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#040:祭りの時間だぁ!

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 いじけるエミリーをなんとか宥めて獲物探しを続行し、野獣とまみえたらそれを捕らえ、冒険者であれば割増料金で売りつける。

 その最中に、お腹の空く香りを()き散らす食品が冷めてきたから時間を巻き戻してみたのだけれど、なぜか出来たての香ばしさやその温もりを取り戻すことができなかった。仕方がないので加熱の魔術で保温し続けて事なきを得たよ。


 魔力支配を信じるなら時間は戻っているはずなのに、いったい何が足りないのだろう。

 誰か説明書を持ってきてくれないかなぁ。今ならお礼にパンと串焼きを進呈するよ。


 そうこうするうちにも帰還の時刻が訪れて、素材の買い取りは今ひとつ振るわなかったものの、食べ物と傷薬はそこそこ売れたので運営資金に僅かばかりの余裕が生まれた。

 これを使ってさらに品目を増やしていこうじゃないか。




 取り扱う商品を少しずつ加えていきながら、お休みのたびに冒険者を相手に高値で売りつけ、店番の合間に川まで赴いてスタッシュの拡張に精を出すという日々が続き、この世界において節目であるお祭りの日がすぐそこにまで迫ってきた。


 これからに備えて木工工房の親方さんに作ってもらった魔道具風の箱をいじっていると、ドアベルを騒がしくして酒樽(さかだる)を抱えるお母さんが帰ってきた。


「ただいま、サラ。これお祭り用ね――っと」

「おかえりなさい、お母さん。お酒買ってきたの?」

「芋よ、芋。今日の依頼先で追加報酬として貰ったのよ」

「へぇ。結構多いね」


 床の上に置かれた酒樽(さかだる)の中には、二人と一匹で食べるにしてはあまりにも多すぎる量のジャガイモが入っていた。


「そりゃあ、領都の食料庫みたいな村が魔物に襲われてたもの」

「大変じゃない!」

「ちゃんと全部倒してきたわよ。数だけは多かったから疲れたわ」


 言葉どおりに疲れた表情を窺わせるお母さんは、いつものようにお昼ご飯を作りにいかず、カウンターを回り込み私の隣に腰掛けてきたので、こっそりと魔力の補給をしておこう。


 さて、またジャガイモが大量にあるわけですが……何を作ろうかなぁ。

 前回と同じ芋餅では芸がないし、今回の秋祭りに持っていこうと思ってチーズとガーリック風味のクルトンを既に用意していたから、掛け合わせてもおいしく食べられるものがいいね。

 さすがにこの条件では、自慢の脳内メモを以てしてもお手上げではないかと危惧したけれど、ピッタリ一致するものがピックアップされたので、早速今晩にでも作ってみようかな。




 昼食後もゆっくりと時間をかけてお母さんの魔力を回復させながら店番に勤しみ、日が暮れてきたら夕食の支度をするついでにジャガイモを茹でてもらっておく。

 手早く閉店作業を終えてからは茹でたジャガイモを潰していき、それにハーブと塩と玉子を入れてよくかき混ぜながら、ダマにならないよう小麦粉を少しずつ加えていく。

 そして、混ぜ上がったものの中に好きな具材を詰めて、ほどよい大きさに丸めたら、あとは茹でるだけでクネーデルの出来上がり。

 グレイビーソースを掛けたらさらにおいしいのだけれど、残念ながらもうお肉はないのです。


「お母さん、できたよ。食べるよね?」

「……あら? イモモチじゃないのね」

「え、そっちのほうがよかった? いらないなら私が食べるけど」

「そうじゃなくて、あれって結構評判よかったのよ」


 毎日食べる気にはなれなくても、たまになら変わり種ということで好評だったらしい。

 似たような工程でも芋餅のほうが安上がりだから、今回もそれを持っていこうかな。


「……これおいしいわね。何にでも合いそう」

「物足りなかったら濃いめのソースを掛けたり、調理したお野菜とかお肉の切れ端を入れたりしてもいいよ。特にチーズがおすすめ」


 なんだか芋餅の時よりも食が進むみたいだから、これに決定でいいのかも。

 それなら、芋餅のもちっと感を出すために小麦粉ではなく片栗(かたくり)粉を使ってみようっと。




 少ない日数で試作品を考えては晩ご飯の足しにして皆で食べ、迎えたお祭り当日はお母さんと一緒に朝から店番をする。

 今日も買い忘れ品を求めるお客さんが何名も訪れて、その数も落ち着いたころにお母さんから『もうお祭りに行ってもいいわよ』と許しをもらい、エミリーを誘って一足先に出発した。


「サラは何持ってきたの? あたしはいつものパンだけど」

「もっちりしたジャガイモ団子のクネーデルとマヨネーズだよ」

「この前のと同じ?」

「あれは焼いたやつ。これは茹でたやつ。具も入ってる。ちょっと違う」

「ふうん……。後でちょうだいね」


 そんなことを話していたらお祭り会場に到着し、早速人混みの中へと突き進む。

 今までどおりなら途中でシャノンと落ち合うのだけれど、魔術用品店を営む祖父母から何やら手伝いを頼まれたそうで、今日は少し遅れて合流することになっている。


 あちらこちらで笑顔の花が咲く中を歩いていると、気になる会話が耳に入ってきた。


「そういや、聞きたいことがあんだけどよぉ」

「おう、何だ? 向かいの家に生まれた娘がお前そっくりなことか?」

「違げえよ! 変な冗談やめろや! 今日は女房も来てんだよ!」

「すまんすまん。で、何の話だ?」

「……だいぶ前なんだがな、シャノンちゃんに手え出そうとしたガキ共がいたって聞いたんだが、そいつらどうなったか知らねえか? おめえはまだ冒険者やってんだろ?」


 いたなぁ、そんな人たち。もう何日前のことだろう。

 あれから何の音沙汰もなかったものだから、私も気にはなっていたのよね。


「……ああ、あいつらか。俺らのアイドルに手出ししようとしたんだ。とっくに処分されてギルドからも追放されてるぞ。え~っと……名前は忘れちまったが、今はどこぞの工房でこき使われてるんだったかな」

「へぇ……。処分ってえと、やっぱあの方々が?」

「そうだな。シャノンちゃん親衛隊のお歴々だな」


 ――シャノンって親衛隊がいるの!?

 あまりの衝撃に声も上げられず立ち止まってしまい、話をしているおじさん達を凝視する私に気付いたエミリーから、肩を強く揺すられて正気に返った。


 場を離れながらもエミリーに尋ねてみると、未だに危険な冒険者業に勤しむご老人たちがいるそうだ。もう随分とお年を召しているし、町に居を構えた上で定職に就かずとも食うに困らないほど稼いだにもかかわらず、鍛え上げられた魔術のおかげで若者よりもパワフルに活動しているのだとか。


 そんな人達がシャノンを大層かわいがっているらしく、アホなことをした追い剥ぎ共は懇切丁寧な個人指導を受けたのではないか――と、エミリーは予想しているみたいだった。


 野獣が徘徊する森の中に気絶させたまま捨て置いた私が言うのもなんだけれど、少しばかり頭のおかしい言動をしただけでその仕打ちとは、さすがに大袈裟(おおげさ)ではないかな。




 予め決めておいた場所でシャノンの到着を待ち、思ったよりも早くに合流した。

 それからは、隣の小国群を挟んだ先にある帝国では奇抜なファッションが流行(はや)り始めただの、その小国群にある一つの国では王様が若くて格好いいやらと、お酒を酌み交わしながら賑わう中を適当にぶらついて、羊飼いの隠れ家亭から供される豪華料理の時が来るまで暇を潰した。


 (しばら)く経つとお祭り会場の一部が騒がしくなったので、ようやく時を迎えたようだ。

 すぐさま移動しておいしい料理を分けてもらい、三人で舌鼓を打っていると、人垣が割れて美人姉妹が姿を見せる。


「あっ、サラちゃん達だ!」

「皆さま、ごきげんよう。お味はいかがかしら」

「文句なしでとってもおいしいですよ。いつも言ってますけど、毎日食べたいくらいです」

「そうおっしゃっていただけるとシェフも喜びますわ」

「うんうん。いっぱい食べてね!」


 相変わらず元気でかわいくて、綺麗でお淑やかで、この人たちも毎日眺めていたいよ。

 もしも強引に連れ帰ろうものなら、追い剥ぎ共の末路が(かす)むほどに(むご)い未来が訪れるだろうし、周りのおじさん達と同じくこの場で目に焼き付けるしかないのよね。

 そんな思いに浸っていたら、グレイスさんから肝の冷える発言が飛び出した。


「そういえば、新たな事業を始められたと耳にしましたけれど、調子はいかがですか?」

「……もうご存じなんですか? おかげさまで今のところは順調ですよ」

「はえ~……サラちゃんがんばるね。何か手伝えることがあれば言ってね!」

「うん、ありがとう。その時がきたら是非ともお世話になります」


 こんな大勢の前で迂闊(うかつ)なことを言ってはいけないよ、クロエちゃん。

 何かあれば手を貸してくれるということは、後ろ盾になるも同然と受け取られてしまう。

 少なくとも私はそう判断したから、もはやこの町では恐れるものはないかもしれない。

 ということは、今日もエクレアへのお土産をこそこそとスタッシュに詰め込んでいても問題ないはずだ。


クネーデル(クヌーデル)は、ジャガイモやパンで作るお団子みたいなものです。

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