05 マジヤバいね
――中村大樹と小林美咲の場合⑤――
思った以上に、思った通り。
「梅雨ヤバい、マジあり得ない、マジヤバい」
現在地、図書準備室。
なおも雨が降り続く中、文芸部は今日も活動中。
「それは何、俳句なの」
「『マジ』と『ヤバい』の汎用性マジヤバい」
「ヤバいね」
ぐったりと机に突っ伏す綾乃ちゃんと、ぐったりと椅子の背もたれに寄りかかる由紀ちゃん。
梅雨の湿気のせいか、我々文芸部は全員もれなくやる気がない状態だ。
「そういえば由紀ちゃん、聞いて」
「何、マジヤバいの話の続き?」
「マジヤバいで思い出した話ではある」
「なになにー?」
ぐったりと液状化してしまいそうな態勢で、二人は話を続ける。
なんだかその様子が面白くて、思わず顔が緩んだ。
「うちのクラスに中村くんという生真面目がいるんだけどね」
「げほっごほっ!」
「美咲ちゃんが急にむせた!?」
綾乃ちゃんの口から出た名前に、思わずむせてしまった。
あわただしく起き上がった由紀ちゃんが、あわてて私の背中をさすってくれた。
「ご、ごめん、大丈夫、大丈夫」
「お茶でも買ってこようか?」
「だ、大丈夫! 続けて、続けて」
軽く咳き込んでから、二人に続きを促す。
綾乃ちゃんは少し考えてから、改めて口を開いた。
「えっと、その中村くんがマジヤバいっていう話なんだけど」
「何がどうヤバいの」
「あの人すっごい真面目なのね」
ああ、わかる。
彼はいつもしかめっ面だし、すごく真面目だ。
「この間、勇者たる我がクラスの男子生徒数人が、中村くんに漫画の話をしたんだよ」
「ほうほう」
「中村くんって生真面目だからさ、勧められたら一応読むんだよね」
「うんうん」
「そのあとで、なんて言ったと思う?」
「うーん?」
由紀ちゃんが首を傾げるのを見つつ、想像してみる。
中村くんのことだ。この漫画のどこがどう面白いのか、俺には分からないから分かるように説明してくれ……とかじゃないかな。なんて、さすがの中村くんでもそこまでは言わないか。
「この漫画のどこがどう面白いのか、俺には分からないから分かるように説明してくれ、ってさ」
思った以上に予想通り過ぎて、またむせそうになった。
「真面目にもほどがある」
「男子数人がかりで説明してたんだけど、すぐ質問返されてた。まるで圧迫面接」
「ヤバいな、恐ろしい人だな」
「中村くんマジヤバい」
中村くんに質問攻めにされる男子たち、という構図がものすごく鮮明に想像できてしまって、思わず笑いが込み上げてきた。
でも、それ以上に。
私が彼という人物をこれほど理解していたという事実が、何故かやけに嬉しかった。




