04 抑圧する感情
――中村大樹と小林美咲の場合④――
その感情は、俺にはよくわからない。
「中村くんはあんまり笑わないよねぇ」
その日、そんなことを言ってきたのは、隣の席の三浦だった。
それに対して振り向けば、三浦は小さくため息をつく。
「急に何だ」
「あのね、知り合いにいつもニコニコしてて全然表情の変わらない人がいるの」
愚痴るように話し始めた三浦の言葉を聞きながら、考えてみる。
「……俺の知り合いにもいるな、似たようなのが」
「あっ、本当に?」
小林がまさしくそれだ。
いつも困ったように笑った表情ばかり。
「ならぜひ聞いていただきたい」
「何だ」
「その人、私に対して妙に毒舌でね。何かとからかってくるんだよ。今日は転ばないようにねーとか」
「それは三浦が基本的にそそっかしいからじゃないのか」
「そ、それは確かにそうなんだけど、言い方がなんかこう、誠実じゃないっていうか」
「ならからかわれているだけなんだろう」
「ストレート! 相変わらずのストレート!」
わざとらしくため息をついて、三浦はぐったりと机に張り付いた。
液体化しそうだ。
「それはそれとして、なんだけどね」
「何だ」
「ずっとしかめっ面してる中村くんに聞きたいのだけど、ずっと同じ表情してるのって疲れない?」
「……」
はて、俺はずっとしかめっ面をしているんだろうか。
自覚はないが。
……ああ、だが確かに、あまり大げさに笑ったり、大げさに怒ったりはしないか。
「別に、疲れはしない」
「じゃあその、中村くんの知り合いだっていう、表情の変わらない人っていうのは? 疲れないのかなーとか思わない?」
「ん」
いつも困ったように笑っている小林の顔を思い出す。
見るたび、会うたび、いつも困ったように笑っている。
「ああ、それは思うな」
「だよねぇ、やっぱりそう思うよね」
「無理しているようにしか見えないからな」
「そうそ……それを自分に適用しない辺りがさすが中村くんだよね」
呆れたように笑ってから、三浦は深くため息をつく。
「中村くんみたいにずっとしかめっ面なのは、真面目なんだなーって納得できるんだけどさ」
「納得なのか」
「でも、あの人みたいにずっとニコニコ笑ってるのは、なんかこう……」
言葉を探すように、くるくると手を回す三浦。
それからやがて、ぽつり、小さくその答えを導き出した。
「負の感情を全部、ぎゅーって抑え込んじゃってるんじゃないかなって、思っちゃう」
その答えに、腕を組んで考えを巡らせる。
「……何故、そんなことをする必要があるんだろうな」
「何でだろうね?」
いくら考えても、俺にはわかりそうもない。




