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#015:調教してやった

2018/04/26 サブタイトルの桁数調整。及び、本文の加筆修正。

 飼い慣らすという私の言葉に疑いの視線を浴びせてくるお母さんに納得してもらおうと、この場を取り繕うだけの姑息(こそく)な手段であっても、切り抜けるために思い付いた話で迎え撃つ。


「本当にそう思ってたんだよ? ほら、私ってスタッシュはあっても無属性だけしか使えないじゃない? このままだとダメかなって」

「ダメもなにも、商売人に必要なのは早くて正確な算術と巧みな話術よ。戦闘技能じゃないわ」

「それは確かにそうだけどさ、計算ならもう誰にも負けてないよ?」

「そうね。計算と記憶力だけは文句の付けようがないわ。でも、セールストークはまだまだよ」

「……それをお母さんに言われたくないなぁ」


 お互いにぐうの音も出ず無言となってしまった。

 謎生物も話の行く末を見守るように鳴き声を潜めて身動ぎもせず静かにしており、それらに堪えかねたのか、今まで黙って黄色いぬいぐるみを見つめていたシャノンが口を開いた。


「わたしはサっちゃんが無属性をどうにかしようって悩んでいたことを知ってるし、ベヒモスが危険な魔獣であることも理解してる。でも、この子がベヒモスの亜種だとしてもまだ生まれたてみたいだから、次の春か夏くらいまで様子見したらどう?」

「……そうね。それくらいならまだ兵士でも倒せるわね。ただし、一度でも人を襲ったら処分するわよ。それでもいいならやってみなさい」

「うん! ありがとう、お母さん、シャノン」


 暇さえあれば魔術の実験ばかりしていたのは、無属性に不満があったわけではないけれど、シャノンの勘違いがよい方向に働いてくれたみたいで助かった。当たり前すぎて有って無いような条件付きで了承が出たことだし、あとはこの流れに乗って謎生物が人を襲わないように躾けたらいいだけだ。


「じゃあ、放すわよ。もし暴れたら……わかってるわね? シャノンちゃんも気を付けて」

「大丈夫。既に障壁を張ってある」

「シャノンは用意がいいね。さぁ、おいで。えっと……名前決めなきゃ」


 鳴き声から採ってプーちゃんか、見た目から採るとすればプリンかエクレアかなぁ。あとは、ベヒモスの亜種らしいからさわり心地的にベヒモフとか? ……どことなく間の抜けた感じで愛くるしさのある響きだけれど、ややこしくて呼びづらいか。

 虎も蜂もイメージに合わないし、私の貧困なボキャブラリーでは世界一有名な電気ネズミのような危ない名称を除くとこれ以上は出てこない。もう、見た目で決めてしまおうかな。


「よし、君は今日からエクレアだよ。おいで、エクレア!」

「ぷも!」


 うんうんと唸りつつも手早く決めた名前を呼ぶと、拘束を解かれたエクレアが私の広げた両腕の中に飛び込んでくる。軽く跳ねたように見えたのに、その身体を包む羊のようなもふもふ毛並みのせいか、予想外の重みを受けて驚いた。それでも、耐えられないほどの体重ではないので顔の前まで持ち上げてみると、どうやら女の子らしい。

 私がエクレアと至近距離で見つめ合っていたら、お母さんが思い出したように声を上げる。


「そういえば、餌はどうするの?」

「この子の分は私のお給料から出してね」

「違う違う。そうじゃなくて、ベヒモスは肉食だけどエクレア……だっけ? その亜種はどうなのかなって」

「パンあげたら食べてたよ。非常用に持ってたやつ」

「ああ、あの硬いやつね。それなら兄さんに頼んで麦でも仕入れてもらおうかしら」

「わたしも、(くず)魔石でよかったら工房から持ってこようか?」

「それは調教が成功してからね。もう障壁を解いてもいいと思うわよ」


 それからは、ご飯のことから始まったエクレアの扱いについて着々と決めていった。

 私はベヒモスをまったく知らないから主にお母さんが話を進め、時折シャノンからも助言を受けて、なんとか形になるころには仕事の終わりを告げる夕三つの鐘が鳴っていた。


「わたしはそろそろ帰るね」

「あ、もうこんな時間だね。いろいろとありがとう、シャノン」


 いつものようにお店の前までシャノンを送り、また時間があれば遊ぶ約束を交わして別れた。

 その際に、シャノンから『アヒル石のお礼はしたぜ』という言葉を頂いたので、勘違いしていたのはどうやら私のほうでしたとさ。すべてお見通しの上で助け船を出してくれたようです。




 思わぬ出会いがあった薬草採集の翌日からは、エクレアを飼い慣らすための調教が始まる。

 いくら大人しい子でも町の中で魔獣の放し飼いはさすがにまずいので、首輪か足枷を付けようにも丁度(ちょうど)よいサイズが見つからず、その身体に縄を巻くという荒技を取らざるを得なかった。


「エクレア、痛くない?」

「ぷも」

「大丈夫そうだね」

「ぷもぷも」


 その豊かな体毛に縄の大部分がめり込んでしまい、まるで腹巻きをしているように見えるのであまり痛々しさを感じられないところがせめてもの救いかな。現に苦しがる素振りも見せず、いつものように何とも言えない鳴き声だから問題ないと思う。


「じゃあ、まずはお座りから覚えてね。できたらご飯あげるよ」

「ぷも!」


 これからお母さんに教えてもらったとおりに調教していくわけだけれど、指定した相手に飛び掛かるような行動は当分先の話だ。まずはお座りから始まり、待てや伏せを覚えさせてからだそうで、犬の躾けとそれほど違いを感じられず私でも十分にこなせそうだった。……うまく芸を仕込めば客寄せのマスコットになってくれるかも。


 ただ問題があるとすれば、エクレアの前脚と後脚が短くて、座っているのか立っているのか一見しただけではわかりづらいことが挙げられる。横から見たら一目瞭然なので困るほどではないけれど、見れば見るほど動くぬいぐるみにしか見えないことが私の心をかき立てるのだよ。一人でぬいぐるみ相手に遊んでいるみたい――って。

 前世では買ってもらえなかったし、自分で買うお金もなかったから、調教とかそっちのけで憧れの“おままごと”をやってみたくなるのも仕方がないと思うのだ。


「ご飯ができましたよ。はい、どうぞ。あなた」

「ぷもぷも」

「どうかな? おいしい?」

「ぷも!」


 昨日の今日でエクレアのためにご飯を用意できたわけではなく、私が朝からひとっ走りして市場で買ってきた大麦をスタッシュから少しだけ取り出して食べさせた。

 麦を(こぼ)しても文句は(こぼ)さないなんて、理想的な旦那様だね。女の子だけれど。


 短い尻尾を振り回しつつも、私の手のひらから一心不乱に舐めとっている姿を眺めていたら、ふいに声が飛んできた。


「何やってんの、サラ」

「え? あ……エミリー……」

「パン持ってきたんだけど」

「……ありがとう。入ってきて」


 暑いこともあって全開にしていた窓から一部始終を見られていたようで、呆れと気まずさがない交ぜになった表情を浮かべるエミリーがドアベルを鳴らして入ってきた。


「変な声聞こえるなあって思ってさ、入る前にちょっと見てたのよ」

「あ、うん」

「なんかごめんね」

「うん……」


 居たたまれない。

 お母さんだったら笑い飛ばしてくれるだろうし、シャノンなら独自の世界を展開させてうやむやにしてくれそうだけれど、よりにもよってエミリーに見られるとは……。

 必要以上にいじったりしない人だとわかってはいても、やはり恥ずかしさが湧いてくる。


「ところで、それなに?」

「この子のこと? 昨日拾ったんだよ」

「ぷも!」

「ああ、この声かぁ。また何か変な物作ったのかと思った」


 顔を赤く染めた私を思ってか、エミリーは先ほどの醜態に触れることなくすぐに話題を変えてくれた。その厚意をありがたく受け取り、まずはエクレアの紹介や事の顛末(てんまつ)を説明していると羞恥心もだいぶ薄まってきて、落ち着くころにはエミリーが家に帰っていった。

 かわいいもの好きのエミリーらしく、休みの日には一緒に遊びたいと言っていたよ。




 それからさほど間を空けず、いつものようにお出かけしていたお母さんが両手に大荷物を抱えて戻ってきた。ドアベルが非常に賑やかだよ。


「お帰りなさい。遅かったね」

「市場に寄ってきたのよ。もうすぐお祭りでしょう?」

「そうだね。やっとその日がくるね!」

「何か安売りしてないかなって見に行ったら、いい物があったから買っちゃった。ほら」


 そう言って見せてきた木箱の中には、ごろごろとしたジャガイモが目一杯に詰まっている。

 なんでも、倉庫の収納スペースを確保するために激安価格で売られていたらしくて、それを目にしたお母さんが持てるだけ買ってきたようだった。


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