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#032:秘密のアルバイト

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 現役冒険者からの貴重な意見を聞かせてもらい、少し長く引き留めてしまったマチルダさんには、お礼として麦茶の小袋をおまけしたら喜び顔でお帰りになった。

 やっぱり消耗品はいくつあっても困らないものね。


 それからは、プランを練りながらエクレアと一緒に誰も来ない店番に勤しんでいると、お出かけしていたお母さんが帰ってきたのでお昼ご飯となった。

 その席で狩場まで出張する移動商店のアイデアを語ってみたら、お母さんにも好感触だ。


「言われてみればそうなのよね。魔物を仕留めても大きすぎて持ち帰れないこともよくあるわ。それをその場で買い取ってくれるなら繁盛するかもしれないわね」

「でしょ? 傷薬の残りに不安があってもすぐに補充できるし」

「そうね。知り合い同士なら譲り合うことはあっても、赤の他人にはお金を積まれたって売らないもの。大量に持っていたのなら遠くまで行くんだから当たり前よね」

「うんうん。ご飯もこうやって温かいほうがいいもんね?」

「冷えたご飯ほど悲しいものはないわ。それが嫌で冒険者を辞める人もいるくらい」

「じゃあ、明日にでも狩場で売り子するね」

「ダメよ」

「うん、わかっ……あれ?」


 今まで饒舌(じょうぜつ)に語っていたにもかかわらず、なぜかダメだと言われてしまった。どこに不満点があったのだろう。まるであるあるネタに過剰な反応を示すおばさんみたいなノリだったのに、いったいどうしたことか。


「どこかおかしなところあった? お母さんだって儲かるかもって言ってたよね」

「それとこれとは話が別よ。危ないからダメに決まってるでしょ!」

「え、そんな理由で?」

「サラ、わかってる? 狩場には魔物が出るのよ?」


 それからも一進一退の攻防が続き、あまり遠くに行かないことを条件にお母さんが折れた。

 気軽に『薬草採ってきて』とか言うのに、ここまで長引くとは思わなかったよ。


「絶対に危ない所へ行かないこと。いいわね? ……ほんと、血は争えないのかしら」

「血ってお父さんのこと? あれほど無謀ではないと思うんだけど」

「違うわよ。お母さんの血が濃かったのかなって」

「……どういうこと?」


 言葉の意味を説明してもらったら衝撃の事実が判明した。

 なんと、お母さんは現役の冒険者だった。しかも、結婚で一度辞めてからの復帰組だってさ。


 このお店の売り上げだけでは商人ギルドへの上納金はおろか食費すらまかなえ切れないので、毎朝早くから隣町の領都にあるギルドまで赴いて依頼を物色し、割りのよい依頼があれば受け、その稼ぎで今まで暮らしてきただなんて言われたら、私はどう反応すればよいのだろう。

 ずっと早朝デートだとばかり思っていたのだから。……穴があったら入りたい。


「朝から誰かとデートしてるんだと思ってた……」

「なにバカなこと言ってるの。お母さんにはライアンがいるからそのつもりはないわよ。母さんみたいなこと言わないでちょうだい」

「そういえば、さっきお婆ちゃん来てたよ」

「またぁ? 少しでも若いうちに新しい男見つけなさいってうるさくてね」


 正直に言うと、お母さんが現役の冒険者だったことよりも、未だに父を想っていることのほうが驚いた。家族を捨てていった人のどこがいいのか理解できないよ……。


「ところで、温かい食事なんてどうするつもり? その場で作るにしても大変よ」

「そんなの時間止めておけばいいよ」

「……時間を止める?」


 あっ。

 こうも立て続けに仰天する話を聞かされたから、おざなりな返事になってしまった。

 今こそ時間操作の本領発揮でしょう。世界まるごと時間よ戻れええぇぃ――


「氷の魔術で固めるってこと? そういえば、あんたいつの間にか使えるようになってたわね。麦茶冷やしたりしてさ」

「あ、それは、その、えっと……」


 うっわ、使えない。時間操作使えないわ。役に立たないなぁ。なにこのゴミスキル。

 お母さんの記憶を数秒ほど飛ばせばこの場を乗り切れそうだけれど、想定以上に巻き戻って大変なことになりそうだし、まだ微調整に自信がない。


 早々に観念した私は、お母さんにヘンテコ魔術のことを打ち明けた。

 冷却は前例があったのか割とすんなり納得してくれて、対象の時間をいじる魔術を聞いたお母さんから『ちょっと若返らせてくれない?』なんて言われたけれど、記憶も一緒に戻ることを説明したら苦笑を浮かべて引き下がったよ。うまい話には毒があるってね。


「そうそう、町の外で商売するなら、商人ギルドで行商人として登録しておきなさいね」

「外のことにまで口出ししないんじゃないの?」

「出歩くつもりなら行商人の証があれば何かと便利なのよ」

「そうなんだ。じゃあ後で行ってくるね」


 出歩くというと、門で発行してもらう通行手形がいらなくなるのかな。

 私はスタッシュに放り込んでおくからなくさないけれど、もしもを考えると保険を掛ける気持ちで行商人になっておいたほうがいいかもしれないね。




 お互いに思わぬ現実を突きつけ合った昼食が終わり、その後片付けをしている最中に階下から『こんにちは~』とよく知る声が聞こえてきたので対応に向かう。


「お待たせ、エミリー」

「はい、これ。いつものやつ。今日のはひと味違うから期待してよね」

「うん、いつもありがとう。……わぉ、クルミパンだ!」


 お母さんの話を聞いたことで、このパンが本当の意味で生命線だったと気付かされた。

 今日みたいに具材が挟まっていることもたまにあって、それがまたおいしいんだ。

 その中でも、塩気の効いたクルミ入りのパンは私の大好物なのだよ。


「そんじゃ、あたしは帰るよ。これから何しよっかなぁ」

「お休みなの?」

「うん、そう。ほんとは休みじゃなかったんだけど、なんか下の兄さんが彼女に振られたみたいでさ、『俺は仕事に生きる!』とか言って張り切っちゃってて」

「そうなんだ。お兄さんも大変だね。私はこれから商人ギルドまで行くけど、どこかへ遊びにいくならエミリーも途中まで一緒する?」

「……昨日の件?」

「違う違う。行商人の登録をしにいくんだよ。町の外で商売するならやっておけって」


 その言葉を聞いたエミリーが俯いて何やら考え込んだかと思いきや、その顔をガバリと上げ、にんまりとした笑みを湛えていた。


「あたしも行くわ! 行商なら護衛が必要でしょ? あたしがやったげる」

「護衛って……あぁ、冒険者になるってこと? う~ん……」

「別にいいじゃない。サラだって安いほうが助かるでしょ?」


 私には時空を操る反則級の連続技があるけれど、あまり魔術が得意とは言えないエミリーに冒険者は危険ではないかと言い合っていた。すると、その騒ぎが二階まで届いたらしくお母さんが降りてきて『まずは両親に聞いてきなさい』と場を収めてくれた。


 そのまましばらく待っていると、涙の跡が見える笑顔を浮かべたエミリーが姿を見せ、成人するまでの期間限定という約束で了承を得たと喜んでいたよ。

 それを目にしたお母さんは頭を抱えていたけれど、私としては安い護衛は確かにありがたいのでエミリーと一緒にギルドへ向かって歩き出した。

 いくらチートコンボを使えても、不意打ちだけはどうしようもないからね。




 どんな装備を買おうか悩んでいるエミリーに、駆け出し冒険者セットは罠だからおすすめしないなんて話をしていると、前方にはふらつきながらも歩を進めるお友達がいた。

 なんだかこの光景に見覚えがあるなぁ。


「あ……サっちゃんとミリっち。これからサっちゃんの店に行こうと思ってたんだ」

「シャノン、大丈夫? 話は後にしてまずは手を出して」

「また使いすぎたの? いつもよりましみたいだけど」


 ほんのりと頬を染めてばつが悪そうに差し出されたシャノンの小さな手のひらをそっと握り、周囲に漂う魔力をかき集めてゆっくりと流し込む。本来なら手を握る必要はなく一瞬で終わることであろうとも、それを優雅にこなすのが淑女のたしなみですわよ。……シャノンの手のひらは小さくてかわいいなぁ。


「あの、サっちゃん、ありがとう。もう十分だから」

「まあまあ。よいではないか」

「うぅ……せめてくすぐるのはやめて? お礼にこれあげるから」

「ごめんごめん。ありがとう……あっ、名前わかんないけどおいしいやつだ!」


 イチゴとレモンを混ぜたような甘酸っぱい小さな果実で、滅多(めった)に市場へ出てこなくて入手困難な果物をいただいた。これも私の大好物だから嬉しいな。今日は私の好きな物ばかり貰えて幸せな一日になりそうだよ。……フラグじゃないよね?


フラグじゃないです。

お見舞いです。

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