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#030:打開策は再利用?

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 大した収穫のなかった人体実験を終えて、立ち往生した馬車を追い抜き町の入口まで戻ってみれば、門番の兵士さんが通行手形を受け取ってくれないではないか。

 それどころか、いくら話し掛けても辺りをキョロキョロ見回すだけで――って、潜伏用の魔術を発動しっぱなしだったのか。

 あんなクリーチャーを目の当たりにしたのだから、私も相当にテンパっているみたいだね。口から天の川を描かなかっただけでも褒めてほしいものだよ。かなり我慢したのだから。


 一旦この場から遠ざかって人目に付かない木陰に身を隠し、空間歪曲の魔術を解除した。

 そして、門番の兵士さんに通行手形を返却してから町の中へと入っていく。




 これからどうしようかな。リンコちゃんはこんな状態だし、新しく作ってくれる物は目処が立たないみたいだし、そもそもパーツがないから完成するかもわからないし――あ、そうだ。

 まだ使える部品を再利用してもらうっていう手があるね。

 前輪は折れてしまっていても、軸があった中心部分は残っていたから何とかなるでしょ。

 行方不明だった後輪も、ばらばらに飛び散った物の回収中に残骸を見つけてあるよ。

 うまくいけば大幅な時間短縮になると思うから急いで木工工房へ行ってみよう。




 急ぐといっても町の中を時間加速で駆け抜けるわけにもいかず、人でごった返す表通りは早歩きで進み、裏通りに入ってからは大して速度が出ない小走りで木工工房の前に到着した。


 なんだか今日は走ってばっかりだ。昨日の疲れが抜けきっていないのに、明日は筋肉痛とか勘弁してほしいよ。それもこれも、あのクソ野郎がバカな真似(まね)をしたからなのよね。思い出したらムカムカしてきた。


 息を整えている間に自然と浮かんだ愚痴を呑み込んで、木工工房の中へ足を踏み入れると作業中のお弟子さんが私に気付き、奥に声を掛けて親方さんを呼んでくれた。


「どうした嬢ちゃん。何か忘れ物でもしたか?」

「いえ、違います。まずはこれを見てください」


 空いていた作業台を使わせてもらい、スタッシュからバラバラになった自転車の破片を次々と取り出して、少しでも形がわかるよう丁寧に並べていく。


「……嬢ちゃんの荷車か? こりゃまたひでぇな」

「捨てられていたんで拾ってきました。これでどうにかなりませんか?」


 顔を(しか)めて自転車の残骸を眺めていた親方さんが、それを手に取ることなく言葉を返す。


「嬢ちゃん。気持ちはわかるが、ここまでされたらどうにもならねえ。木は折れたらおしまいだ。補修しても強度不足で使いもんにならねえんだわ。人が乗るなら尚更無理だな」

「あ、そうじゃなくて、この車軸と軸受けを新しい物に使えませんか? 貴重なんですよね」

「あん? ……あぁ、これを直せってことじゃねえんだな」

「そんな無茶は言いませんよ。私でも無理だったし」

「そりゃそうだろ」


 昼間と変わらず疲れた顔つきだった親方さんが、私の言葉を聞いて苦い笑みを浮かべた。

 あぶないあぶない。うっかりと時間操作のことが口から滑り出そうになった。

 今すぐにでも眠りたいくらい疲れているからね。頭がうまく働かないのだよ。

 先ほどもややこしい言い方をして親方さんに勘違いさせてしまったし、余計なことを言わないように気を引き締めておこう。


 私が心の中で反省している間にも親方さんが自転車の残骸を検分し、件のバーツを拾い上げてしげしげと眺めている。そして、眉根を寄せた額を掻きながら結果を教えてくれた。


「こりゃダメだな。溶けて回らなくなってらぁ。もう片一方は回るっちゃ回るんだが、穴が歪んだせいで嬢ちゃんの足では動かせねえだろうな。ちと重すぎる」

「そんなぁ……」


 回ると言ったほうを私にも見せてもらったら軸受けが反り返っていて、熊のような親方さんでも器具を用いた上で力いっぱい回さなければ微動だにしなかった。

 それならハンマーで叩いて均せばいいと提案してみたけれど、そんなことをしても前ほど軽快に動いてくれないらしくてお手上げ状態だと言われてしまった。


 どうしたものか……。これでは私の大富豪計画が頓挫してしまう。

 だからといって、この軸受けを作れる職人が育つまで待っていられないし、もういっそのこと普通の車輪で自転車を作ってもらって、それを売り込んでみようかな。


「これが使えないなら、他と同じ普通の車輪で作ってもらえますか?」

「普通でいいつったって嬢ちゃんが使うんだろ? 前みたいに軽く動かねえぞ?」

「それでもいいです。大人なら問題ないんですよね?」

「まぁな。俺らみてぇに体力のあるやつか、筋力向上の魔術でも使えりゃ余裕だろうな」

「じゃあ、大丈夫そうですね」

「いや、どうせ力使うなら普通の荷車のほうが荷物が積めるし、移動にしたって魔力を使うくらいなら普通に歩くだろ」


 自転車は魔力が不要で体力もほぼ求めないところが最大のセールスポイントだというのに、それを動かすためには魔力か体力を必要とするなんて本末転倒じゃないですか。

 お金が生まれ出る流行を作るには、若い女性や子供とそのお母さんを取り込むことが重要なのに、その悉くが体力的に使用不可能ときたもんだ。

 もしかして、私ってば呪われているのかしらん……。


 結局は、顧客が満足しない物は作らない――という親方さんの矜恃に負けた私は引き下がり、例のパーツを作れる人が見つかるまで首を長くして待つことに落ち着いた。

 それまでの間に、以前のような変更点があれば受け付けてくれるそうなので、何か思い付いたらいつでも来てくれていいと約束してもらえたよ。


 そんなわけで、これ以上仕事の邪魔をするわけにもいかず、お礼を述べて帰ろうとしたところを『そういえば、あれが残っていたな』と親方さんに引き留められて、まだ取り付けていなかったらしい籠を返却された。

 無事だったのは嬉しいけれど、籠だけあっても……ねぇ?

 これをどうにかする名案なんて浮かばないし、さっさと帰って今日は早く寝よう。




 疲れた身体を引きずるようにして自宅まで帰り着き、ドアベルを揺らして中に入ってみれば、ここ最近では珍しい光景が広がっていた。


「あっ、サラ帰ってきた!」

「お……おぉぅ、ここまで疲れたサっちゃんって初めて見るかも」

「あれ? 二人とも来てたんだ。いらっしゃい」


 エミリーとシャノンが揃って来店しており、来客用の木箱から立ち上がって迎えてくれた。

 今日が休みとは聞いていないから、差し入れを届けてくれたエミリーと買い物にきたシャノンがうまい具合に居合わせたのかな。


「『いらっしゃい』じゃないわよ。どこ行ってたの!?」

「ミリっちからサっちゃんが大変だって聞いたんだけど……」

「大変って……あぁ、あのクソ野郎のこと?」

「……すごいこと言うようになったわね、サラ」

「サっちゃんがご乱心でござる」

「それよりも、お母さんにもわかるように説明してくれる? エミリーったらずっと『サラがサラが』って騒いでるだけなんだから」


 どうやら二人は私を心配して駆けつけてくれたみたいだった。やっぱり持つべきものは気心知れた友達だね。まだ羊飼いの隠れ家亭が間に入ってくれたことを知らないみたいでエミリーは勘違いしているし、その誤解をとくためにもお母さんからのリクエストに応えよう。




 かくかくしかじかで、お貴族様が自転車を横取りしただけで直接喧嘩(けんか)を売ったわけではないし、それだって爵位を持っているのかわからないクソ野郎が勝手にやったことな上に、この町一番の有力者であらせられる大金持ちさまが仲裁してくれたので、私や木工工房の親方さんが処刑されることはないのだよ――というお話をした。


「そっか……。サラが落ち込んでる理由がわかったわ」

「元気出してね、サっちゃん」

「うん、ありがとう。部品さえあればもう一度作ってくれるって親方さんが言ってくれたから、完成したらまた乗れるようになるよ」


 憂いを見せていたエミリーが私の話を聞いて落ち着きを取り戻し、状況が把握できず不安に苛まれていたシャノンにも安堵の表情が浮かんでいる。

 それからは、他愛ない雑談を交わしながら誰も来ない店番をして、夕三つの鐘が鳴るころには二人とも家に帰っていった。


 人体実験についてはもちろん伏せてあるよ。

 少し思い出しただけでも脳内メモが……うっぷ。


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