#042:お揃いの腕輪
2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。
つるっぱげのお店を出てからは、いつにも増して上機嫌なエミリーから帽子のお礼返しにとドライフルーツをごちそうしてもらい、出発についての準備などを相談して日が暮れる前には家路に就いた。
まだ少しだけ時間があったので、私の恰好を見て『馬子にも衣装ね』なんてのたまうお母さんに代わって店番を手伝い、その後訪れた食後の団欒でこれからのことを伝えておく。
「今日エミリーがランク上げたから、近いうちに狩場へ行くよ」
「お祭りに合わせるって言ってたものね。サラも防具とか買った?」
「服は買ったけど……商人に防具なんかいるの?」
防具なんて服の時間を停止させてしまえば最硬の防御力が――って、それだと動けないや。
肉体ではなく身に付けた物の時間を塞き止めたとしても、それが固まってしまえばまともな行動を取れないのだ。囮にもなれないし、ただの障害物と判断されて避けられそうだよね。
「当たり前じゃないの。狩場にいくのよ? いきなり飛び掛かられても対処できるの?」
「無理、かなぁ。でも、もう予算に余裕がないよ……」
「……ちょっと待ってなさい」
そう言って立ち上がったお母さんが寝室へ行き、お出かけの際にいつも腰に下げている鞄と、金属のような光沢がある布らしきものを手にして戻ってきた。
「お母さんが使ってる物だからサイズ合わないと思うけど、服の下に着ておきなさい」
「ありがとう。綺麗な色だね……あれ、これ布じゃなくて金属?」
「そうよ。見た目より軽いでしょ? その割りには丈夫だから重宝してるのよ。それとこのナイフもね。持っておくだけでいいから」
「どういうこと? お守り?」
薄い青銀色の金属糸を使って編まれたシャツと、シックな鞘に収められた小振りなナイフを机の上に並べたお母さんから、扱い方や手入れの仕方を教わった。
持っておくだけと言われても今ひとつ理解できなかったけれど、これは不思議な力が宿るナイフなんてことはなく至って普通のもので、非武装だと余計なちょっかいを受けるだろうから、その牽制として相手から見えるように提げておく――ということだった。
誰だって武器を持った人物に近寄りたいとは思わないものね。
しかし、いつかの追い剥ぎみたいなおバカさんは頭のネジが外れているので、この程度では効果が薄いから過信は禁物みたい。
そして、私には少し大きな青銀色のシャツはかなりの値打ち物だそうで、高価なミスリル銀を特殊な技法を用いて作られているらしく、そう簡単には錆びもしないのだとか。
この素敵アイテムはお母さんが冒険者時代に入手したもので、他の装備品はお金を工面するためにほとんどを売り払ってしまったけれど、軽くて丈夫ということで手元に残して使っていたらしい……という内容を、かなり濁して語ってくれた。
娘相手に生々しいことは言えないようだったから、あくまでも私の推測だよ。
そこで頭を過ぎった不安――このシャツを私が使ってしまっては、稼ぎのよい討伐系の依頼をこなせないのではないか。それを口にしてみたら、お母さんは苦笑して『一応予備はあるし、そもそも時間がなくて滅多に受けてないわよ』とのことだった。
この前のジャガイモといい、討伐依頼を受けてはいるのに装備を譲るだなんて、なんとも過保護なお母さんだよ……。
翌日からは着々と準備を進めていき、その数日後には出立の手筈が整った。
私は魔道具風の箱に少々細工を施すだけで、エミリーに至ってはいつでも発てる状態だったけれど、シャノンが少しばかりの時間を要するとかで予定よりも僅かに遅れている。
そして迎えた出発の日は、いつものように朝早くから私の家で待ち合わせだ。
寝坊しないようお母さんに叩き起こしてもらってからはお出かけを見送り、先日のミスリルシャツや一張羅などの着替えを済ませ、その足でエクレアをスタッシュに入れて店舗エリアで待機していたら、冒険者の恰好をして籠を抱えるエミリーがやってきた。
「お待たせ。昨日言われた分だけ持ってきたけど、ほんとにいいの?」
「うん。パンはどれだけあっても困らないから大丈夫だよ。余れば食べたらいいんだし」
「それもそうか。……あ、出かけるなら籠置いてこないと」
「待ってるから置いておいでよ」
今回もお向かいのパン屋さんから複数のサンドイッチを多めに買い込み、籠を置きにいったエミリーが戻って間もなく、片手に小袋を提げるシャノンがお店に入ってきた。
「ごめん、わたしのせいで出発日がズレちゃって」
「何か大事な用だったんでしょ? 仕方ないよ」
「そうそう。気にしないでいいよ。あたしも帽子の飾り作れたからさ。ほら、どう?」
言われて見てみると、耳当て部分の端には小さなお花が咲いていた。
どうやら色糸を使って刺繍を入れたようで、あまり器用ではない私には真似できそうもない。
「なんだかミリっちが女の子みたいだね」
「ちょ――」
「……シャノン。出かける前に一発グリっておこ――あ、こら、逃げるな!」
私は咄嗟にお口をチャックして沈黙を守った。あのグリグリは冗談抜きで痛いのだよ。
ちょっとは女の子らしい一面もあるとフォローしても、私にも魔の手が迫ったに違いない。
早朝ということで軽めに済ませたエミリーが、カウンターに立てかけてあった剣と盾を手に取り、思い出したように私へ問い掛けてくる。
「あ、そうだ。サラ、渡しておいた道具とか忘れてないよね?」
「うん、バッチリ。昨日のうちにスタッシュの中に入れてあるよ」
「そっか。それじゃあ、そろそろ行こ――」
「あ、待って。その前にこれ使ってみて」
出発の合図を口にしかけたエミリーを遮るようにして、両手でこめかみを押さえるシャノンが待ったを掛けた。そして、グリグリの最中も決して離さなかった小袋から、両端に革紐が伸びる小さな金属板を取り出して私たちに見せてきた。
しかし、使えと言われてもこんな道具を目にしたことはない。
「なんか魔石嵌まってるけど、サラの商品?」
「対象位置探査機の改造版。これ作ってて遅くなったんだ」
「そうだったんだ。これはどうやって使うの?」
「その前に渡すよ。はい、サっちゃん。ミリっちも」
受け取った物をよく見てみると、ゆるい曲線を描く長方形の金属板には五つの小さな魔石が一列に並んでおり、それの両端には寄り添うようにして赤金色の突起が飛び出ている。そこに触れてみても特に変化が起こることはなく、尖っていないので私の指にも怪我はない。裏返してみても不審な点は見当たらず、ただのアクセサリーとしか思えなかった。
「見てもよくわかんない……あれ、私だけ二個なの?」
「そっちはエクレアの分だよ」
「あ、そっか。ありがとう。後で首輪に付けるね」
「あたしはどこかで見たことある気がするのに思い出せないや。これ、どうしたらいいの?」
エミリーに促されたシャノンが使用方法を教えてくれた。
両端にある突起へ魔力を流すと周囲にその魔力が行き渡り、前もって登録しておいた機材を持つ者が近くに居れば、並んだ魔石が光ってそこまでの距離を色で示してくれるそうだ。
何かを飛ばしてその反応で情報を得るなんて、まるで漁船や潜水艦に搭載されているソナーと似ているね。なかなか便利そうだよ。
説明を終えて『試してみる?』と言うシャノンが、私に断りを入れてから倉庫へ繋がる扉の前まで行き、合図が出たのでエミリーとソナーの機材を見せ合いながら魔力を流してみた。
すると、どちらのソナーからも嵌まった魔石の端二つが紫と青の光を発している。
「光ったね」
「うん、光った」
「ここだとそれ以上は試せないけど、もっと離れていくと残りの緑・黄・赤が光るよ」
ここまでなら実用的な代物に思えたけれど、周囲に魔力をばらまくので範囲が拡がるにつれて燃費が悪くなる上に、何度も使っていると光る魔石が壊れてしまうから要注意だとか。仮にそうなってしまっても、ただ光らないだけで信号の送受信には何ら問題ないらしい。
それと、応答時に使用される魔力は周囲に漂うものを普段から溜め込んでいるそうで、そちらでの魔力切れは心配不要みたい。
ものはついでに、なぜこれを作ったのか尋ねてみたら、少し照れた笑みを浮かべて『みんなでお揃いが欲しかった』ということだった。……なんともシャノンらしい理由だね。
ただ、数ある装備品や道具類の中からソナーを選ぶ原因となったのが、猪モドキに追われた私を見失ったことみたいだけれど。




