03 仕方のない子
――吉田翔太と山崎愛の場合③――
俺もつくづく甘いやつだな、なんて。
「吉田くん」
隣の席からの声に振り向いてみれば、珍しく神妙な顔をしている山崎さんと目が合った。
「何、お腹すいたの」
「少し」
「はい、チョコ」
「ありがとう! ……違う、そうじゃないの!」
「え、チョコよりグミだった? 今日は持ってない」
「違う、そうじゃない! あのね!」
渡したチョコを握りしめて、山崎さんは勢いよく頭を下げた。
「お願いします、テスト勉強にお付き合いください!」
「えぇぇ」
「昨日! 昨日、私は自分に絶望した!」
「何があったの」
「そろそろテスト勉強しないとなぁー、とか思いながら部屋に入ったら……めっちゃ頑張って掃除しちゃった……!」
「あ、ああ……」
よくあるやつだ。
中学の頃からの友人であるところの坂本も、どちらかというとそのタイプ。
一緒にテスト勉強をするために家に行ったはずが、何故か掃除を手伝わされたことがある。
「掃除だけならまだしも!」
「ま、まだしも?」
「壮大に模様替えまで始めちゃって……今、部屋に足の踏み場もない……!」
「本当に何やってんの」
「だから私、ダメなんだ! 自分の部屋じゃ勉強できないんだ!」
悲壮そうな顔で首をゆるゆると振りながら、山崎さんはチョコの包みを開ける。
……ああ、チョコは食べるんだ。
「だからお願いだよ、どうにか私がちゃんとテスト勉強できるように……もぐもぐ、お導きを……ははぁー」
「チョコを食べながらという点に誠意を感じない」
「ごっくん! お願いします!」
ああ、本当にもう、仕方ない子。
深くため息をついてから、カレンダーを見た。
「じゃあ、土曜日」
「へ」
「平日の放課後はあんまり時間取れないから、土曜日ならいいよ」
そう言って山崎さんの方に向き直れば、ぽかんとした顔でこっちを見ている。
「……何」
「あっ、あああ、ありがとう! ありがとう吉田くん! ははぁー!」
山崎さんはそんなことを言いながら、崇めるように俺に頭を下げた。
「場所は」
「吉田くんの弟くんに会いたい!」
「それだとテスト勉強にならないから図書館ね」
「えぇっ!」
何故か非難の声を上げた山崎さんは、それから俺の顔を見て、がっくりと肩を落とした。
「で、ですよね、調子に乗りました、ごめんなさい」
「弟に会うのはテストが終わった後ね」
「!」
「仕方ないから、一度くらい会わせてあげるよ」
そんなことで彼女に対するご褒美になるのかわからなかったけれど、なんか嬉しそうだから大丈夫そうだ。
「楽しみ!」
嬉しそうに笑う山崎さんにつられて、俺も顔が緩んだ気がした。