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#043:狩場へ出発

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 まだ早朝であるために、声量を抑えて話しながらお揃いのアクセサリーを皆で腕に結びつけ、いつも使っている所とは別の――狩場に近いほうの出入り口へと向かう。


 目的地は駆け出し冒険者向けの場所だそうで、この町の傍に座る小山を迂回した先だ。

 そこには討伐・駆逐依頼が出るほどではないものの、割と数の多い魔物が定住しているとかで、どれだけ倒しても時が経てば大繁殖するらしく、もはや完全駆除は諦めているようだ。

 そんな魔物が多いところに住み着く人間がいるはずもなく、周囲に町や村はもちろんない。


 というわけで、私の商売に持ってこいなことや、まだ戦闘には不慣れなエミリーに合わせてこの狩場に決定された次第であります。

 なお、日帰りはさすがに不可能な距離のため、お店の手伝いは当分お休みをもらっているよ。




 通行手形を発行してもらうために町の門までやってくると、そこで成人したばかりと思われる見慣れない兵士くんから応対された際に、ちょっとした言い合いになった。


「お金払えってどういうことですか?」

「見たところ商人見習いと護衛なんだろう? それなら手形は出せない」

「今までも出してもらってましたけど?」

「知らん。そいつが間違えただけだろ」

「そんなこと言われても……」

「いいから身分証出して税金を払え。こっちは忙しいんだ」


 なんとも感じの悪い兵士だなぁ。

 しかし、これがこの国における兵士の標準的な態度ではあるのだけれど、理由を一切告げずにお金を払えだなんて言われても困ってしまうだけだ。何かとお世話になる機会の多いまじめなおじさんを見習ってほしいよ。


 無駄金を使いたくない私と、税金を払わせたい兵士くんでそのまま問答を続けていたら、小さな詰め所から何度か見たことのあるお兄さん兵士が顔を覗かせ、溜息を吐いて近付いてきた。


「……すまんな。こいつ新人でさ、なんか妙に張り切ってるんだ」

「張り切るもなにも、当然のことをしているだけですが」

「また税金払えってしつこく言ってんだろ?」

「当たり前ではありませんか。それが仕事なんですから」

「ちゃんと説明もしたのか? それも仕事だろうが」


 以前対応してくれた時は少々気だるそうに通行手形を渡してくれたお兄さん兵士から、新人兵士くんが注意されている。

 そしてその説明を受けてみても、通行手形を紛失したら入都税の他に罰金を科されるというもので、既に知っている情報だっただけに余計混乱してしまう。


「罰金はわかりますけど、なぜ手形を出してもらえないんですか?」

「そんなもの、落とすに決まってるだろ」

「……」


 いやいや、勝手に決めつけられても困りますって。

 あんなに小さな木札なら落とす蓋然性(がいぜんせい)は高いと思うけれど、確実に落とすとは限らない。

 そのことを私が指摘するよりも先に、お兄さん兵士が先手を打つ。


「おい、ちゃんと見ろ。荷物も持たない商人がどこにいる? スタッシュがあんだよ」

「ですが――」

「こんな押し問答やってるほうが面倒だ。ここは俺が代わるから、お前は手形取ってこい」


 不承不承(ふしょうぶしょう)といった体ではあるものの、新人兵士くんが詰め所へ向かっていった。

 その間に、やる気のないお兄さん兵士からは『もう察してるとは思うが、あいつなりの善意だと受け取ってくれ。昼の鐘までは俺がここの管理責任者だから苦情が出たら堪らん』という、なんとも利己的な事情を暴露されたよ。


 兵士の態度が悪いことなんて知れ渡っているのだから、この程度のことで苦情を入れても無意味だと思うけれど、お給料の査定に響くならその気持ちもわからなくはない。

 私としては無駄金を使わずにいられたら、もうそれだけでいいのです。

 他人の懐事情なんかどうでもいい。お客さんになるのなら話は変わるけれども。




 ふてくされた顔の新人兵士くんから手のひらに人数分の通行手形を押しつけられ、無事に門を抜けて町から少し離れたころにエクレアをスタッシュの外に出そうと思ったら、今まで黙って歩いていた二人がおもむろに口を開いた。


「さっきのあれさぁ、あたしなら払ってたかもなぁ……」

「たまにあんな人もいるよ。わたしは面倒だったら払ってるかな」

「ふうん……。お節介がいたものね」

「親切心というか、だいたいが自分のポケットに入れてるよ」

「うわやらしい!」


 思わず本音が口を()いて出たけれど、舌がもつれて普通の感想になってしまった。

 態度の悪さを省みるどころか、それを利用して小遣い稼ぎをするなんて、なんともうらやま――けしからんことですなぁ。


「その手の話なら、裏で貴族かギルドの幹部と繋がってる人もいるらしいよ」

「貴族って町の守護のこと?」

「ほとんどがそうだけど、法服貴族の場合もあるみたい」


 この世界における法服貴族とは、前世のようにお金で買える爵位ではなく、ただ区別をつけるための俗称に過ぎない。それは国王陛下から伯爵以上に与えられる領地を持たず、かといって子爵以下に任される町や村もなく、それらを治める家のサポートをするような官職に就いた貴族のことを指すらしい。

 同じ貴族といっても、領主や守護のように土地を守るための武力を有した帯剣貴族とは違い、騎士団を持たず主に文官仕事を行っているので法服貴族として分けられている。

 だからといって権力が低いわけではない。平民と気軽に冗談を言い合えるような親しい存在ではないので注意が必要だ。


 そういえば、リンコちゃんでボロ儲け計画をめちゃくちゃにしたクソ野郎の家からは、今のところ一切の音沙汰がないのだよね。

 ふと耳に入った噂でも、使用人の何名かが夜中に町を逃げ出した――というものしかない。

 あれがどうなろうと私の知った事ではないけれど、去り際に放った加速の魔術はうまい具合にクソ野郎を成長させたってことなのかな。いちゃもん付けられないように祈るばかりだよ。




 そんな愚にも付かない回想をしている間も歩き続け、今はもうお日様が天高く昇っていた。

 ここらで一つ、お昼休憩を願い出ようじゃないか。……マジしんどい。


「そろそろ、休憩を……ですね、お願いしたいのですが!」

「そだね。休憩にしよっか。このままじゃサラが死にそうだわ」

「サっちゃん……大丈夫?」

「ぷももぅ?」


 呆れを含んだ苦笑いのエミリーと、こちらも苦みが少々混じった気遣いをするシャノンに背を押され、エクレアの先導で街道から逸れた木陰へ移動する。そこで自分の着替えや食器などを入れてある木製の道具箱を取り出し、その上へ寝そべるようにゆっくりと腰を下ろした。


「ぐぇ……」

「あんまり体力つかなかったかぁ……」

「早すぎたんだ。へばってやがる」


 好き勝手に言われているけれど反論する気力はない。

 普段から荷物はスタッシュに入れ、前世より動き回るといっても町の中ばかり。

 薬草採集で遠出することはあっても、身体の時間を巻き戻すから筋肉が付くこともない。

 こうして考えてみると、多少は魔術の使用を控えるべきなのかも……。


「とりあえず昼ご飯にしよう。サラ、お願い」

「うぇい」


 疲れた身体をむくりと起こし、二人から預かっている道具箱を取り出して、それぞれのリクエストどおりのサンドイッチも手渡した。そのついでに、冷やしたミルクと麦茶も出しておく。


 道具箱の中身以外はこれから売り捌く予定の商品なのだけれど、護衛中の生活費は私が面倒をみることで了承済みなのだ。

 最初は遠慮していた二人も、せめてそれくらいは――という私の熱意を受け入れてくれたよ。


 それからさらに、エクレアのご飯である大麦を入れた大きな袋を取り出したところで、その様子を眺めていた二人が興味深そうに話し掛けてくる。


「それにしても、サっちゃんのスタッシュって大きくなったよね」

「今ってどれくらい入るの?」

「う~ん……大きめの荷馬車くらいかなぁ」

「だいたいそのあたりで落ち着く人と、命を賭けてまで拡張し続ける人に別れるね」

「私はまだまだ拡げるよ。命は賭けないけど」


 連日に渡って川の水を何度も出し入れしたおかげで、以前の大型キャリーバッグから成長を繰り返し、もはや軽トラの荷台すら凌駕するほどに拡張されているのだ。

 ひたすら川の水を吸い込んでは放出するだけで疲れはしなかったけれど、例えるなら一人でマーライオンごっこをしているようなもので、レベルが上がるたびに虚しさばかりが募ったよ。


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