02 君は優しい人
――吉田翔太と山崎愛の場合②――
美味しいものをくれるから、だけではないのかもしれない。
「吉田くん、吉田くん」
入学式以来、隣の席の吉田くんは、私の中で『飴の人』になった。
いや、さすがに本人には言ってない。言ったら引かれるか怒られるかだ。
「何、山崎さん、またお腹すいたの」
「うん」
「まったく、毎回毎回何か持ってると思ったら大間違い……チョコあった」
「わー!」
「あげるとは言ってない」
「吉田くん、私お腹空いて次の授業集中できそうにないよ、そうなったら吉田くんの邪魔してやる」
「どうぞ」
「ありがとう吉田くん!!」
すっとチョコレートを差し出してくる吉田くん。
それを受け取って、さっそく口の中に放り込む。
ちょっと苦かった。
「おいしい」
「苦いやつみたいだったけど大丈夫?」
「ん! 大丈夫、美味しいよ!」
「そう」
少しだけ呆れたみたいに笑って、吉田くんは教科書を机に出す。
チョコを食べながらその様子を眺めていたら、吉田くんがこっちを見た。
「何、まだ何か欲しいの?」
「ややや、そういうわけじゃないよ!」
「手に何かついてた?」
きょとんとしながら自分の手を見る吉田くん。
別に何もついていない。
「吉田くんって」
「ん?」
「いつも何かしらお菓子持ってるけど、どうして?」
「あー……弟がさ、出がけに寄越すんだよ」
「弟いるんだ!」
「一応ね。歳が離れてて、今まだ小学生」
「へえー」
吉田くんのお母さんっぽい雰囲気は、弟くんのお世話をしたりしているからだろうか。
「学校来るとき、一緒に家出るんだけどさ」
「うん」
「あいつ、学校にお菓子持って行っちゃダメなのにポケットに入れっぱなしで」
「あはは」
「あいつ、家出てから気付いて焦るからさ。俺が学校で食うからって引き取ってる」
「弟くん、納得するの?」
「これで兄ちゃんの腹が満たせるなら……!とか言いながらくれるよ」
「何その弟くん、可愛いんだけど、ぜひ一度お会いしたいんだけど」
そう言ったら、吉田くんは一瞬びっくりしたような顔で私を見た。
それから、吉田くんは優しげに笑って、口を開く。
「機会があればね」
吉田くんの横顔を見てから、前を向く。
どんな子だろう、吉田くんの弟。
きっと吉田くんに似た、優しい子なんじゃないかなぁ。
「楽しみにしておくね」
「あんまり期待しないでよ」
「えー、学祭とか連れて来てよー」
「来たければ来ると思うよ」
そんな話をしながら、私も教科書を机の上に出す。
次は英語か。そう言えば単語テストがあったような。
「あっ、吉田くん」
「何、単語テストの範囲?」
「そう!」
吉田くんは呆れたようにため息をついてから、教科書を開いた。
「今度は俺に聞かなくても大丈夫にしといてよ」
でも吉田くん、そう言いながら世話を焼いてくれるんだ。
だから私は、吉田くんが隣で本当によかったと思ってるんだ。