#039:慈悲のない強硬手段
2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。
町に帰り着いてからは、エミリーの伝手を辿って冒険者ペアの収穫物と共に猪モドキの解体をお願いした。そこでは手数料代わりにお肉を少し持っていかれたけれど、我が家へ持ち帰る分を別で確保しておき、まだ残る大半は串焼きにしてもらった。
焼きたてのそれをエミリーとシャノンにもお裾分けして、他はすべて時間を停止させてからスタッシュへと入れておく。
これは売り物にするのだよ。今日売れなかったのはラインナップが悪かったに違いない。
串焼きなら腐ったような肉ですら売れるほどの人気があるのだから、次こそはいけるはず。
血抜きや解体に時間を取られたこともあり、少しお行儀が悪いけれど、お返しに貰った兎肉と狸肉の串焼きを両手でほおばりながら、同じく串焼きを齧る二人と一緒に冒険者ギルドまで歩いていく。そして、貢献度を上げるためにエミリーが集めたばかりの素材と、身分証でもある冒険者メダルを入口近くの受け付けカウンターに提出した。
この世界の生物からは必ず魔石が出てくるので、それをまとめて渡していたよ。
ただ、魔物と比べると野獣の魔石は本当に小さな物みたいだから、冒険者ギルドの貢献度を上げるという面に限っては、鉄鉱石や石炭でも集めたほうが幾ばくか早いらしい。
それでも、野獣狩りを選んだ然るべき理由はあるようだ。
冒険者ギルドを出た美少女三人組は、町の外周近くに位置する工房郡を目指して歩いていく。
向かう先はいつもお世話になっている木工工房のある通りではなく、この町の中でも最下層ともいうべく貧困者が住まう地区にある工房群で、そこが取り扱うものに難があるためにあまり人が寄りつかない。
「ギルドで売らなくていいの? ポイントになるんでしょ」
「もう余裕あるから大丈夫。どうせ売るなら高いほうがいいってサラも言ってたじゃない」
「確かに言ったけど、あれはお金だけじゃなくて総合的な意味でだからね?」
「ギルドだって察してると思うから、サっちゃんが気にすることでもないよ」
そうやって話している間にも、先ほど串焼きを食べたことを後悔するような悪臭が漂い始め、町の外壁と隣接するように軒を連ねる工房群にまでやってきた。
ここには冒険者や猟師から毛皮を買い取って加工する皮革工房がある。
まだ秋にすらなっていなくても確実に迫ってくる冬に先駆けて、冒険者ギルドや他の同業者より少しだけ高く買ってくれるらしい。出遅れて物が足りなければ商売にならないからだろう。
そんなことをしていては関連ギルドから注意されそうなものだけれど、そこまでは私の知るところではないので早々に毛皮を売り払い、あまりの悪臭に堪えきれず工房から逃げ出すようにして帰路に就いた。
自宅に帰ると時間が遅かったこともあって既に夕食の支度が進められており、持ち帰った猪モドキのブロック肉は明日へ持ち越された。
以前、エクレアが仕留めてくれた鹿のような野獣肉はとっくに食べ尽くしている。そこにお土産のお肉を見せたらお母さんは喜んでくれて、このまま焼いただけでは臭みが強いらしくてどんな味付けにしようかと考え始めたので、串焼きと同じくピリ辛風を提案しておいた。
本当はぼたん鍋を食べたいのだけれど、お味噌がないのだよ。
出汁をとるための鰹節や昆布も見たことがないし、和食は諦めるしかないと思う。
そして、私の時間停止保存を活用した翌日からは、お肉で彩られた晩ご飯が連日に渡って繰り広げられ、さすがに飽きてきたころには休養日がやってきた。
次こそは儲けを出してやる所存であります。
今日も私の家で待ち合わせて、エミリーから売り物にするパンとお昼ご飯のサンドイッチを受け取り、シャノンが合流してからは前回と同じく野獣狩りに出発する。
実は、先日のチーズ入り一口パンはヤケ食いしてしまったのだ。
今回は串焼きと合わせることを前提にして、コストはかさむけれど清涼感のあるハーブ入りチーズが混ぜ込まれたものを選んだよ。
町から延びる川沿いの街道を森が見えるより前に山手へ折れて、休憩を挟みながらも数時間歩き、脳内メモに違うことなく前回と同じ狩場に到着した。
そこで麦茶を飲んで一息ついてからは、町を出てから一緒に歩いてきたエクレアにお願いして獲物を探してもらい、それが冒険者なら商売道具を装備した私が対応し、野獣であればエミリーとシャノンが対処する。
それを続けていても奮闘むなしく何一つ売れることはなかった。
何か策はないものかと考え抜いた結果、冷めたり腐ったりしないように止めておいた串焼きの時間を解放し、焼き立ての香りを周囲にばらまくという慈悲のない行動に打って出た。
「ったく、腹減ったなぁ……」
「こっちの方じゃね?」
どうやら効果はあったようで、早速お腹を空かせた青年たちの冒険者チームが現れた。
いささか小汚い恰好をしていれど、パンを買うお金くらいは持っているでしょう。
「おっ、ここだここだ」
「なんかいい匂いすると思ったら、なに、それ、食わねえの?」
「はい。ただいま出張販売中です。素材の買い取りもしてますよ」
「へぇ~。んじゃあ、売るほどあるなら俺らが貰ってやるよ」
「……は?」
「だから、余ってんなら俺らが食ってやるって言ってんの。わかんない?」
……うん? どういう理屈なのだろう。
売り物なのだから余っているわけがないでしょう。何を言っているのだろうね。
「……お買い上げでいいんですよね?」
「こいつバカだわ」
「まぁいいじゃん。そっちの奴らも服とか装備とか置いてってね~」
「あの――」
「大丈夫だって。お前らみたいなチビに興味ねえから」
「なんだこの黄色いの。豚か?」
意味のわからないことを口にしながらも、立ち売り箱へと手を伸ばしてきた。
そのまま力任せに引っぱられて姿勢を崩してしまうと、背後にいたエミリーがその手を強く払いのけて私を守るように躍り出た。
「痛ってえなぁ」
「あんたら、いい加減にしなさいよ」
「なに? 俺らとやろうっての? そんな短剣だけで?」
「しょっぼい装備つけてんなぁ。面倒くさいから、とりあえず黙らせようぜ」
これはアレか。追い剥ぎ――喝上げや強盗というやつか。
それなら遠慮なく私の魔術でぶっ飛ばそうと思ったら、エミリーが『火の精霊よ、あたしの内で燃え上がれ!』と火属性の身体強化を施して、追い剥ぎ共の一人を殴り飛ばした。
「ガ――ッ」
「フン。あんたらなんか切ったら剣が腐るわ」
「こんのクソガキ! 囲んでやっちまうぞ!」
「ああ! その顔潰してやる!」
殴り飛ばされた追い剥ぎも起き上がり、手入れだけはしているらしき武器を抜きながら包囲に加わろうとしたその瞬間、今まで沈黙を守っていたシャノンがワンドを振り上げ、最も得意とする魔術で割り込んだ。
「――そうは問屋が卸さない。アイシルクスピア!」
「待って、シャノン! 半分だけよ。残りはあたしがやるんだから!」
「わかってるよ。でも、わたしだって怒ることもあるんだよ?」
それからは一方的な展開だった。
元から運動神経抜群のエミリーが身体強化で腕力を向上させたらまさに鬼に金棒で、反撃をひらりと躱して次々と昏倒に追いやっていく。
その隣では、見た目は幼いけれど大人顔負けの魔力をその身に秘めたシャノンが放つ無詠唱一歩手前の魔術も雨あられと降り注ぎ、追い剥ぎ共は悲鳴を上げて逃げる暇さえ与えられずに、顔中を腫らして傷だらけのボロ雑巾となった。
倒れ伏した追い剥ぎ共を眺めていたら、そのうちの一人が冒険者メダルを首元から覗かせている。それを回収するついでに他の連中も調べてみたら全員が冒険者だった。……後のことはギルドの大人たちに任せよう。
ちなみに、一人だけがDランクで他は揃ってEランクだったのだけれど……こいつら、寸鉄も帯びないFランクのエミリーからボコボコにされていたぞ。
お昼ご飯を食べて気を取り直した私たちは、また獲物探しを再開だ。
今度は香りを撒き散らす串焼きとハーブ入りチーズパンが何個か売れて、数は少ないけれど傷薬を買う人も現れた。
そして、そんな中でようやく素材の買い取りも成功したよ。
物が売れ始めたことで気をよくした私が買い取りに注力しようと熱心に声を掛けていたら、何度か見かけたことのある女子チームから『がんばってね』と励ましの言葉と共に、小さな魔石を売ってもらえたのだ。
しかし、その言葉の宛先は普段着の上に商売道具を装備した私ではなく、革の胸当てと革の篭手という冒険者の恰好をしているエミリーが、獲物が捕れなくて譲ってもらおうとしているように見えてしまい、それに同情されたのではないか――とお冠だった。




