き直し、さらに種類も増やして色まで塗った宣伝のぼりを地面に立てたら準備完了だ。


「ぬぅ……なかなか刺さらない……。エミリー、これお願い。うまく立たないの」

「それ全部やるの? ……また変な絵描いてるのね」

「ほほう、サっちゃん画伯の新作とな?」


 商品を物色していたエミリーに呼びかけたら一緒にいたシャノンも振り返り、宣伝のぼりを目にしてその顔を強張らせた。


「なによ。かわいく描けてるでしょ?」

「あたたかい、ご飯、始めました……の下に悪魔がいるんだけど」

「違うよ、ミリっち。地獄の業火で温めたって意味なんだよね?」

「……もう、それでいいよ……」


 ほかほかと湯気の立つスープをデフォルメされた男女二人がニコニコ食べているだけなのに。

 もちろん悪魔なんていないし、地獄を描いた覚えもない。

 この絵のとおりのものが存在するというのなら、一度遊びにいってみたいものだよ。


 私が拗ねている間にも、身体強化を施したエミリーが宣伝のぼりを軽々と地面に突き刺していき、その時に見られていた魔道具風の箱についても感想をもらった。

 扉側には私が区別しやすいように絵を描いておいたのだけれど、また化け物だとか言われたので意味を説明してみたら、どうやらデフォルメされたデザインが受け付けないようだ。


 言われてみれば、町の看板などはリアル志向というか、目に見えた物をそのままに描かれているものが多く、たとえ簡略化されていても私のかわいい絵柄とは似ても似つかぬものだった。

 つまり、見たこともない生物だから化け物や地獄などの表現だったわけだね。なんだかスッキリしたよ。やはり私の絵が下手ではなかったのだ。……たぶん。

 ちなみに、悪魔は極まれに出現するらしいよ。それも、ニコニコ笑顔を携えて。


「そういうわけだから、ちゃんと描いたほうがいいわよ」

「悪魔と間違えられるから? う~ん……」

「わたしはサっちゃん画伯のままでいいと思う。荷車の図面は綺麗だったけど味気ないし」

「じゃあ、このままでいいかな。描き直そうにも色インクってかなり高いんだよね」


 ちょっとしたアクシデントはあったけれど、これで準備はバッチリなので営業を始めよう。

 冒険者はまだまだ残っているのだから、昼食用のサンドイッチは飛ぶように売れるはず。




 露店の前を冒険者が通りかかるたびに、宣伝のぼりの効果でギョッとした目を引きつけるものの、並べた商品を一瞥(いちべつ)するだけで立ち止まることなく去っていく。

 私の傍らには客寄せベヒモフも控えているというのに、いったい何が足りないのだろうか。


「……お客さん来ないね。私たちも移動する?」

「まだ早い。それよりも呼び込みしなさいよ。座ってるだけで客が来たら誰も困らないでしょ」

「――あ。そうだね……じゃあ、いらっしゃいませ~。いらっしゃいませ~」

「もう、そうじゃなくって……。ちょっと見てなさい」


 そう言ったエミリーが露店の斜め前に進み出て、今まで見たこともないような爽やかな笑顔を振りまきながら、傍にいる冒険者へ向けてよく通る声で呼び込みを始めた。


「いらっしゃいませ~! ただいま出張販売中です! おいしい食事や、よく効く傷薬などはいかがですか~? 重くて持てなくなった素材の買い取りもしてますよ~!」

「おい、店だってよ」

「こんな所でか?」

「……なんか、見たことある気がする娘だな」


 私の時とは打って変わって、声を張り上げたエミリーに注目が集まり始めた。

 そして、興味がありそうに近くを歩いていた青年冒険者の一人に狙いを定めて呼びかける。


「そこのお兄さん、お昼にどうですか~? あたしも食べましたけど、おいしいですよ!」

「い、いや、いいよ。もう干し肉あるから」

「では、傷薬はいかがですか? とっても効きますよ!」

「それもまだあるから大丈夫、です。……じゃあ、俺もう行くから」

「は~い、いってらっしゃい。気を付けてくださいね~!」

「お、おう……」


 素敵な笑顔を浮かべたエミリーの美少女っぷりに()てられたのか、はたまた女の子に耐性がなかったのか、少々挙動不審な青年がそそくさと立ち去った。


 なるほどなぁ。これならファンがつくわけだよ。何も買わなかったのに優しく送り出してくれるのだから。

 目が覚めるような笑顔を浮かべた美少女から『いってらっしゃい』なんて言われたら、純情な男ならたったの一発で落ちそうだね。


 それにしても、エクレアのことで誰ひとりとして騒がない。

 唐突に訪れて『かわいい~!』とか言う女子チームを除いたら、そもそもエクレアを見てすらいないくらいだった。

 ベヒモスの亜種ということはお母さんの勘違いなのか、それとも周りが節穴だらけなのか。

 何にしろ、騒ぎにならないのなら私に文句はないけれどね。


世界中の古い絵画を見比べると日本だけ浮いてるんですよね。浮世絵だけに。(ドヤァ)

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