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セイレン党組曲  作者: くつぎ
Case 12~頑固な彼と穏和な彼女~
65/70

05 マジヤバいね

 ――中村大樹と小林美咲の場合⑤――


 思った以上に、思った通り。


「梅雨ヤバい、マジあり得ない、マジヤバい」


 現在地、図書準備室。

 なおも雨が降り続く中、文芸部は今日も活動中。


「それは何、俳句なの」

「『マジ』と『ヤバい』の汎用性マジヤバい」

「ヤバいね」


 ぐったりと机に突っ伏す綾乃ちゃんと、ぐったりと椅子の背もたれに寄りかかる由紀ちゃん。

 梅雨の湿気のせいか、我々文芸部は全員もれなくやる気がない状態だ。


「そういえば由紀ちゃん、聞いて」

「何、マジヤバいの話の続き?」

「マジヤバいで思い出した話ではある」

「なになにー?」


 ぐったりと液状化してしまいそうな態勢で、二人は話を続ける。

 なんだかその様子が面白くて、思わず顔が緩んだ。


「うちのクラスに中村くんという生真面目がいるんだけどね」

「げほっごほっ!」

「美咲ちゃんが急にむせた!?」


 綾乃ちゃんの口から出た名前に、思わずむせてしまった。

 あわただしく起き上がった由紀ちゃんが、あわてて私の背中をさすってくれた。


「ご、ごめん、大丈夫、大丈夫」

「お茶でも買ってこようか?」

「だ、大丈夫! 続けて、続けて」


 軽く咳き込んでから、二人に続きを促す。

 綾乃ちゃんは少し考えてから、改めて口を開いた。


「えっと、その中村くんがマジヤバいっていう話なんだけど」

「何がどうヤバいの」

「あの人すっごい真面目なのね」


 ああ、わかる。

 彼はいつもしかめっ面だし、すごく真面目だ。


「この間、勇者たる我がクラスの男子生徒数人が、中村くんに漫画の話をしたんだよ」

「ほうほう」

「中村くんって生真面目だからさ、勧められたら一応読むんだよね」

「うんうん」

「そのあとで、なんて言ったと思う?」

「うーん?」


 由紀ちゃんが首を傾げるのを見つつ、想像してみる。

 中村くんのことだ。この漫画のどこがどう面白いのか、俺には分からないから分かるように説明してくれ……とかじゃないかな。なんて、さすがの中村くんでもそこまでは言わないか。


「この漫画のどこがどう面白いのか、俺には分からないから分かるように説明してくれ、ってさ」


 思った以上に予想通り過ぎて、またむせそうになった。


「真面目にもほどがある」

「男子数人がかりで説明してたんだけど、すぐ質問返されてた。まるで圧迫面接」

「ヤバいな、恐ろしい人だな」

「中村くんマジヤバい」


 中村くんに質問攻めにされる男子たち、という構図がものすごく鮮明に想像できてしまって、思わず笑いが込み上げてきた。

 でも、それ以上に。


 私が彼という人物をこれほど理解していたという事実が、何故かやけに嬉しかった。



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