04 愛情の向く先
――福田良太と松本百合の場合④――
無機物に負けたのは、悔しいけれど。
「福田先輩! 何だかお久しぶりです、私ですよ!」
いつも通り、福田先輩が引きこもるパソコン室に突撃する放課後。
扉を開けて中に入ったけれど、いつも聞こえてくる先輩の罵声が聞こえない。
「あれ、先輩?」
きょろきょろ、パソコン室内を見回すと、片隅で福田先輩が何やら作業中だった。
集中しているのかなんなのか、私に気付いているのかどうなのか。
「先輩ってばー」
「うるさい、少し黙れ」
「あ、はい」
いつもの罵声とは違う、真剣な声。
思わず素直にうなずいて、両手で口をふさいだ。
「……」
「……」
沈黙に耐えかね、そろりそろりと福田先輩の方へ近づく。
少し離れた場所から福田先輩の手元を覗きこんだら、何やら……難しそうなことをしていた。
「……っし」
小さく声を出して、福田先輩が手に持っていた工具らしきものを何やらスタンドっぽいものに置いた。
それから深く息をついて、くるり、私の方を振り向いた。
「ああ、悪かったな。もう喋っていいぞ」
「ふはっ」
両手を口から離して息をつくと、福田先輩は少し呆れたように笑った。
いつもつっけんどんな福田先輩からは想像もつかない穏やかな表情だ。
思わずもう一度息を止めてしまった。
「息を止めろとは言ってないだろ」
「! つ、ついっ」
慌てて大きく息をしたら、福田先輩は私から目を逸らして、くつくつと楽しそうに笑った。
「おっ、お久しぶりです、先輩!」
「ああ、確かに久しぶりだな。どうした、干されてたのか」
「失礼な! テスト期間中に鈍った分を必死で取り返していたんです!」
「変なところで真面目だな」
そんな話をしながら、福田先輩は机に置いてある物体に視線を落とした。
「ところで先輩、それはなんです?」
「何って、基盤だよ」
「きばん」
「ある伝手でいろいろ部品をもらったんだが、古いブツでな。好奇心で組み立ててる」
「は、はあ」
「最近だったらはんだ付けなんて必要ないんだが」
「そうなんですか」
どうやら満足感に浸っているらしく、福田先輩は見たことないほど機嫌がいい。
「うまく動かしてやれるといいんだけど」
そう言いながらパソコンの基盤を見る福田先輩は、さながら小動物を見守る飼い主のよう。
初めて見る表情に、思わずきゅんきゅんしてしまった。
「さーて、続きだ。お前はさっさと帰れ」
「安定のひどさ!」
私に対しては相変らずの罵詈雑言。
ああ、でもこれでこそ福田先輩!みたいなところはある。
「分かりましたよう、先輩の邪魔をしないように今日はもう行きます」
「ああ、そうしろ」
基盤に視線を落としたまま、福田先輩は追い払うように手を振る。
多少、というか、ものすごく悔しい感じはするのだけれど。
今日は、めったに見られない福田先輩の表情が見られたので、良しとします。




