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#035:ひょんな事から最硬魔術

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 意外と時間のかかった買い物を終えてからは、帰り道が反対方向のシャノンと別れ、買ったばかりの装備品を早速身に付けてご満悦のエミリーと一緒に家路を歩く。

 そのエミリーは鼻歌まで漏れ出して本当に嬉しそうで、短剣が納まる鞘を何度も撫でていた。

 すぐにでも抜きたいのだろうけれど、町の中で武器を振り回されては迷惑どころか危険なので、警邏(けいら)の兵士に見つかると没収されたり罰金を科されたりするから我慢しているのだろうね。


 そうやって歩いている間にも家の前にまで辿り着き、短い挨拶を交わしたエミリーはそそくさと自宅の扉を開けて中へと入っていった。

 私もさっさと帰って何を仕入れるか考えなければ。




 ドアベルを揺らしてお店に入り、ただいまを言うと同時にお母さんから店番の交代を頼まれて、仕入れのプランを練りながら短い仕事をこなしたら晩ご飯だ。

 そこで考えた末に出した結論として、お金がないうちはお店の物を売ってマージンを得る。そのために商品を持っていってもいいかお母さんに聞いておかないとね。売れ残り品を売りつけるのも目的の一つなのだし。


「ねぇ、お母さん。お店から外で売る分を持っていってもいい?」

「この町の周辺でしょ? 日用品なんて売れないと思うわ」

「じゃあ、貸し出しにするとか?」

「そんなことしたら返ってこないわよ。まずは買い取りからやってみたらどう?」


 権力者が立ち会いの下に厳重な契約を結ぶのならまだしも、いちいち手間を掛けてまでやっていられないから借りパクされるのが落ちか。

 かといって、買い取りをメインに据えたとしても資金に余裕がなくていささか厳しい。


「でも、あんまりお金ないよ」

「この前のがあるじゃないの。ほら、業者のやつ」


 私が売り方を間違えたと落ち込んでいた時に、商人ギルドが間に入れてきたあの業者か。

 そこから支払われるのは季節ごとに催されるお祭りの後だからまだ受け取っていない。それがいくら貰えるのかわからないけれど、その全額を私が使っていいとお母さんが言ってくれたので、少しばかりの余裕が生まれて安心できたよ。


 それでも、買い取りのみだと物足りないから、需要の高い傷薬を用意しておけばいいかな。

 日用品は売れないと言われても、皆無というわけでもないでしょう。なんだかんだで冒険者には売れると思うし、まずは明日のお昼から薬草を採りに行ってこよう。




 翌朝もお母さんは早いうちから隣町の領都へ出かけたようなので、私はいつもと変わることなく店番をする。

 いくら隣町だといっても、徒歩で移動していては仕事をする時間なんて取れないだろうから、きっと速度上昇系の魔術を使っているのだろうね。だとすれば、かなり疲れていると思う。


 これを癒すなら何がいいか。今まで隠していた魔術のことを明かしても、まだ言っていない魔力の回復はこっそり行えばいいとして、身体に残る肉体の疲労は時間を操る魔術で――ってダメか。

 身体の疲れだけを取り除こうにも記憶までもが巻き戻って大惨事が訪れる。

 私にとっては便利なスキルだけれど、誰かに対してだと使い勝手が悪いなぁ。


 そうやって頭の中でどっちつかずの独り相撲を取りながら店番に勤しんでいると、ドアベルを揺らしてお母さんが帰ってきた。


「おかえりなさい、お母さん」

「ただいま、サラ。薬草採りに行くんでしょ? すぐにご飯作るからね」

「この前話した魔術があるから急がなくても大丈夫だよ」

「……そういえばそうだったわね。じゃあ、一緒に食べようか」


 そう言ってお昼ご飯を作りにいったお母さんだったけれど、先日エクレアが仕留めてくれたお肉と、料理に使う包丁を持ったまま困り顔で店舗エリアに戻ってきた。


「サラ、これどうにかしてくれる?」

「どうにかって?」

「肉が切れないのよ」


 私が持つスキルを打ち明けたことで、まだたくさん残っているお肉の鮮度を保つために時間を停止させておいたのだけれど、何やら不都合が生じたらしい。

 お母さんが私の目の前でお肉に包丁を走らせてみても、言われたとおりに傷一つ付かないという面白い現象を見せられた。


 これはすごい発見だね。時間の停止は保温目当てでしか使っていなくて気付かなかった。

 こんな簡単なことで最強の防御力を手に入れてしまうとは。


 ただ問題があるとすれば、どれだけ強固な守りであっても時間が停止すると一切の身動きが封じられることくらいかな。……本当に、この魔術ときたら、使えそうなのに使えない。

 特に、私自身にかけると誰も解除できないという致命的な欠点があるからね。

 普通の人ならそのうち魔力が切れて解決する話なのに、無尽蔵ともいえる私の魔力量では生きたまま死ぬも同然になってしまうよ。


 せっかくの力を活用できないことに脳内で悪態をつきながらも、お肉に流れる時間を元に戻してお昼ご飯となってもらい、それをおいしく食べて薬草採集に出発した。




 前回と同じく森の入口まではごく普通に歩き、そこからは時間加速で奥の泉に到着した。

 今日は散歩を兼ねてエクレアも連れてきているよ。

 まだ暑い日が続くけれど森の中だから足裏を火傷(やけど)することはないだろうし、またお客さんを驚かせたら大変だからね。


 ぷもぷも元気に走り回る姿を微笑ましく思いながら薬草を摘んでいると、どこかに行っていたエクレアが私の袖口をくわえて引っ張りだした。


「そんなに引っ張っちゃダメだよ」

「ぷむぅ!」

「遊びたいの? 今はお仕事中だから、もうちょっと待っててね」

「ぷうむ! ぷぅうむ!」


 あまりにしつこいので作業を一時中断してエクレアと向き合ってみれば、どこか行きたい場所があるようで少し離れたところから何度も振り向いてくる。


「そっちに行きたいの?」

「ぷも!」


 そのまま導かれるようにして跡をつけていくと、(しばら)く歩いたところで立ち止まって一声鳴いたので、周囲に目を向けてみれば探すのが面倒な赤い花がいくつも咲いていた。


「これを教えてくれたの?」

「ぷもぷも」

「ほうほう。……エクレア、ちょっとおいで?」

「ぷも?」

「――ういやつめ! 撫でまくってやる!」


 なんということでしょう。

 私がせっせと集めているのを目にして、それと同じ物を探し当ててくれるだなんて。

 もふもふの毛並みをわしゃわしゃした後は、私のスキルを駆使して先日の野獣肉から作り上げたエクレア専用のジャーキーをあげておこう。


 それからはエクレアにも手伝ってもらい、取りすぎないように心掛けたにもかかわらず、スタッシュが満杯になるほどの薬草が集まったので家路に就いた。




 帰りも加速の魔術で森を抜けると、前方にはよく見知った二人の女の子が歩いていた。

 せっかくだから一緒に帰ろうと思い、駆け寄りながらも呼びかける。


「お~い、エミリー、シャノン!」

「ん? あれ、サラじゃない。出かけてたの?」

「お~、サっちゃん。奇遇ですなぁ」


 昨日買ったばかりの装備を身に付けて袋を抱えるエミリーと、普段とあまり変わらない服装のシャノンが手を振ってきた。


「薬草採ってきたんだよ。二人はランク上げ?」

「うん、そう。川で鉄鉱石拾ってきた。これもギルドへの貢献度になるから」

「へぇ。それでちょっと濡れてたんだ」

「あ、そうそう、聞いてよサラ。シャノンってばすごいよ?」


 どうやら魔物を倒して手っ取り早くランクを上げる計画だったみたいだけれど、肝心の魔物が見つからなくて需要の高いアイテム収集に切り替えたそうだ。そこでシャノンの魔術が大活躍して驚くほど楽に集めることができたのだとか。


「川の水にポッカリ穴開いたからね。あたしじゃ真似(まね)できないわ」

「フフフ……。新米クンとは年季が違うのだよ、年季が」

「ぐぬぅ、こればっかりは言い返せない……」


 川底に穴が開くならわからなくはないけれど、川の水に穴が開くって何のこっちゃ。


「なんかすごそう。私も見てみたいな」

「それなら、明日来る?」

「う~ん……お店があるからお休みの日じゃないと無理かなぁ」

「じゃあ、休みの日ね。あたしはいつでもいいから」

「わたしも指名依頼が入らなかったら大丈夫」


 お母さんが危険な冒険者業に復帰してまでがんばってくれているのだから、私もできる限りお手伝いしたい。午後からは今後に備えた準備のために休みがちになるだろうけれど、数少ないお客さんを逃すなんてもったいないからね。


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