彼の放課後
第一、将来に希望なんて持っていない。目の前にあるのは何やらかんやら書いてある紙切れのみだ。もし、この紙を破いたらどうなるだろう。この紙が(空白恐怖症の漫画家のように内容を埋めて)返ってくることをさも当然のように思っている、自分に希望調査書という名のゴミをくれたヤツは思っているはずだ。だから、ヤツはキレる。第一声は、
「今の子どもは将来の希望がないのかしら」
としよう。そして。へそ曲がりな反抗期真っ盛りの彼は思うだろう。
「希望がない社会を創ったのは誰だよ」
そんなこんなで自分の目の前にあるのは悪い意味できれいな状態の希望調査書。
結局、夢も希望もない自分は残念ながら空白恐怖症の漫画家の気持ちにはなれなかった。
「なーいなぁーんてものがあってさぁー、じぶんとー、まざってー、ふっとーんだ、こぉーこぉーはあー、新世界、新世界、HEY!」
この頃出来たこの町のPR曲だ。とあるきっかけさえあればこの歌を流し出す、役所のバ課長(自分の希望してはハゲの)がいるのだろう。ともかく伴奏まで頭に入っている位の頻度で聞いていた。
確かにココは新世界なのかもしれないが、歌にするのとは話が違うのではないか。芸術面の才能がからきしの自分が言うのも申しわけないような気がするが、作詞が終わっている。
最初聞いた時は、ネタの何かかとオチを期待していた位だ。だが、それを聞いた同居人、即座に、新世界、HEY!とフリをつけてやっていたのをどうしても忘れられない。
結果的に自分の感性が一番おかしいのか。だから、現実逃避をして、人のいい同居人まで悪く言う。やはり、自分が汚いのだ。汚れたゴミ。体を構成する分子の一つ一つが負のオーラを纏っている。
お前の背中は人の指を指す的のような状態だ。
「おいぃ、この金、俺のために入れといてくれたんだろ。借りるぜ」
「返して、くださ、い」
俺は人間のゴミだ。死んだ方がいい。けど、死体を処理してもらうなんてそんな、、、迷惑だ。
「うるせーっよ、」
ボゴン、蹴りがマトモに入る音がした。
ふと、意識を外にやると(やっとの事で)カツアゲされている少年が目に入る。
これを助けずして死ぬなんて、それこそゴミにも、なれない物体になってしまう。
そう思った瞬間、体中に力が入った。三階の教室の窓から飛び出していた。
ドゴン、地面が少し凹んだようだ。
「悪いな、取り込み中だったか」
(地面以下の自分に踏みつけられる地面に今すぐ土下座したい)
すると、いきなり強烈な一撃が迫ってきた。
「邪魔すんじゃねーよ」
「よけてください!」
カツアゲ被害者の悲鳴に近い絶叫がこだまする。
バスッ、次の瞬間カツアゲ被害者は思った。
僕のせいで、僕のせいで、許して
しかし、目の前の光景を見て彼は声を失う。
自分の財布を持った不良が仰向けに倒れていたのだから。そして彼、僕の救世主は堂々と立っていた。
「怪我は大丈夫か」
(話しかけてすいません、殴るなら早めにお願いします)
「ウッ、少しだけ。少ししたら立てるようになると思います」
「手伝おう」
(迷惑なら突き飛ばしてください、お願いします)
そう言って、彼の脇に肩を通して持ち上げた。
「あ、ありがとうございます」
「あと、コレ」
(敬語なのは自分と関わりたくないからなのか)
カツアゲされていた財布を渡すとゆっくりと校舎へ戻る。
「あの、ホントにありがとうございました。」
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