03 貴方と相合傘
――中村大樹と小林美咲の場合③――
まさかこんなことになるとは。
「しまった」
テスト前のある日のこと。
部活もお休みなのでまっすぐ家に帰ろうと思ったら、雨が降っていた。
しかもこういう日に限って折り畳み傘を忘れてくるという始末。
「困った」
「どうかしたのか」
「わっ」
声をかけてきたのは、傘を差して玄関先に出ていた中村くん。
いつも通り、ムッとしたような、不機嫌そうな顔をしている。
「や、別に何でもないの、大丈夫」
中村くんに傘を忘れたなどと言ったら、何故忘れたのか、天気予報を見なかったのかなどと小一時間ほど問い詰められそうだ。
ここは何もないという振りをして中村くんに帰っていただいて……。
「傘がないのか」
一瞬でばれた!
「う、うん、でも大丈夫、小降りになるまで待機してから帰るし……!」
「馬鹿なのか。テスト前に風邪を引いたらどうする」
「うっ」
じとっとした中村くんの目に、何も言えなくなってしまう。
「仕方ない」
ふうっとため息をついたと思うと、中村くんは私の目の前まで来て、傘を持ち上げてみせた。
「へ」
いや、これはあれですか、私の認識が間違っていなければ相合傘というやつですか?
それともあれですか、自分は濡れて帰るからこの傘を使えとかそう言うやつですか?
「送っていく。入れ」
あ、相合傘の方でした。
「や、いやいやいや、悪いよ、肩とか濡れちゃう」
「そのくらい大したことじゃない。ここでお前を放っておくほうが精神衛生上よくない」
「せ、精神衛生上……?」
よくわからないが、退く気はないらしい。
意を決して足を踏み出して、中村くんの傘に入る。
その拍子に、腕同士がぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさいっ」
「気にしなくていい」
中村くんは私が傘に収まったことを確認して、歩き出した。
ふと見上げてみると、中村くんは意外と身長が高いということに気付いた。
身長、いくつくらいなんだろう。
「……何だ」
見ていたことに気付かれたらしく、中村くんが怪訝そうな顔で私を見下ろした。
「いやあの、ありがとう。傘、いれてくれて」
「別に、大したことじゃない」
もう一度そう言って、中村くんは前を向いた。
そこで気づいたのだけど、中村くんは私に歩調を合わせてくれているようだ。
それに気づいてしまうと、何故だかやけにドキドキしてしまって。
「あまり離れるなよ、濡れるぞ」
「あ、はいっ、すみません」
思わず距離を取ろうとしたところで、傘からはみ出そうになって、先に釘を刺されてしまった。
「家まで歩いてどのくらいだ」
「15分、くらい……」
え、15分くらいこのまま?
圧迫面接よりいっそ緊張するんですけどどうしよう。




