06 落ち着く場所
――坂本大翔と清水由紀の場合⑥――
君の隣は、居心地がいいようです。
「もう七月だし、そろそろ席替えでもしようか!」
担任の言葉に、教室がにわかに盛り上がった。
ああ、そう言えば確かに、入学してからずっとこの席順のままだ。
ちらりと隣を見ると、坂本くんは机に頬杖をついたまま、ぽかんとした顔で黒板の方を見ていた。
「ってわけで、公正を期すためにくじは先生が作ってきた! 不正はさせん!」
「えー!」
「えーって何だ、やるつもりだったのか!」
「ノリですよ、ノリ!」
教室中が盛り上がる中、担任は黒板に線を書いていく。
時々振り向いては、机を数えて、あっという間に見取り図が出来上がっていく。
それから、それぞれの机にランダムで数字が書かれていく。
「よーし、じゃあ出席番号順……と思ったけど、いつもそれだとつまらないな。逆順で行こう」
「はーい」
出席番号と逆順、最後尾の渡辺くんからくじを引いていく。
さ行の私は中盤より少し後。ずいぶん少なくなってきたくじを引き、中を開いてみた。
十三番。
何とも言えない数字を黒板で確認すると、なんと窓際の後ろから二番目。
とてもラッキーだ。今年の運気を使い果たしたのではないかと思うほど。
「全員引いたなー? 確認したら移動開始!」
机の中身を取り出して、鞄を持つ。
その際に隣を見ると、坂本くんはくじと黒板を交互に見て、難しい顔をしていた。
「あ、由紀ちゃんの席そこ?」
「おっ、後ろは美咲ちゃんかー」
席を移動したら、後ろの席には文芸部仲間の美咲ちゃん。
改めてよろしくねー、何て言っている間に、クラス全員が席に着いた。
何気なく隣を見れば、渡辺くんの姿。
何気に身長が高くてガタイもいい彼が隣にいると、妙な威圧感がある。
そして、斜め後ろには坂本くん。
彼はどこか不機嫌そうな顔をして、じっと渡辺くんの背中を睨んでいた。
「全員座ったな? あ、黒板が見づらいとかあったら言えよー」
「はい、先生! 前の席の渡辺が無駄にデカいせいで黒板がよく見えませーん!」
「おっと、そうか。じゃあ坂本と渡辺は交代だな」
そういった経緯で、隣と斜め後ろが入れ替わる。
「悪いな、渡辺」
「全然!」
そんなことを話しながら私の隣に座った坂本くんは、にっこり、嬉しそうに笑った。
さっきの不機嫌そうな表情が嘘のよう。
「また、よろしくな」
そう言って笑う坂本くんにつられて、顔が緩むのが分かった。
「うん」
不思議だ。
坂本くんが隣に来ると、どこかほっとしている私がいる。