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リセマラ転生術! ~課金の多い生涯を送ってきました~

作者: 酒園 時歌

挿絵(By みてみん)






「すみませーん、死にました」


 少年は辿り着いた部屋のドアを開け、開口一番にそう言った。


 殺風景な狭い部屋には、カウンター越しにサラリーマンらしき男が一人、座っているだけだった。


「ようこそ、来世案内所へ」


 にこやかに、男はそう言った。


「まあどうぞ、こちらにお掛けになってください」


「はぁ……」


 促されるまま、少年はカウンターの前に座る。そわそわして落ち着かなかったが、男が何やら備え付けのパソコンで操作している内に、ようやく、少年は気になっていたことを口に出した。


「……あの、俺死んでから別の案内人さんに案内されてここに来たんですけど、来世って俺まだ心の準備がなってないっていうかまだ未練があるっていうか……」


「ああ、皆さんそうおっしゃられるんですよね~。ですが、申し訳ありません。特に何か理由が無い以上生き返らせるなんてできませんし、後がつっかえてるので、早急に次に転生してもらわなければならないんですよ~」


 男はパソコンを操作しながら答えた。その話しぶりは、さながら営業トークをするセールスマンのようである。


「やっぱダメか……」


 ダメ元で訊いたため、少年の生還への諦めは早かった。しかし、他に気になる点が出てきた。


「……ていうか、後がつっかえてるって、何ですか?」


「ああ~。そこ、魂についての問題なんですよね~」


「魂の?」


「ほら、自殺って、聞いたことありません? アレ、現世じゃあ本人が可哀想なだけって認識が強いですけど、実際は違うんですよね~。例えば、交通機関に影響を与えたのなら、大勢の日常の予定を壊したり、大事な予定を台無しにして人生を狂わせたり。自殺現場を見た人がトラウマを抱えることもありますし、後処理をする方々のこともあります。他にも色々、他人に悪影響を与えるんですよね~」


「ああ、ありますね」


「その結果、カルマポイントがマイナス測定不能にまで振り切って、その魂はバグって使えなくなってしまうんですよ~。それまで育ってきた分が全部パァになるので、また別の新しい魂で作り直しですね~」


「カルマポイント?」


「生きている間に培う、経験のあたいですね~。生涯ごとに課題が定められているので、その課題がどれだけ達成できたか、あとは善行をどれだけできたかが加算されるんです。逆に、悪行をするほど減算されます。ポイントの合計は魂に蓄積されますが、次の生涯へは加護程度の補助にしか使えません。例えば、善行による運の底上げですとか、前世の技術がうっすらと引き継がれるですとか。あと、一度の生涯でのやりくりはその生涯の中でしなければならないので、それまで多く稼いでいたとしても慢心はできないんですよ~。それに、ポイントの多さによって次の課題が定められますし、できるかぎり稼いだ方がいいポイントですね~」


「ああ、テストで一教科の合計の平均点が赤点じゃなくても、その教科の中に赤点が規定数あったらアウト、みたいなものですか」


「そうですね~。大量生産大量消費で数撃ちゃ当たる戦法をしても、分母が多い分やはりそういうのも多いわけでして。昔でいう間引きの割合は今でいう虐待死や過労死で精算が取れているので、それらは育てようとしても輪廻のサイクルが無駄に早いですから育ちませんし……。これは社会人が試用期間で切られるようなものなので、あまり実にならないんですよね~。ですから、結局は中堅の方々にがんばって間を繋いでいただかないといけない状況で……」


「……大変なんですね」


「ええ、まあ……」


 話が一区切りついたところで、男の手が止まる。そして、パソコンの横にあるコピー機から十枚ほど印刷すると、少年と向き合った。


「さて、お待たせしました。それでは、来世について、ご案内いたします」


「よろしくお願いします」


 印刷したての資料が、カウンターに並べられる。パッと見、履歴書のようだった。大まかに、その人物の経歴が書いてある。


「え~、弥陀天成やだてんせい様、享年十五歳。死因、階段からの転落死。で、間違いございませんね?」


「はい」


「かしこまりました。それでは、こちらの資料をご覧ください。次の、転生先の候補です」


 言われて、少年は資料を一枚一枚見ていった。


「……へえ~。よかった、人間ばかりなんですね」


「ええ。一度人間になりましたら、基本的にはその後も人間として、課題を難しくしていく形になりますからね~。稀に気晴らしだとかで他の生き物になりたいとおっしゃる方もいらっしゃいますが、加護は一生涯を跨いだらほとんど効果が無いですし、それまで育った感覚が鈍ってしまいますし、オススメはしませんね~。転生できはしますが。……あ、ご希望でしたら、候補を探しましょうか?」


「いえ、遠慮します」


 少年はきっぱりと断った。どうせ転生するなら、人間が良い。


「そうですか」


 あっさり引き下がった男の視線を感じながら、少年は手元の資料を見ていく。


 ほとんどの資料は母国の生まれになるようだが、二、三枚は外国の生まれになるようである。あとは特に特徴も無く、どれも平々凡々、いわゆる普通の家庭に生まれるらしい。


「う~ん……もう少し、良さそうなのは無いんですか?」


「これでも、候補の中から良物件ばかりを取り揃えたんですが……」


「せめて、小金持ちだとか、少し面白みのある環境とか」


「小金持ちでしたら、こちらの候補がそうですね~」


「女の子じゃないですか、転生先」


「最近、女性に生まれ変わりたい男性は多くなってきたそうですよ?」


「マジでか……。じゃなくて、これの男バージョンみたいなの、ありません?」


「無いですね~」


「マジでか……」


「面白み……刺激がある環境でしたら、ワンランク質を落とせば不良夫婦の子供、というのもありますね」


「それ明らかにすぐ戻って・・・くるヤツ……! 違う違う、とにかくもう少し条件が良いヤツ。何か、無いですか?」


「無いですね~。妥協したらいかがです? 今の時代、『普通』が難しいこともありますし、ここで妥協しても、それなりに良い人生が歩めますよ?」


「もうちょっと、なんとかなりません? 俺若くして亡くなったんですよ? 別に上流までいかなくても、中の上くらいで良いんですけど……」


「と、言われましてもね~。今のあなたにオススメできるのは、この辺りが限界でして」


「そこをなんとか……ッ」


 少年は食い下がった。どうせ転生するなら、好条件が良い。


 男は少し考えるそぶりを見せると、ぽん、と手を叩いた。


「……わっかりました! では、こちらをご利用いたしますか?」


 そう言って、男は何やらスマホのような、小さな機械を取り出した。


「何です? それ」


「こちら、『転生ガチャ』になります」


「転生ガチャぁ?」


 怪訝そうに、少年は復唱した。


「はい。死後の世界では近年、リセットマラソン法、通称リセマラ法が可決されまして。それに従った処置がコレなんですよ」


 男は機械の画面を少年に見せ、タップで画面を切り替えていく。


「本来、来世につきましては我々案内所の従業員とお客様で、転生先と課題を相談して相応のものにしていくものです。そもそもバグは魂の許容範囲を越えても起きやすくなるので、来世を決める時は慎重に調整するものなんです。しかし、現在は魂が多くなり処理が忙しくなった割りに、十分に育った魂が増えたわけでもない。ならば、試しに急激な変化による刺激で一発逆転の賭け、バグの危険覚悟の大きな成長を狙ってみるのもありかという上の意向で、近年実装された制度なんです。ハイリスクハイリターンな取り組みですね」


 とある画面で、男の指が止まる。画面には、ソーシャルゲーム、もといソシャゲで見るような、動くガチャポンのイラストが表示されていた。


「人間以外も、確率は低いですが有ります。利用するかどうかはお客様次第。ただし、一度でも利用するとなれば、本来の候補を使う権利は他人のものとなり、お客様本人は利用できなくなります。また、リセマラをするとのことで、候補は最後に出たものしか選択できません。たとえそれまでにより良い候補が出ていたとしても、それは使えません。ちなみに、利用する際はお客様のカルマポイントを元に、利用回数やレアの出現率が変わります。一回三十ポイントですので、矢田様は今生のカルマポイント二百七十ポイント分、九回できますね。享年とカルマポイントからして、三回目までは高レアの出現率が高いです。八回目までもそれなりに良いものを引きやすいですが、残り一回はかなりの賭けですね」


「ちなみに、俺のポイントって他の人に比べて多いんですか? 少ないんですか?」


「やはり早くに亡くなっているので、全体として見れば少なめですが、年齢で見ると多めですね。長生きしたからといって、必ずしも加齢に比例してポイントが多くなるとも限りませんし、転生ガチャを利用するのであれば、これはこれで悪くない結果ですよ」


「そうですか……」


「さあ、どうします?」


「そうですね……」


 少年は資料と機械を見比べ、少し悩む。そして、決意したように顔を上げた。


「お願い、します……!」


「はいかしこまり~」


 ざかーっ、と、男は机に乗せていた資料を片腕で払うように押しのけた。無造作に舞い落ちるそれらを気にも留めず、持っていた機械を少年に渡す。


「それでは、どうぞ」


「……よし、」


 少年は深呼吸し、画面の点滅している部分、ボタンをおそるおそるタップした。



 ――――ガチャガチャ……



 画面の中でイラストが動く。ガチャポンの取っ手が回り、中から丸いカプセルが出てくる。自動的に開いたカプセルから光が放たれ、結果を促すボタンが現れる。


 少年がそれを再びタップすると、まるでソシャゲのカードのような表示で、履歴書のような説明欄が映し出された。


「おめでとうございます! なかなか良い候補が出ましたね。母国の生まれで、そこそこ裕福で円満な家庭の男の子」


「なかなかに良いですね……」


「ええ。先程おっしゃっていた条件そのものです。こちらで決定いたしますか?」


「えっ、いや、う~ん……」


 少年は躊躇し、少し黙った。


「……これより良い条件のも、出ないことはないんですよね?」


「ええ、もちろん。エリートや有名人の子供というオプションがある候補もありますし、富豪の子供や才能を発揮しやすい性質の子供というオプションがある候補もあります」


「じゃあ、次いきます」


「よろしいので?」


「はい。せっかくですから」


 そう言って、少年は再びガチャポンの画面に戻った。



 ――――ガチャガチャ……



「おめでとうございます! ドラゴンですね」


「ドラゴン!?」


 出てきた説明欄と男の言葉に、少年は思わず叫んだ。


「ドラゴ……、えっ、ドラゴン!?」


「こちら、別世界の候補になりますね」


 男は平然と応えた。


「世界越えるんですか!?」


「ええ。最近、どうせなら魂の相互貸し出しもしようという上の意向で、別世界担当の方々とも連携をとっているんですよ。現世でも異世界に行きたいという人が増えているそうですから、転生の条件が合えばWIN――WINですしね」


「マジでか……。ていうか、ドラゴンってレア度どれくらいなんですか?」


「人より上ですね。お気に召しましたか?」


「いや、別のにします」


 人型を求めて、少年は再びタップした。



 ――――ガチャガチャ……



「おめでとうございます! エルフですね」


「また異世界……! ……いや、それはもういいや。人型であれば……って性別女かよ!」


「お気に」


「召すか! ……次、回します」


「よろしいのですか? 次は四回目。レアの出現率が下がりますが……」


「知るか。……なんとかなりますよ」


 荒げていた声を静め、少年は四度目のガチャを回した。



 ――――ガチャガチャ……



「母国の生まれ、普通の男の子ですね」


「う~ん、な~んか物足りないんですよね……」



 ――――ガチャガチャ……



「ミジンコです」


「落差ァ! 却下だ却下、次次!」



 ――――ガチャガチャ……



「猫です」


「持ち直してきた……?」



 ――――ガチャガチャ……



「おめでとうございいます! 母国の生まれ、エリートの親を持つ男の子ですね」


「おお……!」


「こちらになさいますか?」


「……いや、でも、どうせなら異世界で魔法使ったりしてみたいし……ほら、この家族結構厳しくて、子供の頃から習い事しなきゃいけないようだし……。別に異世界なら、魔法さえ使えれば普通の家庭でいいんですよね……」



 ――――ガチャガチャ……



「異世界の生まれで一般的な家庭の男の子、ですが、魔力はほぼ無いようですね」


「ぐぉおお……!」


 ここへ来て、少年は頭を抱えた。


 八回。ここまででもう、八回、ガチャを回したのだ。次は、さらにレアの出現率が下がるのである。


「どうしますか? 次はラスト、九回目。レアの出現率がさらに下がりますし、ここで妥協するのも手ですよ」


「え~、と……」


 少年は考える。


(これで妥協するか? いやでも、四回目からも良いの出てたし、確率が下がってもレアが出ないとは限らない。どうする……!?)


「さあ、どうします?」


「う~ん……」


「さあ!」


「………………………………」




 ――――ガチャガチャ……




          *



 オギャァァ――――


 オギャァァ――――



 とある豪邸にて、その泣き声は上がった。


 母親らしい女性が、パタパタとベビーベッドへと駆け寄る。


「あらあら、ナーシュが泣いてるわ。今度はなぁに?」


 上質なドレスに身を包んだその女性は、若く美しい容貌に優しそうな笑みで、我が子をそっと抱きかかえた。かわいらしいピンクのベビー服が、母親の腕の中でぎこちなく揺れる。


 母親の後から部屋に入ったのは、父親だった。若く柔和な顔つきをし、これまた上質な紳士服を身に纏っている彼は、我が子を覗き込むように二人に近づいた。


 母親は父親の姿を見て、嬉しそうに頬を紅潮させた。


「ミルクじゃないか? もうそろそろだろうと思って、作っていたところなんだ」


 そう言って、父親は手に持っているものを母親に差し出す。


「ほら、これ」


 母親は父親の手に持っているもの――ミルク入りの哺乳瓶を見ると、顔をほころばせた。


「さすがです、ご主人様!」


 思わず、母親は少し前までの呼び方で、父親を称賛した。


「おいおい、その言い方はやめろって言っただろ?」


「だってぇ~、つい」


「ははっ」


 まんざらでもなさそうに、父親は笑った。


「ねえナーシュ。あなたも、ご主人様にしっかり尽くすのよ?」


 幸せそうに、母親は微笑んだ。


「ふふふ」


「ははは」


 赤子の泣き声をBGMに、甘い空気は流れていく――――。



 オギャァァ――――


 オギャァァ――――

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― 新着の感想 ―
[良い点] ……あ! これ、第1話じゃなくて短編なのか! こっから壮大なストーリーになるのかと思いきや、弥陀天成くんの来世はスタートからオチってことですね。 何回もガチャるからだ。 ドラゴンで満…
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